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代償
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「う、うぅ・・・」
倒れたルーシエは、青い顔をしながら突如訪れた眩暈に困惑し、視線を彷徨わせる。
(一体これは・・・)
かつて病床にあったときのように、体の自由が利かない・・・極度の衰弱状態にあった。
フローラは徐に彼女に近づき、そして何故かビシィッとポーズを決めながら偉そうに見下して言う。
「肉体と魔法、能力は密接な関係にあります。先ほど言った要人達の『カリスマ』でさえ、発動したと思われる直後は本人が休憩したり、数日の休養をしているという記録があるのです。他人の精神に影響を与える能力は、それなりの肉体への負荷を必要とします。ルーシエさんほどの強力な『カリスマ』ともなると、その負荷が想像を絶するようなものになることは考えるまでもなくわかることです」
「なっ・・・」
ルーシエがシュウやバフォメット、果てはアモンまで従わせてのには大きな代償があった。それを知ったルーシエとバロウは思わず絶句する。
「そ、そういえば私も昔から人とコミュニケーションを取るとき、やけに疲れていたな・・・もしかしたら自分は潜在的なコミュ障なのかもしれないと思っていたが、あれは私なりの能力の発動の代償だったのか・・・?」
バロウはかつての自分を思い出しながら、ぶつぶつと自問するようにつぶやいた。
「元は神族など高位な精神力と肉体を併せ持った存在が持つ能力を、一介の、それも何の訓練もしていない人間がノーコストで使えるはずがないのです。身の程を弁えるべきでしょう。何も考えずにその能力を使えば、いずれは死に至ることになりますよ」
眼光鋭く、フローラはルーシエを睨みつけながら言う。
「そ、そんな言い方することはないじゃないか!娘は自分の能力のことがわかっていなかったんだ。仕方がないじゃないか」
フローラの厳しい言い様にバロウは思わず抗議するが、彼女は表情を変えるはない。
「知らないなら知らないで慎ましくあればよかったのですけど、ルーシエさんはどうも勘違いしてご自身に『万能感』を持っていらっしゃるように見えましたので」
フローラの言葉にバロウはキョトンとするが、当のルーシエは唇を噛んで俯いた。
ルーシエは『カリスマ』の能力が自分にあると理解してから、徐々に無意識のうちに自分に万能感を抱いていたことを自覚しており、フローラは何となくそれを見抜いていたのだ。
ルーシエはこれまで病床に伏せていただけの取り柄のない弱いはずの自分が、実はどれをも服従させることの出来る能力を持っている事実に酔いしれていた。
「いかに優れた能力を持っていても、自身でそれを制御できないことには無能と変わりありません。そこはどうか勘違いしないように」
フローラの言葉にルーシエは弱弱しくも頷いた。
フローラはシュウの特訓により、聖魔法のレベルを格別に昇華させ、『聖女』にまで成り上がることが出来たことに誇りを持っている。故に、持って生まれた能力に驕り、瞳に怪しい色をにじませたルーシエのことを看過できなかった。だから「ちょっとわからせてやりたい」と思っていたのである。
結果として、ルーシエは本当に能力の代償で衰弱して倒れ、こうして自分が万能でないことを思い知ったのでフローラは溜飲を下げた。
だが、ルーシエが思い知らされるのはそれだけではなかった。
「ちなみに代償のことは別として、それだけ強力な『カリスマ』のあるルーシエさんのことが他人に知られると、かなり面倒なことになると思います。『カリスマ』を持つ者の存在は、それを発端にして戦争が起きたという事例はいくつも記録されているくらいですから、ルーシエさんの場合・・・まぁ、間違いなく大変なことになるでしょう」
フローラが告げる残酷な現実にルーシエとバロウが息を飲む中、シュウは「まぁそうだよな」と思った。
何しろプライドが高そうな上に執念深い面倒くさそうなアモンにまで知られているのだ。今後、絶対にろくなことにならないと考えられる。
自分もそうだが、皆面倒なことに巻き込まれているなぁとシュウはため息をつきながら、珈琲に口をつけた。
「まぁそんなわけですから・・・ルーシエさん、間違ってもシュウ様を能力で手籠めにしてしまおうなどという馬鹿な考えはしないでくださいね?」
