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驚愕中

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(ば・・・馬鹿な・・・!)


シュウは戦慄した。
ルーシエに「手を出すな」と言われ、視線で射貫かれただけでシュウは彼女に言われるがまま、本当に歩みを止めてしまった。
しかしそれだけではない。


「私が話を終えるまで、そのまま動かないでください!」


ビシッ


ルーシエに一睨みされながらそう続けられると、シュウの体にまるで雷に打たれたかのような衝動が走り、それからはどれだけ「動け」と念じようとも、ピクリとも動かなくなってしまった。


(は?金縛りナンデ!?)


それは「強めに言われてしまい、つい反射的に」などというものではなかった。
体が勝手にルーシエの言うことに従うかのように、シュウの意志を無視して動きを止めてしまったのだ。そしてシュウが動きを止めてから数秒が経過した今も、彼は体が自分の意志で動かせないことに驚愕していた。


(言霊使い?いや、これはそんなものではないな・・・)


シュウは自分の体に起こったことについて仮説を立てようとするが、どれもしっくりこない。
世には『言霊使い』と呼ぶ、言った言葉を現実に影響させる能力を持つ者が存在する。人に強制的に言う事を聞かせて操ったり、体調不良を誘発したりと奇怪な能力を持つが、その能力は特段大きな事件を起こすことも、成果を上げることもないだけにあくまで世間ではマイナーである。

シュウは『光の戦士達』として旅をしている最中に、一度だけその『言霊使い』に出会い、その能力を見たことがあるが、今シュウが実感しているそれとは違うものだった。
言霊使いの能力は確かに奇怪であるが、かける対象の精神力が強ければそう簡単には作用しないことをシュウは確認していた。
『光の戦士達』の一員として、後衛ながらも長らく活躍し、いっぱしの冒険者以上の力をつけたシュウの動きを制止するだけの力はないはずなのだ。


(言霊使いのそれとは比較にならないほどの強制力。これは一体・・・)


シュウは自分の体が動かなくなった理由がルーシエによるものだとは確信していたが、一体どうしてそんなことになったのかは理解出来なかった。
冒険者として旅をしていたとき、あらゆる毒や行動阻害魔法を経験してきたシュウだったが、今の彼に起きているのはそれらのどれでも無かった、全く未体験のものだ。

体が拘束されているのではなく、体が動くことを『禁止』されている。
そしてそれは恐らくルーシエの命令のみによって『解除』される。
シュウには何となくそんな予感があった。
これは自分がまだ出会ったことのない、未知で強力な能力によるものなのだろうと考えた。


「うっ・・・」


そんなこんなでシュウが動けないでいる中、ジャヒーが意識を取り戻したのか呻き声を上げ、目を開けた。ゆっくりながらも、時間を置いたことでシュウが与えたダメージが癒されたからである。


「ジャヒー。貴方に聞きたいことがあるわ」


ジャヒーが意識を取り戻したことに安堵した表情を浮かべながらも、ルーシエはジャヒーの肩を抱きながら正面から顔を見据え、重苦しい口調で問う。


「貴方とバフォメットは、本当に私とお父様に毒のスライムを仕込んだの?」


「はい」


ルーシエの質問に対し、ジャヒーはあっさりとそう答えた。
これ自体は既にシュウ達も知っていることなので、内容そのものは驚くことではないが、しかしジャヒーの態度には疑問があった。
どこかぼーっとしているようで、無意識のうちに答えたかのような、そんな印象を受けたのだ。
先ほどまでのジャヒーの態度であれば、この質問に答えるにしてももう少しバツが悪そうに、躊躇うように答えそうなものだとシュウは思っていた。
しかし今のジャヒーにそんな様子は見られない。一体どうしたというのか?と、もし今シュウの体が自由なら、彼は首を傾げていただろう。


「そう、それは本当なのね。それじゃあ、次の質問よ」


ルーシエはジャヒーからの返答に僅かにショックを受けたようだったが、それでも気丈に次の質問に取り掛かっていた。


「どうしてそんなことをしたの?」


回答を渋っていた、核心に迫る質問。
シュウが想定する『箝口の制約』がなっていると思われる内容で、例えルーシエが問うたとしても答えるはずのに質問だった。

だが


「はい、それはスライムの実験のためなのです」


と、あまりに拍子抜けし過ぎるほど容易く、ジャヒーはあっさりと口を割った。

「は?」

さっきまでのやり取りは一体なんだったのだろうと、誰もが唖然とした。
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