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自白中
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「『魔族共生派』のルーベンス伯爵家は、ある派閥に警戒されていました。そして彼らの命令で動向の監視のためにと、私とバフォメットが送り込まれたのです。それから『共生派』の勢いが増したことでいよいよ伯爵は脅威とみなされるようになり、新開発のスライムの実験を兼ね、失脚してもらう必要があったのです。そして私達は上の命令通り、スライムをお嬢様と旦那様のお食事に混ぜて潜ませました」
ジャヒーは何やら虚ろな目をしながら、ルーシエの質問に答える形で淡々と衝撃的な事実を語っていく。
「じゃ、ジャヒー・・・お前、話してしまうなんて・・・何をやっているのかわかっているのか?なんてことを・・・」
それを聞いているバフォメットが「う~ん」と唸って泡を吹いた。その様子を見るにジャヒーの言っている内容に嘘は無さそうである。
「お、おいこれ・・・」
「私達が聞いて良い内容なのかしら・・・」
「なんかすごいこと言ってるような・・・」
周囲で話を聞いていた使用人達は、自分達がとんでもない話を聞いてしまっていることに気付き始めて騒めく。
バロウは顔面を蒼白させ体を震わせているが、今はまだ話を聞くことに集中することに決めたのか、何も言葉を発することは無い。
裏切られた、自分が狙われていた、人間と魔族の合作のスライムが自分に使われた?などなど、言いたいこと聞きたいことが山ほどある、様々な思考が彼の頭の中を渦巻いているのだろうが、まずは冷静に話を聞くことに徹するところは、あの娘にしてこの親ありの胆力だとシュウは思った。
「狙い通り旦那様はスライム毒により、怪しまれることなく体調を崩し、伯爵として執務を執り行えなくなり爵位を返上なさいました。お嬢様も婚約者から婚約破棄され、後継についても絶望的になり、これにより『共生派』の勢いは大きく失速。我々の当初の目的は果たしました」
「貴方たちに命令した派閥というのは。『魔族殲滅派』のこと?」
「違います。人間と魔族の争いを出来るだけ長く引き伸ばすことで得をする、決着も和睦も望まぬ考えを持つ派閥です。『戦争維持派』と呼ばれることもあります」
(『戦争維持派』・・・)
ジャヒーの言った『戦争維持派』の名を聞いて、シュウは眉を顰めた。
『戦争維持派』は殲滅派の過激派すら生ぬるいと言われるほどの、超がつく危険集団だ。『日和見』でも『中立』でもなく、単純に人類と魔族の『戦争状態を維持』することを願っているからである。
魔族に対するスタンスは、少なくとも帝国ではある程度の自由が許されている。過激な殲滅派も、共生派も、一般人から訝しむ目で見られることはあっても弾圧されることはない。
だが、『戦争維持派』だけは例外だった。
戦争状態を維持することで利益を得たい、単純に人間と魔族の殺し合いが見たい、世界から全ての生物は消えるべき、などなど理由は様々だが、とにかく彼らは人類と魔族の戦いが終わることを良しとしない。人類からも魔族からも疎まれる存在、それが彼らだ。
『戦争維持派』は目的のために殲滅派、共生派両者の活動を妨害して回るというイカれっぷりであり、殲滅派からも共生派からも敵視されていた。
『人類の敵』と言っても良い彼らは、帝国でも弾圧の対象であり、彼らの殲滅のために騎士が投入されるくらいである。
実際、シュウも冒険者として生活していた頃、冒険者ギルドの依頼で『戦争維持派のアジト殲滅』というものを何度か受けたことがあった。
そして逆に、殲滅派のホープとして活躍する『光の戦士達』が『戦争維持派』の手に者によって襲撃されたこともある。
故に『戦争維持派』はシュウにとっても敵と言える存在だった。
「『戦争維持派』はスライムを使って自分達の活動を害する世界の邪魔な要人を暗殺する予定なのです。お嬢様方でテストした結果次第で、本格的に運用される予定でした」
どよ・・・とその場にいた者達は騒めいた。
スライム毒によってバロウ達が苦しみ続けてきたことは皆が知っている。そのスライムが『戦争維持派』に害する者全てを排除するために使われるとなれば、例えば『戦争維持派』の殲滅を進めている皇帝の暗殺を始めとして、世界に多大な影響を与えるような事態が起こることになるだろうことが予想されたからだ。
