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ルーシエの(唐突な)愛

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「私のこの気持ちは、何ががあろうとなかろうと揺らぐこともなければ、遠慮することもありません」


ルーシエが言い放つと、シュウはあまりの唐突な展開に眩暈がしそうになる。

ルーベンス伯爵家の令嬢だった時代、ルーシエには幼い頃から婚約者がいた。
同じ伯爵家の次男で、気の優しい性格である彼とは気が合い、お互い知らぬことはないのではないかと思うほど理解し合え、尊重し合えていた・・・ルーシエはそう考えていた。
そこに愛情があったのかはわからないが、少なくともその令息とは未来の家族としてやっていくことに抵抗はなかったし、家族のそれに近い情は抱いてはいた。

だが、そんな伯爵令息との縁談はバロウが体調を崩し、領地運営に支障をきたすようになってからしばらくして破談となった。
信じていた幼馴染に見切りをつけられたことに対してルーシエは悲しみはしたものの、心境としては恋人に裏切られたというよりも家族に見放された、のほうが近かった。
フローラと歳は変わらないルーシエだが、彼女はまだ恋というものを知らなかったのだ。


そんなルーシエは、ここに来て初めて恋をした。
その相手は・・・趣味が悪いことにシュウである。

不治の病を治療してくれたから?いや、それはきっかけの一つである。
ビビっと来た。直感だった。
シュウがスライム毒の治療したとき、彼の変態っぷりにドン引きし、「この人、本当に大丈夫かいな?」と成り行きに任せたことを後悔したこともあったが、それでもルーシエはシュウに恋をした。

ふざけていた態度を取っているように見えたが、それでもシュウの目はあくまで真剣だったこと。ルーシエを傷つけまいと最大限に気を遣って治療を行っていたこと。
そして後は・・・なんとなく。これらが好きになった理由だった。

ルーシエは治療を終えて目が覚めてから、そんなシュウのことを思い出すたびに胸が熱くなり、動悸が激しくなった。
「吊り橋効果かしら!?」「何か別の感情と勘違いしてないかしら?」「まだ毒に侵されているのかしら?」と、何度も何度も自分の感情を確かめ直そうとしたが、結局シュウに恋をしているのだという結論は変わらない。

これはかつての婚約者相手にすら、ただの一度も抱いたことのない感情だった。
彼が自分から離れたことは悲しいと思ったが、仕方がないと思った。聞き分けることが出来た。

だが、シュウのことだけはどうしても諦めたくない。自分の物にしたいという気持ちが抑えられなくなったのだ。
会ってまだ間もないだとか、そういうのは関係が無かった。
自分でもどうしてかわからないくらい、ルーシエはいつの間にかシュウに夢中になっていたのだ。

シュウは決してモテないわけではない。
むしろ巡りというものだろうか、人を引き寄せる何かがあるのだろうか、様々なことをきっかけにモテている傾向にある。本人が中々気付かないだけだ。

シュウは今回、フローラに次いでこれまたとんでもなく面倒な女を引き寄せてしまった。
これがシュウのその後の運命を大きく狂わす『女難の一つ』となることになるなど、このときのシュウはまだ理解しているはずもなかった。
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