最後に付け加えたフローラの言葉に、シュウは口にした珈琲を噴き出した。
倒れたルーシエは、青い顔をしながら突如訪れた眩暈に困惑し、視線を彷徨わせる。
(一体これは・・・)
かつて病床にあったときのように、体の自由が利かない・・・極度の衰弱状態にあった。
フローラは徐に彼女に近づき、そして何故かビシィッとポーズを決めながら偉そうに見下して言う。
「肉体と魔法、能力は密接な関係にあります。先ほど言った要人達の『カリスマ』でさえ、発動したと思われる直後は本人が休憩したり、数日の休養をしているという記録があるのです。他人の精神に影響を与える能力は、それなりの肉体への負荷を必要とします。ルーシエさんほどの強力な『カリスマ』ともなると、その負荷が想像を絶するようなものになることは考えるまでもなくわかることです」
「なっ・・・」
ルーシエがシュウやバフォメット、果てはアモンまで従わせてのには大きな代償があった。それを知ったルーシエとバロウは思わず絶句する。
「そ、そういえば私も昔から人とコミュニケーションを取るとき、やけに疲れていたな・・・もしかしたら自分は潜在的なコミュ障なのかもしれないと思っていたが、あれは私なりの能力の発動の代償だったのか・・・?」
バロウはかつての自分を思い出しながら、ぶつぶつと自問するようにつぶやいた。
「元は神族など高位な精神力と肉体を併せ持った存在が持つ能力を、一介の、それも何の訓練もしていない人間がノーコストで使えるはずがないのです。身の程を弁えるべきでしょう。何も考えずにその能力を使えば、いずれは死に至ることになりますよ」
眼光鋭く、フローラはルーシエを睨みつけながら言う。
「そ、そんな言い方することはないじゃないか!娘は自分の能力のことがわかっていなかったんだ。仕方がないじゃないか」
フローラの厳しい言い様にバロウは思わず抗議するが、彼女は表情を変えるはない。
「知らないなら知らないで慎ましくあればよかったのですけど、ルーシエさんはどうも勘違いしてご自身に『万能感』を持っていらっしゃるように見えましたので」
フローラの言葉にバロウはキョトンとするが、当のルーシエは唇を噛んで俯いた。
ルーシエは『カリスマ』の能力が自分にあると理解してから、徐々に無意識のうちに自分に万能感を抱いていたことを自覚しており、フローラは何となくそれを見抜いていたのだ。
ルーシエはこれまで病床に伏せていただけの取り柄のない弱いはずの自分が、実はどれをも服従させることの出来る能力を持っている事実に酔いしれていた。
「いかに優れた能力を持っていても、自身でそれを制御できないことには無能と変わりありません。そこはどうか勘違いしないように」
フローラの言葉にルーシエは弱弱しくも頷いた。
フローラはシュウの特訓により、聖魔法のレベルを格別に昇華させ、『聖女』にまで成り上がることが出来たことに誇りを持っている。故に、持って生まれた能力に驕り、瞳に怪しい色をにじませたルーシエのことを看過できなかった。だから「ちょっとわからせてやりたい」と思っていたのである。
結果として、ルーシエは本当に能力の代償で衰弱して倒れ、こうして自分が万能でないことを思い知ったのでフローラは溜飲を下げた。
だが、ルーシエが思い知らされるのはそれだけではなかった。
「ちなみに代償のことは別として、それだけ強力な『カリスマ』のあるルーシエさんのことが他人に知られると、かなり面倒なことになると思います。『カリスマ』を持つ者の存在は、それを発端にして戦争が起きたという事例はいくつも記録されているくらいですから、ルーシエさんの場合・・・まぁ、間違いなく大変なことになるでしょう」
フローラが告げる残酷な現実にルーシエとバロウが息を飲む中、シュウは「まぁそうだよな」と思った。
何しろプライドが高そうな上に執念深い面倒くさそうなアモンにまで知られているのだ。今後、絶対にろくなことにならないと考えられる。
自分もそうだが、皆面倒なことに巻き込まれているなぁとシュウはため息をつきながら、珈琲に口をつけた。
「まぁそんなわけですから・・・ルーシエさん、間違ってもシュウ様を能力で手籠めにしてしまおうなどという馬鹿な考えはしないでくださいね?」
最後に付け加えたフローラの言葉に、シュウは口にした珈琲を噴き出した。
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