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乱入中
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「こ、殺すだと・・・?」
シュウの言葉に、バロウ達屋敷の者達は息を飲む。
「ええ、頃合いになりましたから」
シュウはそんな彼らの様子など気にする様子もなく、笑みを浮かべたまま言った。
「頃合い・・・?」
「魔人はとにかくタフなのです。首の骨を折っても再生してしまうほどにね。私は見ての通り武器を持たぬ身ですので、魔人を完全に仕留めるには骨が折れます。生命力を削って再生能力を低下させておかないと、再生して息を吹き返してしまうのですよ」
ほら、ごらんくださいとシュウが倒れているジャヒーに指を指す。
ジャヒーの顔はシュウによる執拗な攻撃の跡が十数カ所ほど存在したが・・・
「む・・・?」
見てられないと苦々しい表情でそれを見ていたバロウは、あることに気付いて眉を顰める。
シュウがもっと徹底的にジャヒーに対して攻撃を加えていたはずだった。それこそ言葉通り顔の形が変わるほどに。
だが、今のジャヒーは確かに痛々しいほどの怪我を負っているものの、思っていたよりはずっと軽い怪我の程度で済んでいるようであった。
「魔人の怪我は恐ろしいほどの速さで回復します。彼らが万全なうちは私では殺しきれないのです。これまで彼らを痛めつけていたのは、決して趣味だとかストレス解消だとか暴れたかっただとかそういうのではなく、彼らをきちんと仕留めるためだったわけです」
明らかに暴れたがっていたように見えたのだが・・・と懐疑的な目がシュウに向けられる。
実際のところシュウがあれだけ執拗にバフォメット達を痛めつけていたのは暴力への衝動も無かったわけではない。だが、それ以上にシュウには彼らに対して一撃で屠れるような力を持っていないのも事実であった。
シュウの格闘術は確かに洗練され、人並み外れた力を持っている。
元より格闘術に長けてはいたが、世界最強とされる『光の戦士達』に属して危険な冒険を繰り返し、死線を潜り抜けてきただけあって技術は磨かれ、肉体は強靭となった。
手刀で岩を割くことも出来れば、蹴りは鋼鉄の鎧をもへし曲げる。
「お前のような神官がいるか」と何度も他の冒険者から言われてきたほどだが、魔族の中でも上位に位置する強力な魔物相手となると、どうしても武器を持たぬシュウの攻撃は効きが悪い。分厚い皮膚、体毛、脂肪、甲殻に阻まれ、ろくに有効打を与えることが出来ないことも多々あった。
相手の弱点を探り、そこを突くのがシュウの得意技ではあったが、それでも初見の魔物を相手にそれを見つけて突くのは難しい。
どれだけ相手の攻撃を躱し、手数で勝っても、力押しで倒しきれないのであれば意味がない。
これがシュウが『光の戦士達』を追放され、彼自身もそれを受け入れた理由である。
バフォメット達は魔族の中でも上位というわけではないが、それでも魔人という存在の再生能力が高いのは事実。シュウの攻撃では、彼らを一撃で仕留めることは出来なかった。
再生を繰り返させ、生命力を削りに削って再生が追い付かない状態にまでさせないといけなかったのである。
バロウはシュウに言われて改めてバフォメット達を見ると、彼らは再生していないように見えた。再生が止まるほど弱っている状態・・・これがシュウの言う『頃合い』なのだろうと理解する。
だが、理解したからといって納得するのとはまだ別だった。
「貴方は、聖神教会に属していたと言っていた。服装からしても、恐らく神官なのだろう?ならば無暗に殺生などするべきではないんじゃないか?どうか、今少しバフォメット達に時間をくれないか?どうにか話をして見せるから」
バロウは食い下がった。
傷の回復をしていないバフォメット達は、シュウの言っている通りなら『瀕死の状態』だ。今まさに命を失おうとしている彼らを見て、バロウはどうしても踏ん切りがつかなかった。
「残念ですが、私はとんだ生臭坊主でしてね。いっぱしの神官の矜持など持っていないのです。まぁ、最も既に追放されて神官ですらありませんが、何にせよ却下です」
