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死体蹴り中
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シュウが無慈悲にジャヒーに対し、足蹴を繰り返していた時だった。
顔面を陥没させられ、完全に沈黙していたはずのバフォメットが起き上がったのだ。
「お、おおっ・・・まさか・・・!」
普通なら顔面が陥没すれば死ぬ。そうでなくても再起不能だろう。
だから致命傷を負ったはずのバフォメットが起き上がってくるなどと、バロウ達は考えてもいなかったので、この事態には驚愕した・・・が、彼らが驚くべきはそこだけではなかった。
「あ・・・」
そのあまりの光景に皆が唖然とした。
起き上がったバフォメットの体はみるみる毛深くなったかと思うと膨れ上がり、顔の形は羊のような形に変化したのだ。バフォメットもジャヒーと同じく魔人化を果たしたのである。
最終的に元の大きさの倍弱ほどの大きさとなったバフォメットは、ジャヒーの魔人化と違ってほぼほぼ人間のときの姿を残してはいなかった。
「驚くことがありますか。だから言ったでしょう?魔人はタフなんですよ」
「驚いているのはタフとかそっちの話じゃない!」
困惑している罵倒達と違い、シュウだけは驚いている様子を見せず、あくまで予定調和といった様子で余裕の笑みを浮かべていた。
『ぶおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
バフォメットが大きく口を開けて咆哮する。
その凄まじい声量は聞く者の耳をつんざき、まるで屋敷全体が震動しているかのようだった。
ジャヒーの姿を見ても、シュウに言われても、それでもはっきりとは認識出来ていなかったバロウ達もここで漸く自覚する。自分達が今、目の前にしているのは魔族なのだと。
バロウはこれまでいかなる生き物ともコミュニケーションが取れてきた。コミュニケーションが取れる生き物を恐れることはないと、どんな獣でも魔物でもバロウは怯んだことはない。
だが、今のバフォメットは別だった。
完全に見た目からして魔族になったバフォメットに、コミュニケーションが取れる自信など到底持てそうにないほどの恐怖心に、バロウは体を震わせた。
「ジャヒーにそれ以上手を出すなぁぁぁぁ!!」
が、バフォメットがそう叫ぶと、バロウは「あれ、人の言葉を話している・・・」と、拍子抜けしてキョトンとした表情になる。コミュニケーションは取れそうだ。
「ほぉ、自分の傷が癒え、体が完全に魔人に変化できるまで死んだふりをして時間を稼いでいた貴方が、今更彼女の心配ですか?」
シュウは倒れているジャヒーの髪を掴み、ぐいっと持ち上げる。
そして傷だらけになったジャヒーの顔をバフォメットに見せつけるようにしながら、笑みを深めて続けて言った。
「スライムで人の命を弄んだのです。ならば貴方達も同じように弄ばれても仕方がありますまい。まさか貴方は嫌だとでも?」
「違う!何も知らないくせに!!」
バフォメットが激昂してシュウに襲いかかるも、シュウはジャヒーをそのままバフォメットにぶつけるようにぶん投げ、慌ててキャッチしようとした彼は一瞬動きが止められてしまう。
そしてすかさず飛んでくるシュウの飛び蹴りが、バフォメットの顔面に命中する。
シュウより遥かに大きな体を誇るバフォメットが、ぐらりと揺れて床に突っ伏した。
そして倒れたバフォメットをひたすらに追撃。
繰り出された蹴りはその悉くが有効打になっているらしく、魔人に変化して戦闘体勢を整えたばかりのはずのバフォメットが、もう既に満足に動けるような状態にあらず敗北しているようであった。
「すごい・・・」
山賊行為をするまでに身を落とした男衆は、元はルーベンス伯爵家の騎士だった。だから武については心得があるのだが、そんな彼らから見てもシュウの格闘術は研ぎ澄まされ完成したものだった。
細身の体であるがバネが強く、強烈で鋭い打撃を繰り出し、的確に急所を狙う技量と知識も持っている。
純粋な筋力ならバフォメットに及ぶことはないと思われるシュウだが、戦闘能力そのものは遥かに凌駕しているのが誰の目にも明らかだ。
しかし、凌駕しているのは戦闘能力だけではない。
皆から見てシュウは、魔人へと姿を変えたバフォメットなどよりずっと恐ろしいものに見えた。
「これ以上はいいだろう」と、そう思わずにいられないほどにシュウは倒れたバフォメットにも容赦なく打撃を加えていく。
倒れれば引きずり起こし、ぶん殴り、蹴って吹き飛ばし、頭を壁に打ち付けさせる。
そのあまりに一方的な有様は、もはや格闘戦というより拷問であるとさえ言えた。
右に、左に、下に、上に、バフォメットはシュウに痛めつけられるたび、体をふっ飛ばされて壁や床に体を打ち付けていた。
それをしばらく続けた後、まるでボロクズのようになり動かなくなったバフォメットを床に倒したままにして、シュウはそれを見下ろしながら大きく溜め息をついてから言う。
