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夜這い中

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カチャリ・・・


深夜、アルコールの匂いが充満したシュウ達の部屋では、寝息をかく音に交じり、入口の扉が小さな音を立てて開かれた。


「ぐぅ・・・」


「すぅ・・・う~ん・・・シュウ様のアホ~・・・むぅ・・・」


上等なワインを遠慮なく飲み干したシュウとフローラは、着替えることもなくそのままフローラはベッドに、シュウは床に横になって寝息をかいていた。


「・・・」


部屋の扉を開け、中に入ってきた人影はそんなシュウ達を黙って見下した。


(よし、しっかりと寝ている)


部屋に侵入してきた人影はメイド長だった。
メイド長はシュウ達に差し入れをしたが、実はそれは彼女のある目的のために仕掛けた罠であり、酒と用意したツマミには睡眠薬が盛ってあったのである。
酒とツマミに手を出して睡眠薬の効いたシュウ達が深い眠りについて目を覚ます様子がないことを察すると、メイド長は彼らには目もくれず、きょろきょろと部屋を見回し、そしてある物のところで目を留めた。


(あった・・・)


メイド長が目に留めたのは、テーブルの上に置いてあった毒スライムが入っている小瓶だった。


(悪いけど、この存在が世間に広まるのだけは阻止しなければならないの)


手に取って一瞬だけメイド長が小瓶を見つめると、次の瞬間には


ボンッ


音を立て、小瓶が一瞬にして炎に包まれて姿を消す。
規模は小さいが、威力は大きいメイド長の炎系の魔法によるものだった。彼女の炎は小瓶だけを綺麗に焼き払い、周囲には一切影響を与えなかった。


「これで良し、と」


「見事な魔力のコントロールですね。明日からでも魔術師として冒険者になれますよ」


目的を達し、小さく呟くメイド長の耳元で、突如何者かが彼女の呟きに応えるように囁いた。


「!?」


バッ


突然のことに表情を引き攣らせながら、メイド長は反射的に一瞬でその何者かから距離を取る。


「な・・・!」


メイド長の目に入ったのは、苦笑いを浮かべているシュウであった。
「薬によって完全に眠らされていたはず」と、驚愕のあまり口を半開きにしたままメイド長は目を見張っている。


「そんなバカな・・・確かに薬を使ったのに・・・!」


酒にもツマミにも、紅茶にも何もかもに薬を盛っていたので、接種していれば間違いなくまだ眠りについているはず・・・そう思っていたメイド長は、どうしてシュウが起きているのか不思議でならなかった。


「私は酒には目がありませんが、酒は飲んでも飲まれるな・・・をモットーにしていましてね」


シュウは冗談めかしてそう言って口角を上げる。
格好つけてはいるが、かつて帝都では酒によって前後不覚になり、その結果知らぬ間に借金を築いたはずの男の発言とは思えないものだった。

実際のところは、シュウは趣味と実益を兼ねてあらゆる毒物を研究する際に自分でもそれを少量接種し、どのようなものかを理解しようとすることがたびたびあった。
それは単純に毒性の強いものが多かったが、中には睡眠薬の原料になるようなものまであったのだ。

だから、シュウは毒物や睡眠薬にはある程度の耐性がついていたのである。だからメイド長が部屋に入って来た時、シュウの意識はハッキリしていた。寝たふりをしていただけなのだ。


「寝たふり・・・!何故・・・」


メイド長が唖然としていると、シュウがフッと笑って懐から何かを取り出した。
取り出された物を見て、メイド長はハッとする。


「このしに来る悪戯っ子がいるかもしれないと、予感がしましてね。一応待たせていただいたのですが、ま、無駄事にならなくて何よりでした」


そんな皮肉を言いながら、シュウは手に持った元を掲げてみせる。それは先ほどメイド長によって屠られたはずの、スライム入りの小瓶である。
瞬時にメイド長は、自分が消滅させた小瓶の中身が偽物であったこと、そして自分がまんまとシュウにあぶり出されたことに気が付いた。


「さて、夜這いに来られた以上は、こちらもそれなりに応えてやるというのが礼儀でしょうか?」


シュウはそう言って邪悪な笑みを浮かべ、メイド長に迫った。
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