上 下
155 / 456

決着・・・?

しおりを挟む
ルーシエに名を問われ、つい答えてしまって恥をかいてしまったので癇癪を起こして皆殺し。それまで振る舞っていた大物っぽい態度の割に実に小者くさい精神構造だが、それでもアモンの持つ力だけは本物であることをシュウは悟っている。

(間違いなく、ここで殺される)

それがわかっているだけに、シュウは構えを解かなかった。どうせ殺されてしまうのなら、最後まで抗わなければならないとばかりに体が闘争を放棄しなかった。


「まずはお前だ。余所に意識を向けている間に、本気で逃げられたら面倒だからな」


アモンがそう言ってシュウに向けて歩みもうとした瞬間、シュウが最後の勝負に出た。


「む?」


シュウが手から光を発したかと思うと、それをアモンに向けて打ちだしたのだ。
セイントショットと呼ばれる、聖の魔力を凝縮した単純な攻撃魔法である。低位の魔法であり、そこまで強力なものではないが、シュウの鍛錬されたソレは通常のものの何倍もの威力があった。
聖の属性を嫌う魔人ではまともに当たればタダでは済まない。しかし、それでもアモンはそれを正面から難なく手で弾いて見せた。

だが、それはあくまで目晦ましである。
アモンがセイントショットに意識を向けている間に、シュウは既にアモンへ次の攻撃を入っていた。
聖魔力を全身に纏い、魔人にしてみれば全身凶器と化したと言えるシュウ。
これから捨て身のラッシュを仕掛け、一発でも当たれば糸口になるかもしれないと、シュウは決死の特攻を仕掛けた。


(これが駄目なら私は終わりだッ)


シュウの魔力は枯渇しかかっている。この攻撃が終わる頃には、小さな切り傷一つ治せるかどうかの魔力しか残らない。つまりは実質的に戦闘不能状態となるに近かった。

だが、出し惜しみをしてはアモンに嬲り殺されるだけ。
アモンはシュウがこれまで出会った中でも最強の部類に入る相手だと直感した。
聖女であるフローラの強大な力がこの場にあったとしても、高度なレベルの戦闘経験に欠いている彼女では勝率を上げるのは難しい。
シュウにはここで勝負を仕掛けるしかなかったのだ。

シュウが仕掛けたのは、拳による連続攻撃。
威力よりも速さに重点を置いた攻撃。例え初撃が弾かれたところで、次から次へと繰り出される拳は、いずれはアモンの体に打ち込めるかもしれない---シュウはそう思っていた。


「いいぞぉ」


シュウが打ち込もうとした刹那、アモンの口がそう言ったように動いた気がした。
アモンは腰を低くし、シュウと同じように徒手空拳での応戦の構えを見せている。

(不意打ちは失敗か!)

そう上手くいくはずもないよな、とシュウは思いつつももう攻撃モーションに入ってしまっているので止められない。

アモンからは今度こそ間違いなくシュウの命を奪おうと言う気迫があった。
シュウが攻撃を仕掛けたが最後、カウンター気味に必殺の一撃が入る--- シュウはそう直感したが、それでも勝負に出た。

(死ぬか?これは)

それは走馬灯のようなものだろうか。
一秒にも満たぬ時間の合間だというのに、シュウの脳裏にフローラの顔が浮かんだ。自分が死ねば悲しむだろうか?その前に怒るだろうか?いずれにせよ、アモンに見つかれば殺される。
それだけが気がかりに感じられた。

こんなことなら、バフォメット達のことなぞ放っておけばよかった。そうすればこんなことに巻き込まれなくて済んだ。
いや、もっと言うならルーシエが余計なことをしなければアモンは気が変わらずに殺されることにもならなかったのでは?ルーシエが悪いじゃん!

余裕があったのかフローラのこと以外に、余計なことまで考えてしまうシュウ。
そしてついにシュウとアモンの決着がつこうとした、その時・・・


「アモンさん!まだ質問があります!大人しくしていてください!!」


またもや場違いなルーシエの叫びが響いたかと思うと


「ぶべっ!?」


途端に体が硬直し動かなくなったアモンは、シュウの攻撃になんら抵抗することが出来ずに、そのままもろに顔面に拳を浴びることになった。


「え?」


最も驚いたのはシュウである。
応戦されると思いながら打ち込んだ拳が、なんの抵抗もなく受け入れられてしまったのだから。

ダンッ!ごろごろ・・・

シュウの一撃を受けたアモンは、そのまま床に叩きつけられ、受け身を取ることすらなく無様に地面を転がった。


死~~~~ん


その場にいた誰もが沈黙し、微妙な空気が流れる。
ルーシエの一喝により、明らかに状態が変わったアモン。ルーシエの持つ特殊な能力が、アモンの戦闘体勢すら解かせてしまったことに、数秒してシュウはようやく気が付いた。


「あ・・・何かすみません」


ズルをして勝ってしまったような気まずさが湧いてきて、シュウは何となく床に横たわるアモンに謝っていた。
そして、大事なことに気が付いた。


「ルーシエさんに任せておけば、どうやら場は収まりそうです・・・ね?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...