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混乱中
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リーダーの男が使った魔法の玉による爆発により、シュウの部屋はあらかた吹き飛んだ。
今は炎と煙でシュウ達の様子はわからないが、それでも十分に目晦ましにはなっている。それでもと男は再度、同じ魔法の玉を使用した。
ドォォォン
至近距離による爆炎。殺すことは出来ずとも、シュウにダメージは与えただろうし、そうでなくても視界を防ぐことは出来た。この隙に男はメイド長がいたところまで走り、どうにか彼女を回収してその場を離れる。
「大丈夫か?走れるか?」
男はメイド長の肩を抱いて気遣いながらも、早足で部屋から離れる。
「だ、大丈夫か?じゃないわよ・・・げほっ、無茶をして・・・!」
「無茶をしないとあの状況じゃどうしようもなかっただろ!とりあえず計画は失敗だ。残念だが、屋敷が混乱しているうちに俺達はここを離れよう」
男の言葉に、メイド長は悔しそうに歯噛みする。
「そうね・・・仕方がないわね」
バロウ達親子の病気を治した恩人であるシュウを襲撃し、顔も見られている以上はもうこの場にはいられない。慣れ親しんだ場を離れることに、メイド長は複雑な気持ちを抱いていた。
「二人とも!一体何があった!?」
そこへやってきたのは、爆音の音源の様子を見ようと使用人達を伴ってやってきたバロウだった。音源の方からやってきた二人に、バロウは説明を求めた。
リーダーの男はそれに間髪入れず答えた。
「客人の部屋で急に爆発が起こりました!また更なる爆発が起こるかもしれないと思い、一先ず離れることにしたのです!」
「なにぃ?」
男の回答にバロウは怪訝な顔をする。
急に部屋で爆発があった!などと言われて「おぉ、そうなのか!」と納得する人間はそうそういない。
「客人はスライムで何やら実験をしていたのようなのですが、どうもそこで何かしら事故を起こして爆発させてしまったようなのです。実験と爆発は付き物ですから・・・」
「そうか、実験か・・・なんてことだ・・・」
しかしリーダーの男が実験を理由にすると、バロウは何となく納得した。
シュウが変な実験を行いそうなイメージがあったから、残念なことに報告にまるで違和感を感じなかったのである。
「それで、客人は無事なのか!?」
実権による事故だとして「火災なんて何てことしてくれるんじゃ!」と言いそうなところを、気の優しいバロウは心の底からシュウのことを心配した。バロウにしてみれば命の恩人だからというのもあるだろうが、この優しさが彼の元来の性格であり、平民に下ってからも使用人達に慕われる理由だった。
「火の手が早く、様子を見る余裕がありませんでした。メイド長が煙をいくらか吸ってしまい、気分を崩しているので今避難をしているところです。それよりも、ここも遠からず危険になるかもしれません。早くこの屋敷を離れたほうがよろしいかと!」
リーダーの男の言葉に、バロウと共に来ていた使用人達も同調する。
「消火作業とお客様の安全の確認は我々が行いますので、まずは旦那様とお嬢様は外まで避難したほうがよろしいかと!」
シュウの身も気になるが、それよりもまずバロウの身の安全が第一と考えた使用人達はシュウの身を案じて渋るバロウを説得している。
どうにかバロウは避難することに同意したようだが、それでも屋敷は消火のゴタゴタで上を下への大騒ぎになっている。
「これに乗じて逃げようじゃないか。スライムは俺が目晦ましで起こした爆発で吹き飛ばせた可能性だってあるし、そうでなくても他にどうにか機会を伺えばいい。何しろこの場を離れておかないと、あの男に捕まったら次の機会すら訪れん」
「えぇ、それは確かに・・・」
メイド長達はこの混乱に乗じて屋敷を離れるつもりだった。
住み慣れた屋敷を離れることに抵抗はあったが、それよりも優先しなければならないことがあると踏ん切りをつけ、メイド長が歩き出したその時・・・
「うっ・・・!」
突如、メイド長の腹部に激痛が走った。
たちまち動くことが出来なくなり、彼女はその場で蹲る。
「ど、どうした!?」
慌てふためくリーダーの男のみならず、周囲にいた他の使用人もメイド長の異様な様子に目を奪われる。
「うう・・・ぐっ・・・」
メイド長はシュウに殴られた腹部から、突如として湧き上がって来た痛みに耐えていた。
確かに強烈な一撃だったが、こうまで後に引くほどのものか?とメイド長は疑問に思いつつ、それでも痛みが過ぎ去るのを待つ。
(早く逃げなければいけないのに・・・!)
