上 下
146 / 464

乱入中

しおりを挟む
「こ、殺すだと・・・?」


シュウの言葉に、バロウ達屋敷の者達は息を飲む。


「ええ、頃合いになりましたから」


シュウはそんな彼らの様子など気にする様子もなく、笑みを浮かべたまま言った。


「頃合い・・・?」


「魔人はとにかくタフなのです。首の骨を折っても再生してしまうほどにね。私は見ての通り武器を持たぬ身ですので、魔人を完全に仕留めるには骨が折れます。生命力を削って再生能力を低下させておかないと、再生して息を吹き返してしまうのですよ」


ほら、ごらんくださいとシュウが倒れているジャヒーに指を指す。
ジャヒーの顔はシュウによる執拗な攻撃の跡が十数カ所ほど存在したが・・・


「む・・・?」


見てられないと苦々しい表情でそれを見ていたバロウは、あることに気付いて眉を顰める。
シュウがもっと徹底的にジャヒーに対して攻撃を加えていたはずだった。それこそ言葉通り顔の形が変わるほどに。
だが、今のジャヒーは確かに痛々しいほどの怪我を負っているものの、思っていたよりはずっと軽い怪我の程度で済んでいるようであった。


「魔人の怪我は恐ろしいほどの速さで回復します。彼らが万全なうちは私ではのです。これまで彼らを痛めつけていたのは、決して趣味だとかストレス解消だとか暴れたかっただとかそういうのではなく、彼らをきちんと仕留めるためだったわけです」


明らかに暴れたがっていたように見えたのだが・・・と懐疑的な目がシュウに向けられる。

実際のところシュウがあれだけ執拗にバフォメット達を痛めつけていたのは暴力への衝動も無かったわけではない。だが、それ以上にシュウには彼らに対して一撃で屠れるような力を持っていないのも事実であった。

シュウの格闘術は確かに洗練され、人並み外れた力を持っている。
元より格闘術に長けてはいたが、世界最強とされる『光の戦士達』に属して危険な冒険を繰り返し、死線を潜り抜けてきただけあって技術は磨かれ、肉体は強靭となった。
手刀で岩を割くことも出来れば、蹴りは鋼鉄の鎧をもへし曲げる。
「お前のような神官がいるか」と何度も他の冒険者から言われてきたほどだが、魔族の中でも上位に位置する強力な魔物相手となると、どうしても武器を持たぬシュウの攻撃は効きが悪い。分厚い皮膚、体毛、脂肪、甲殻に阻まれ、ろくに有効打を与えることが出来ないことも多々あった。

相手の弱点を探り、そこを突くのがシュウの得意技ではあったが、それでも初見の魔物を相手にそれを見つけて突くのは難しい。
どれだけ相手の攻撃を躱し、手数で勝っても、力押しでのであれば意味がない。
これがシュウが『光の戦士達』を追放され、彼自身もそれを受け入れた理由である。

バフォメット達は魔族の中でも上位というわけではないが、それでも魔人という存在の再生能力が高いのは事実。シュウの攻撃では、彼らを一撃で仕留めることは出来なかった。
再生を繰り返させ、生命力を削りに削って再生が追い付かない状態にまでさせないといけなかったのである。

バロウはシュウに言われて改めてバフォメット達を見ると、彼らは再生していないように見えた。再生が止まるほど弱っている状態・・・これがシュウの言う『頃合い』なのだろうと理解する。

だが、理解したからといって納得するのとはまだ別だった。


「貴方は、聖神教会に属していたと言っていた。服装からしても、恐らく神官なのだろう?ならば無暗に殺生などするべきではないんじゃないか?どうか、今少しバフォメット達に時間をくれないか?どうにか話をして見せるから」


バロウは食い下がった。
傷の回復をしていないバフォメット達は、シュウの言っている通りなら『瀕死の状態』だ。今まさに命を失おうとしている彼らを見て、バロウはどうしても踏ん切りがつかなかった。


「残念ですが、私はとんだ生臭坊主でしてね。いっぱしの神官の矜持など持っていないのです。まぁ、最も既に追放されて神官ですらありませんが、何にせよ却下です」


シュウはにこやかにバロウの願いをあっさり一蹴する。


「あぁ、そりゃそうだろうな」と、バロウ護衛のために消火活動に行かずに残った一部の男衆は納得した。神官としての矜持が1ミリでもあるのなら、今の自分達の手足が折られるなどといったような惨状はないのだから。
神官は神官でも邪神に仕える者のはずだと。


「それにね。恐らくですが、彼らには『箝口の制約』がかけられていると思われます」


「かんこうのせいやく・・・?なんだそれは・・・」


聞いたことのないものに、バロウは首を傾げる。


「『箝口の制約』とは、極秘の案件に関し、対象に他言をしないよう制約を強いる一種の魂の契約のようなものです。これを破り他言しようとすれば、迎えるのは死です。高位魔族が口封じに良く使うものですが、人間界でも一部で使われていますよ」


「バフォメット達がそうだと言うのか!?」


「あくまで可能性の話ですが、恐らくそうなのではないかと思われます。ですから口を割らないのです」


「そんな・・・なんとかならないのか?」


「こればかりはなんとも。『箝口の制約』を力づくで解消する方法を私は知りません」


バロウは絶望で膝をつく。
実際、シュウの言う通りバフォメット達には『箝口の制約』がかけられていた。だから彼らはバロウ達にスライムを使った事情について話すことが出来なかったのだ。


「さて、『箝口の制約』を使うほどの重大な案件であるかもしれない以上、彼らのバックには極めて巨大で危険な存在が控えている可能性があります。長らく彼らを生かしておけば、後々何かしらトラブルを引き寄せかねません。もうここで始末してしまいます」


もう既にかなり遠ざかってしまってはいるが、シュウの目的はスローライフである。それを阻害する芽はさっさと摘んでしまいたかったので、彼は本気でバフォメット達の始末をつけようと拳を握りこんだ。
この拳を彼らの頭部に叩き込んでそれで終わり、とシュウは考える。

そのときだった。


「ちょっと待ってください!今何が起きているのか教えてください!!」


息を切らしながら、ルーシエが姿を現した。
「また同じことを説明しなきゃいけないの?」という、本当に微妙なタイミングでの乱入である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...