「どうにも解せませんなぁ・・・」と。
シュウは腕組みしながら、首を傾げた。
顔面を陥没させられ、完全に沈黙していたはずのバフォメットが起き上がったのだ。
「お、おおっ・・・まさか・・・!」
普通なら顔面が陥没すれば死ぬ。そうでなくても再起不能だろう。
だから致命傷を負ったはずのバフォメットが起き上がってくるなどと、バロウ達は考えてもいなかったので、この事態には驚愕した・・・が、彼らが驚くべきはそこだけではなかった。
「あ・・・」
そのあまりの光景に皆が唖然とした。
起き上がったバフォメットの体はみるみる毛深くなったかと思うと膨れ上がり、顔の形は羊のような形に変化したのだ。バフォメットもジャヒーと同じく魔人化を果たしたのである。
最終的に元の大きさの倍弱ほどの大きさとなったバフォメットは、ジャヒーの魔人化と違ってほぼほぼ人間のときの姿を残してはいなかった。
「驚くことがありますか。だから言ったでしょう?魔人はタフなんですよ」
「驚いているのはタフとかそっちの話じゃない!」
困惑している罵倒達と違い、シュウだけは驚いている様子を見せず、あくまで予定調和といった様子で余裕の笑みを浮かべていた。
『ぶおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
バフォメットが大きく口を開けて咆哮する。
その凄まじい声量は聞く者の耳をつんざき、まるで屋敷全体が震動しているかのようだった。
ジャヒーの姿を見ても、シュウに言われても、それでもはっきりとは認識出来ていなかったバロウ達もここで漸く自覚する。自分達が今、目の前にしているのは魔族なのだと。
バロウはこれまでいかなる生き物ともコミュニケーションが取れてきた。コミュニケーションが取れる生き物を恐れることはないと、どんな獣でも魔物でもバロウは怯んだことはない。
だが、今のバフォメットは別だった。
完全に見た目からして魔族になったバフォメットに、コミュニケーションが取れる自信など到底持てそうにないほどの恐怖心に、バロウは体を震わせた。
「ジャヒーにそれ以上手を出すなぁぁぁぁ!!」
が、バフォメットがそう叫ぶと、バロウは「あれ、人の言葉を話している・・・」と、拍子抜けしてキョトンとした表情になる。コミュニケーションは取れそうだ。
「ほぉ、自分の傷が癒え、体が完全に魔人に変化できるまで死んだふりをして時間を稼いでいた貴方が、今更彼女の心配ですか?」
シュウは倒れているジャヒーの髪を掴み、ぐいっと持ち上げる。
そして傷だらけになったジャヒーの顔をバフォメットに見せつけるようにしながら、笑みを深めて続けて言った。
「スライムで人の命を弄んだのです。ならば貴方達も同じように弄ばれても仕方がありますまい。まさか貴方は嫌だとでも?」
「違う!何も知らないくせに!!」
バフォメットが激昂してシュウに襲いかかるも、シュウはジャヒーをそのままバフォメットにぶつけるようにぶん投げ、慌ててキャッチしようとした彼は一瞬動きが止められてしまう。
そしてすかさず飛んでくるシュウの飛び蹴りが、バフォメットの顔面に命中する。
シュウより遥かに大きな体を誇るバフォメットが、ぐらりと揺れて床に突っ伏した。
そして倒れたバフォメットをひたすらに追撃。
繰り出された蹴りはその悉くが有効打になっているらしく、魔人に変化して戦闘体勢を整えたばかりのはずのバフォメットが、もう既に満足に動けるような状態にあらず敗北しているようであった。
「すごい・・・」
山賊行為をするまでに身を落とした男衆は、元はルーベンス伯爵家の騎士だった。だから武については心得があるのだが、そんな彼らから見てもシュウの格闘術は研ぎ澄まされ完成したものだった。
細身の体であるがバネが強く、強烈で鋭い打撃を繰り出し、的確に急所を狙う技量と知識も持っている。
純粋な筋力ならバフォメットに及ぶことはないと思われるシュウだが、戦闘能力そのものは遥かに凌駕しているのが誰の目にも明らかだ。
しかし、凌駕しているのは戦闘能力だけではない。
皆から見てシュウは、魔人へと姿を変えたバフォメットなどよりずっと恐ろしいものに見えた。
「これ以上はいいだろう」と、そう思わずにいられないほどにシュウは倒れたバフォメットにも容赦なく打撃を加えていく。
倒れれば引きずり起こし、ぶん殴り、蹴って吹き飛ばし、頭を壁に打ち付けさせる。
そのあまりに一方的な有様は、もはや格闘戦というより拷問であるとさえ言えた。
右に、左に、下に、上に、バフォメットはシュウに痛めつけられるたび、体をふっ飛ばされて壁や床に体を打ち付けていた。
それをしばらく続けた後、まるでボロクズのようになり動かなくなったバフォメットを床に倒したままにして、シュウはそれを見下ろしながら大きく溜め息をついてから言う。
「どうにも解せませんなぁ・・・」と。
シュウは腕組みしながら、首を傾げた。
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