シュウはにこやかにバロウの願いをあっさり一蹴する。
「あぁ、そりゃそうだろうな」と、バロウ護衛のために消火活動に行かずに残った一部の男衆は納得した。神官としての矜持が1ミリでもあるのなら、今の自分達の手足が折られるなどといったような惨状はないのだから。
神官は神官でも邪神に仕える者のはずだと。
「それにね。恐らくですが、彼らには『箝口の制約』がかけられていると思われます」
「かんこうのせいやく・・・?なんだそれは・・・」
聞いたことのないものに、バロウは首を傾げる。
「『箝口の制約』とは、極秘の案件に関し、対象に他言をしないよう制約を強いる一種の魂の契約のようなものです。これを破り他言しようとすれば、迎えるのは死です。高位魔族が口封じに良く使うものですが、人間界でも一部で使われていますよ」
「バフォメット達がそうだと言うのか!?」
「あくまで可能性の話ですが、恐らくそうなのではないかと思われます。ですから口を割らないのです」
「そんな・・・なんとかならないのか?」
「こればかりはなんとも。『箝口の制約』を力づくで解消する方法を私は知りません」
バロウは絶望で膝をつく。
実際、シュウの言う通りバフォメット達には『箝口の制約』がかけられていた。だから彼らはバロウ達にスライムを使った事情について話すことが出来なかったのだ。
「さて、『箝口の制約』を使うほどの重大な案件であるかもしれない以上、彼らのバックには極めて巨大で危険な存在が控えている可能性があります。長らく彼らを生かしておけば、後々何かしらトラブルを引き寄せかねません。もうここで始末してしまいます」
もう既にかなり遠ざかってしまってはいるが、シュウの目的はスローライフである。それを阻害する芽はさっさと摘んでしまいたかったので、彼は本気でバフォメット達の始末をつけようと拳を握りこんだ。
この拳を彼らの頭部に叩き込んでそれで終わり、とシュウは考える。
そのときだった。
「ちょっと待ってください!今何が起きているのか教えてください!!」
息を切らしながら、ルーシエが姿を現した。
「また同じことを説明しなきゃいけないの?」という、本当に微妙なタイミングでの乱入である。
シュウの言葉に、バロウ達屋敷の者達は息を飲む。
「ええ、頃合いになりましたから」
シュウはそんな彼らの様子など気にする様子もなく、笑みを浮かべたまま言った。
「頃合い・・・?」
「魔人はとにかくタフなのです。首の骨を折っても再生してしまうほどにね。私は見ての通り武器を持たぬ身ですので、魔人を完全に仕留めるには骨が折れます。生命力を削って再生能力を低下させておかないと、再生して息を吹き返してしまうのですよ」
ほら、ごらんくださいとシュウが倒れているジャヒーに指を指す。
ジャヒーの顔はシュウによる執拗な攻撃の跡が十数カ所ほど存在したが・・・
「む・・・?」
見てられないと苦々しい表情でそれを見ていたバロウは、あることに気付いて眉を顰める。
シュウがもっと徹底的にジャヒーに対して攻撃を加えていたはずだった。それこそ言葉通り顔の形が変わるほどに。
だが、今のジャヒーは確かに痛々しいほどの怪我を負っているものの、思っていたよりはずっと軽い怪我の程度で済んでいるようであった。
「魔人の怪我は恐ろしいほどの速さで回復します。彼らが万全なうちは私では殺しきれないのです。これまで彼らを痛めつけていたのは、決して趣味だとかストレス解消だとか暴れたかっただとかそういうのではなく、彼らをきちんと仕留めるためだったわけです」
明らかに暴れたがっていたように見えたのだが・・・と懐疑的な目がシュウに向けられる。
実際のところシュウがあれだけ執拗にバフォメット達を痛めつけていたのは暴力への衝動も無かったわけではない。だが、それ以上にシュウには彼らに対して一撃で屠れるような力を持っていないのも事実であった。
シュウの格闘術は確かに洗練され、人並み外れた力を持っている。
元より格闘術に長けてはいたが、世界最強とされる『光の戦士達』に属して危険な冒険を繰り返し、死線を潜り抜けてきただけあって技術は磨かれ、肉体は強靭となった。