(そりゃ駄目ですね・・・スローライフどころではないではないですか)
首を突っ込みたくはないが、かといって無視をしていればスローライフも叶わない。シュウは大きく溜め息をついた。
ジャヒーは何やら虚ろな目をしながら、ルーシエの質問に答える形で淡々と衝撃的な事実を語っていく。
「じゃ、ジャヒー・・・お前、話してしまうなんて・・・何をやっているのかわかっているのか?なんてことを・・・」
それを聞いているバフォメットが「う~ん」と唸って泡を吹いた。その様子を見るにジャヒーの言っている内容に嘘は無さそうである。
「お、おいこれ・・・」
「私達が聞いて良い内容なのかしら・・・」
「なんかすごいこと言ってるような・・・」
周囲で話を聞いていた使用人達は、自分達がとんでもない話を聞いてしまっていることに気付き始めて騒めく。
バロウは顔面を蒼白させ体を震わせているが、今はまだ話を聞くことに集中することに決めたのか、何も言葉を発することは無い。
裏切られた、自分が狙われていた、人間と魔族の合作のスライムが自分に使われた?などなど、言いたいこと聞きたいことが山ほどある、様々な思考が彼の頭の中を渦巻いているのだろうが、まずは冷静に話を聞くことに徹するところは、あの娘にしてこの親ありの胆力だとシュウは思った。
「狙い通り旦那様はスライム毒により、怪しまれることなく体調を崩し、伯爵として執務を執り行えなくなり爵位を返上なさいました。お嬢様も婚約者から婚約破棄され、後継についても絶望的になり、これにより『共生派』の勢いは大きく失速。我々の当初の目的は果たしました」
「貴方たちに命令した派閥というのは。『魔族殲滅派』のこと?」
「違います。人間と魔族の争いを出来るだけ長く引き伸ばすことで得をする、決着も和睦も望まぬ考えを持つ派閥です。『戦争維持派』と呼ばれることもあります」
(『戦争維持派』・・・)
ジャヒーの言った『戦争維持派』の名を聞いて、シュウは眉を顰めた。
『戦争維持派』は殲滅派の過激派すら生ぬるいと言われるほどの、超がつく危険集団だ。『日和見』でも『中立』でもなく、単純に人類と魔族の『戦争状態を維持』することを願っているからである。
魔族に対するスタンスは、少なくとも帝国ではある程度の自由が許されている。過激な殲滅派も、共生派も、一般人から訝しむ目で見られることはあっても弾圧されることはない。
だが、『戦争維持派』だけは例外だった。
戦争状態を維持することで利益を得たい、単純に人間と魔族の殺し合いが見たい、世界から全ての生物は消えるべき、などなど理由は様々だが、とにかく彼らは人類と魔族の戦いが終わることを良しとしない。人類からも魔族からも疎まれる存在、それが彼らだ。
『戦争維持派』は目的のために殲滅派、共生派両者の活動を妨害して回るというイカれっぷりであり、殲滅派からも共生派からも敵視されていた。
『人類の敵』と言っても良い彼らは、帝国でも弾圧の対象であり、彼らの殲滅のために騎士が投入されるくらいである。
実際、シュウも冒険者として生活していた頃、冒険者ギルドの依頼で『戦争維持派のアジト殲滅』というものを何度か受けたことがあった。
そして逆に、殲滅派のホープとして活躍する『光の戦士達』が『戦争維持派』の手に者によって襲撃されたこともある。
故に『戦争維持派』はシュウにとっても敵と言える存在だった。
「『戦争維持派』はスライムを使って自分達の活動を害する世界の邪魔な要人を暗殺する予定なのです。お嬢様方でテストした結果次第で、本格的に運用される予定でした」
どよ・・・とその場にいた者達は騒めいた。
スライム毒によってバロウ達が苦しみ続けてきたことは皆が知っている。そのスライムが『戦争維持派』に害する者全てを排除するために使われるとなれば、例えば『戦争維持派』の殲滅を進めている皇帝の暗殺を始めとして、世界に多大な影響を与えるような事態が起こることになるだろうことが予想されたからだ。
(そりゃ駄目ですね・・・スローライフどころではないではないですか)
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