上 下
140 / 464

お仕置き中

しおりを挟む
「旦那様・・・」


バフォメットと呼ばれた男と、ジャヒーと呼ばれた元メイド長にして現魔族の女が、二人して神妙な顔をしてバロウに向き直る。


「お前達、二人とも私達のことを裏切っていたのか・・・?」


バロウの問いに、二人はグッと唇をかんで押し黙る。
二人は魔族だった。となると、同じ魔族である毒スライムを使って、ずっとバロウ達親子を苦しめていたのではないか?
この状況では誰もがそう考える。

だが、バロウはこの二人の使用人がずっと自分達に尽くしてくれたことを思うと、全てが悪意故だったのかと疑問に思うところがあった。
だからバロウは二人にどうしてもその辺の真意について知りたくて訪ねていた。


「二人の目的は、私の所持しているスライムでした。証拠隠滅のためか、このを処分しようとしていたのです」


押し黙っている二人に代わって、シュウが横から口を挟む。
懐から小瓶を取り出し、ちらつかせているのを横目にバフォメットは「やはり処分できていなかったか」と、苦々しく表情を歪める。


「スライムと二人が関係していることは明白。故に貴方がたのこれまでの病気に対し、深く関わっていたことは間違いないでしょう」


「むっ・・・」


シュウの言葉にバロウが眉を寄せるのを見て、バフォメット達は慌てたように言葉を発した。


「それはっ!事情があったのですっ!!」


「そう、事情があって親子を苦しめ続けた」


「違うっ!そうじゃなくて・・・!」


ジャヒーは苦々しい表情を浮かべながら俯き、何やら言葉を探しているかのように口をもごもごさせる。
魔人の威圧的な外見には似つかわしくない、しおらしいとも言える態度だった。


「何を言い訳しようとも事実は変わりません。貴方がたは魔族だった。そして何らかの事情でスライムを使って親子を苦しめ続けた」


「違う!そうじゃない!ちょっとアンタは口を挟まないでくれ!」


煮え切らないバフォメット達を余所に、シュウが淡々とそう口にすると、バフォメットが苛立たし気に叫ぶ。


「あ、いや・・・違うというか、全面的に違うわけではないのだけど・・・」


「ですが、誓って言います!私達にとっても想定外のことだったのです!」


煮え切らぬが、それでも何かを必死に伝えようとする二人にバロウは怪訝な表情で訊ねた。


「なんだ?その想定外のことと言うのは?」


「それは・・・」


が、またしてもここで煮え切らない。
バロウ達のことは自分達の本意ではないが、それでも事情を詳細には話せないというジレンマがあるようだった。
「あれ?この問答、無限に続くんじゃね?」と、その場にいた誰もがそう思い内心イライラしていたが


「もう結構。これ以上の問答は時間の無駄です」


煮え切らなすぎる二人の態度に、シュウはそう言ってこれで終わりと話を打ち切った。
「お、空気を読んだな」と一部の者は溜飲を下げる。


「この二人は何があっても詳細を話すことはないでしょう。あるいは出来ない制約でもあるのかもしれません。どうやら純粋に魔族として人間を苦しめた・・・というわけではなさそうですが、どのような事情があったとてそれに大した意味はありません」


「お、お前に何がわかる・・・っ!」


ジャヒーが憎しみの目で睨みつけても、シュウはどこ吹く風だ。


「わかる理由などないでしょう。貴方方の事情において私は完全に部外者ですから。ですが、襲撃されたことについてはしっかりとケジメをつけさせていただきます。魔人が私に喧嘩を売った。私達の間にあるのはその事実だけです」


バキィ


言い終えるか否か、目にも止らぬスピードで、シュウはバフォメットの顔面を殴りつけた。
構えてすらいない状態からの、完全なる不意打ちである。


「・・・っ!」


ゴスッ


よろめくバフォメットが立て直す暇もなく、頭部を掴んで顔面への膝蹴り。
バフォメットの顔面が陥没し、力なくそのまま彼は床へ崩れ落ちる。


「ちっ、このっ!!」


呆然としていたのも、一瞬のこと。ジャヒーが鋭い爪でシュウに襲い掛かるが、シュウはそれをギリギリのタイミングで躱し、カウンター気味に拳を顔面に叩き込む。


「ぐっ!」


魔人とはいえ、それでも人間だったときの面影を残し、はっきり女性だとわかる風貌であるジャヒーだが、怯む彼女にシュウは躊躇いなく追撃する。
足への蹴りで動きを止め、そしてすかさず二度目の顔面への鉄拳。

魔人は人間と違い、姿形は似通っていても筋力も耐久性も比較にならぬほど高い。
だがシュウの攻撃はそのハンデをものともせずと言わんばかりに効果を上げていた。
歯が折れ、鼻が潰れ、顎が外れかかる。
シュウが拳を振るえば、頑丈であるはずの魔族の肉体など意味のないように崩れていく。

シュウの拳が、衣服が血で染まりだした。
ジャヒーは段々と見る影もなく顔の形を変える。
恐ろしいのは、シュウは微笑を称えたまま攻撃を繰り返すことだ。何の躊躇いもなく、全力で攻撃を加えていく。


「・・・っ!」


傍からみれば、ジャヒーはシュウに一方的に嬲られているようにしか見えなかった。
実際は魔人の身体能力をすれば、ほんの一撃だけでも人間なら致命傷を与えかねないのだから、徒手空拳で戦うのなら休めず攻撃を仕掛けるは当然である。

しかし、バロウ達屋敷の者達からすればジャヒーはメイド長としてずっと一緒にやってきた仲間だ。魔人として姿を変えたとしても、面影が残っているのもあってか、仲間がいたぶられ続けているのを見るのは耐えがたかった。
それでもシュウに「やめろ」と言えないのは、ジャヒーが魔人であるとわかっているのが理由であるというより、シュウそのものが恐ろしく声がかけられないからだった。

ついには動かなくなるジャヒー。
それを見ていて、吐いて床にぶちまける者まで現れた。


「も、もういいだろう!?」


流石に見ていられなくなったのか、バロウが震えながらも気丈にそう言いだした。

しかし、シュウは手を止めることをしない。
床に崩れて動かないジャヒーを足蹴にしながら、微笑を絶やすことなく言った。


「何も話さないというのなら、生かしておく理由はありません。潰しましょう」


ジャヒーの髪を掴んで引き起こすシュウを見て、もはやどちらが魔族かわからないとすらバロウは思い、戦慄した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...