手刀で岩を割くことも出来れば、蹴りは鋼鉄の鎧をもへし曲げる。
「お前のような神官がいるか」と何度も他の冒険者から言われてきたほどだが、魔族の中でも上位に位置する強力な魔物相手となると、どうしても武器を持たぬシュウの攻撃は効きが悪い。分厚い皮膚、体毛、脂肪、甲殻に阻まれ、ろくに有効打を与えることが出来ないことも多々あった。
相手の弱点を探り、そこを突くのがシュウの得意技ではあったが、それでも初見の魔物を相手にそれを見つけて突くのは難しい。
どれだけ相手の攻撃を躱し、手数で勝っても、力押しで倒しきれないのであれば意味がない。
これがシュウが『光の戦士達』を追放され、彼自身もそれを受け入れた理由である。
バフォメット達は魔族の中でも上位というわけではないが、それでも魔人という存在の再生能力が高いのは事実。シュウの攻撃では、彼らを一撃で仕留めることは出来なかった。
再生を繰り返させ、生命力を削りに削って再生が追い付かない状態にまでさせないといけなかったのである。
バロウはシュウに言われて改めてバフォメット達を見ると、彼らは再生していないように見えた。再生が止まるほど弱っている状態・・・これがシュウの言う『頃合い』なのだろうと理解する。
だが、理解したからといって納得するのとはまだ別だった。
「貴方は、聖神教会に属していたと言っていた。服装からしても、恐らく神官なのだろう?ならば無暗に殺生などするべきではないんじゃないか?どうか、今少しバフォメット達に時間をくれないか?どうにか話をして見せるから」
バロウは食い下がった。
傷の回復をしていないバフォメット達は、シュウの言っている通りなら『瀕死の状態』だ。今まさに命を失おうとしている彼らを見て、バロウはどうしても踏ん切りがつかなかった。
「残念ですが、私はとんだ生臭坊主でしてね。いっぱしの神官の矜持など持っていないのです。まぁ、最も既に追放されて神官ですらありませんが、何にせよ却下です」
シュウはにこやかにバロウの願いをあっさり一蹴する。
「あぁ、そりゃそうだろうな」と、バロウ護衛のために消火活動に行かずに残った一部の男衆は納得した。神官としての矜持が1ミリでもあるのなら、今の自分達の手足が折られるなどといったような惨状はないのだから。
神官は神官でも邪神に仕える者のはずだと。
「それにね。恐らくですが、彼らには『箝口の制約』がかけられていると思われます」
「かんこうのせいやく・・・?なんだそれは・・・」
聞いたことのないものに、バロウは首を傾げる。
「『箝口の制約』とは、極秘の案件に関し、対象に他言をしないよう制約を強いる一種の魂の契約のようなものです。これを破り他言しようとすれば、迎えるのは死です。高位魔族が口封じに良く使うものですが、人間界でも一部で使われていますよ」
「バフォメット達がそうだと言うのか!?」
「あくまで可能性の話ですが、恐らくそうなのではないかと思われます。ですから口を割らないのです」
「そんな・・・なんとかならないのか?」
「こればかりはなんとも。『箝口の制約』を力づくで解消する方法を私は知りません」
バロウは絶望で膝をつく。
実際、シュウの言う通りバフォメット達には『箝口の制約』がかけられていた。だから彼らはバロウ達にスライムを使った事情について話すことが出来なかったのだ。
「さて、『箝口の制約』を使うほどの重大な案件であるかもしれない以上、彼らのバックには極めて巨大で危険な存在が控えている可能性があります。長らく彼らを生かしておけば、後々何かしらトラブルを引き寄せかねません。もうここで始末してしまいます」
もう既にかなり遠ざかってしまってはいるが、シュウの目的はスローライフである。それを阻害する芽はさっさと摘んでしまいたかったので、彼は本気でバフォメット達の始末をつけようと拳を握りこんだ。
この拳を彼らの頭部に叩き込んでそれで終わり、とシュウは考える。
そのときだった。
「ちょっと待ってください!今何が起きているのか教えてください!!」
息を切らしながら、ルーシエが姿を現した。
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