メイド長がもどかしく思っていると
「お、おい・・・お前・・・!」
驚愕に声を震わせる、リーダーの男の声が彼女の耳に入った。
「何?どうしたの?」と声に出したいが、痛みのあまりそれは言葉にならない。
だがふと見ると、周囲にいた他の使用人達も皆メイド長に対して驚愕の表情を向けていた。
「お前・・・その姿・・・!」
「えっ・・・」
言われた言葉に、メイド長はふと自分の手を見る。
「なっ・・・!?」
色白だったはずのメイド長の手が、いつの間にか褐色に変わっていた。
「えっ・・・そんな・・・」
周囲が騒めく。
メイド長の背中から、魔族の持つそれと同じ翼が生えだしたのだ。
そしてそれからややもしないうちに、メイド長はどこか面影は残しつつも、ほぼ完全に魔族の姿へと豹変した。
「やはり魔族か。正体見たり・・・ですね」
そしていつの間にやらシュウが姿を見せる。
彼は口角を上げ、ゆっくりとメイド長達に近づいた。
今は炎と煙でシュウ達の様子はわからないが、それでも十分に目晦ましにはなっている。それでもと男は再度、同じ魔法の玉を使用した。
ドォォォン
至近距離による爆炎。殺すことは出来ずとも、シュウにダメージは与えただろうし、そうでなくても視界を防ぐことは出来た。この隙に男はメイド長がいたところまで走り、どうにか彼女を回収してその場を離れる。
「大丈夫か?走れるか?」
男はメイド長の肩を抱いて気遣いながらも、早足で部屋から離れる。
「だ、大丈夫か?じゃないわよ・・・げほっ、無茶をして・・・!」
「無茶をしないとあの状況じゃどうしようもなかっただろ!とりあえず計画は失敗だ。残念だが、屋敷が混乱しているうちに俺達はここを離れよう」
男の言葉に、メイド長は悔しそうに歯噛みする。
「そうね・・・仕方がないわね」
バロウ達親子の病気を治した恩人であるシュウを襲撃し、顔も見られている以上はもうこの場にはいられない。慣れ親しんだ場を離れることに、メイド長は複雑な気持ちを抱いていた。
「二人とも!一体何があった!?」
そこへやってきたのは、爆音の音源の様子を見ようと使用人達を伴ってやってきたバロウだった。音源の方からやってきた二人に、バロウは説明を求めた。
リーダーの男はそれに間髪入れず答えた。
「客人の部屋で急に爆発が起こりました!また更なる爆発が起こるかもしれないと思い、一先ず離れることにしたのです!」
「なにぃ?」
男の回答にバロウは怪訝な顔をする。
急に部屋で爆発があった!などと言われて「おぉ、そうなのか!」と納得する人間はそうそういない。
「客人はスライムで何やら実験をしていたのようなのですが、どうもそこで何かしら事故を起こして爆発させてしまったようなのです。実験と爆発は付き物ですから・・・」
「そうか、実験か・・・なんてことだ・・・」
しかしリーダーの男が実験を理由にすると、バロウは何となく納得した。
シュウが変な実験を行いそうなイメージがあったから、残念なことに報告にまるで違和感を感じなかったのである。
「それで、客人は無事なのか!?」
実権による事故だとして「火災なんて何てことしてくれるんじゃ!」と言いそうなところを、気の優しいバロウは心の底からシュウのことを心配した。バロウにしてみれば命の恩人だからというのもあるだろうが、この優しさが彼の元来の性格であり、平民に下ってからも使用人達に慕われる理由だった。
「火の手が早く、様子を見る余裕がありませんでした。メイド長が煙をいくらか吸ってしまい、気分を崩しているので今避難をしているところです。それよりも、ここも遠からず危険になるかもしれません。早くこの屋敷を離れたほうがよろしいかと!」
リーダーの男の言葉に、バロウと共に来ていた使用人達も同調する。
「消火作業とお客様の安全の確認は我々が行いますので、まずは旦那様とお嬢様は外まで避難したほうがよろしいかと!」
シュウの身も気になるが、それよりもまずバロウの身の安全が第一と考えた使用人達はシュウの身を案じて渋るバロウを説得している。
どうにかバロウは避難することに同意したようだが、それでも屋敷は消火のゴタゴタで上を下への大騒ぎになっている。
「これに乗じて逃げようじゃないか。スライムは俺が目晦ましで起こした爆発で吹き飛ばせた可能性だってあるし、そうでなくても他にどうにか機会を伺えばいい。何しろこの場を離れておかないと、あの男に捕まったら次の機会すら訪れん」
「えぇ、それは確かに・・・」
メイド長達はこの混乱に乗じて屋敷を離れるつもりだった。
住み慣れた屋敷を離れることに抵抗はあったが、それよりも優先しなければならないことがあると踏ん切りをつけ、メイド長が歩き出したその時・・・
「うっ・・・!」
突如、メイド長の腹部に激痛が走った。
たちまち動くことが出来なくなり、彼女はその場で蹲る。
「ど、どうした!?」
慌てふためくリーダーの男のみならず、周囲にいた他の使用人もメイド長の異様な様子に目を奪われる。
「うう・・・ぐっ・・・」
メイド長はシュウに殴られた腹部から、突如として湧き上がって来た痛みに耐えていた。
確かに強烈な一撃だったが、こうまで後に引くほどのものか?とメイド長は疑問に思いつつ、それでも痛みが過ぎ去るのを待つ。
(早く逃げなければいけないのに・・・!)
メイド長がもどかしく思っていると
「お、おい・・・お前・・・!」
驚愕に声を震わせる、リーダーの男の声が彼女の耳に入った。
「何?どうしたの?」と声に出したいが、痛みのあまりそれは言葉にならない。
だがふと見ると、周囲にいた他の使用人達も皆メイド長に対して驚愕の表情を向けていた。
「お前・・・その姿・・・!」
「えっ・・・」
言われた言葉に、メイド長はふと自分の手を見る。
「なっ・・・!?」
色白だったはずのメイド長の手が、いつの間にか褐色に変わっていた。
「えっ・・・そんな・・・」
周囲が騒めく。
メイド長の背中から、魔族の持つそれと同じ翼が生えだしたのだ。
そしてそれからややもしないうちに、メイド長はどこか面影は残しつつも、ほぼ完全に魔族の姿へと豹変した。
「やはり魔族か。正体見たり・・・ですね」
そしていつの間にやらシュウが姿を見せる。
彼は口角を上げ、ゆっくりとメイド長達に近づいた。
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