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『カリスマ』の弱点

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シュウはフローラという少女の恐ろしさというのを、何となくだが直感で理解している。従順な後輩から、いつの間にか正妻ポジションにすっぽり収まっている強かなところを肌で感じているからだ。あとたまにぐるぐる目で迫るし。

だが、シュウがルーシエに抱く恐ろしさは、それとは異質なものだ。
何しろ『カリスマ』の能力を使い、命じられれば反射的にそれに応じてしまうからだ。
「結婚してください」「子作りしましょう」「四つん這いになるんだよ」
素面なら間違いなく拒否する命令でも、ルーシエの能力にかかれば否が応でも受け入れてしまう。
ルーシエの能力は肉体への反動が大きいというハンデがあるが、それさえ度外視する覚悟があるのなら、これほど恐ろしい能力はない。
そして、ルーシエが言うには彼女自身は既にその覚悟を済ませているとのこと。


(うぅ・・・どうしたら・・・)


焦るシュウだが、フローラは「フッ」と小ばかにしたように笑い、余裕のある様子で優雅にコーヒーを啜っていた。


「私は『カリスマ』に対して知識があると言いました。ですからそれがどういう能力であるかだけでなく、対策についても十分に理解しているつもりなんですよ?」


「えっ」


能力発動のコストさえ度外視すれば、どのような相手でも従わせることの出来る恐ろしい能力・・・であるはずなのに、フローラはそれに対して対策を知っているという。


(ブラフだわ・・・!)


ルーシエは衰弱して震える体に鞭を入れ、気丈にもその場で自力で立って見せた。
そしてフローラに自分の覚悟が嘘ではないことと、能力の凄さを思い知らせてやるために、何か命じようと口を開こうとする。
ところが


「バインド」


「むぐっ!?」


フローラが人差し指をピッとルーシエに指して魔法を唱えると、一瞬にして白い光が帯状になりルーシエの口に巻かれて猿轡となり、彼女の声を奪った。
『バインド』と呼んだその魔法は聖魔力で猿轡の形作っただけのものだが、それでもルーシエの声を奪うには十分なものであった。


「『カリスマ』は確かに強力な能力です。発動さえしてしまえば魔法によるあらゆる制約よりも優先される厄介なものですが、『声に出して相手に聞かせないといけない』という欠点があるんですよ。声に乗せて相手の脳に働きかける・・・そういう能力ですから」


「むっ・・・!」


フローラの言葉を意味を理解し、ルーシエはハッとする。
声を奪うことによってルーシエは『カリスマ』の発動をいともたやすく封じてしまった。この状態では『命令する』ことが出来ず、ルーシエの『カリスマ』も宝の持ち腐れである。


「後は『カリスマ』を警戒するのなら、『耳を塞ぐ』『声が聞こえづらい距離まで下がる』『より大きな音で相殺する』これで防いだり、効果を弱めることが可能なのです。『カリスマ』とて万能ではないので、使いどころが限られるものなのですよ。対策しづらい分、嗅覚、視覚、聴覚のいずれかからでも支配できるサキュバスの『魅了』の方が、よっぽど恐ろしいものだったりするんですよ」


「む・・・」


ルーシエは自分の能力の有効性を否定されたことで、みるみる意気消沈していったた。
フローラの余裕たっぷりの様子を見るに、『カリスマ』の能力への対策は十分に考えられているようであり、とてもブラフには見えない。


「それがわかれば、もう『カリスマ』などでシュウ様をどうにかしようなどと考えないことです。あまりにくだらないことをするようなら、やむを得ませんから声帯を潰して声を出させ無くしますからね?あと『シュウ様』と呼ぶのも禁止です。キャラがかぶります」


どうあってもフローラを出し抜いてこの場でシュウを強制的に自分の物にすることなど、到底出来そうにないことを悟ってルーシエは悔しさに顔を歪ませた。



「お話を聞いてくださいましたかシュウ様?今度この女が変な命令をしてきそうになったら、即座にルーシエさんの声をかき消すほどの大声を出すか、耳を塞ぐか、距離を取るか、あるいは自分で鼓膜を破ってください。それで防げますから。この女の物になるくらいなら、躊躇している場合ではありませんよ?」


「最後のは絶対にやりませんよぉ?!」
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