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療養中
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「・・・ハッ!」
シュウによる治療が終わり、丸一日が経過した頃・・・ルーシエは自室のベッドで目を覚ました。
「・・・治療は・・・あれ、夢?」
ルーシエの意識はシュウがスライムを体から摘出した時から途絶えていた。治療が終わり、自分の体から毒が無くなったと聞いたところまでは覚えているが、それからすぐに意識を失ったことで、そのときのことが夢だったのではないかとルーシエは怖くなっていた。
(そうだ。私の体は誰もが見放した不治の病・・・そんな簡単に治るわけがないし、あんな変な人(シュウ)が実在するなんてあるわけない・・・夢・・・夢を見たんだ・・・)
ルーシエの心が徐々に絶望に侵されそうになっていると
「お嬢様。お目覚めになりましたか」
ルーシエは突然横から声をかけられた。思わず声のした方を向くと、そこには傍らにずっとついていたと思われるメイド長が目に涙を浮かべて立っていた。
「あの・・・ごめんなさい。変なこと聞いていいかしら?私の体は、今までのままよね?治ってなんかいないわよね?」
ルーシエの問いに、メイド長はゆっくりと首を横に振って笑顔を浮かべながら涙声で答えた。
「治療のほうは問題なく終わり、お嬢様のお体の方はもう毒には侵されておりません」
言われてハッとして、ルーシエは自分の腕を確認する。
これまでは黒紫に変色し、見るのもつらかった自分の体だったが、数年ぶりに見る本来の自分の肌に戻っているのを見て、次にルーシエは慌てて寝巻をたくし上げて足を見る。
「戻ってる・・・」
自分の体が元に戻っていることに、ルーシエは涙が溢れそうになったが、すぐにあることに気付いて血相を変えてメイド長に訊ねた。
「お父様は!?お父様はどうなの!!?」
ルーシエの父、元伯爵も彼女とほとんど同じ症状だった。
自分の体が治った今、今度は父のことが気になって仕方が無かった。
「旦那様もお嬢様の後に治療され、先ほどのお嬢様と同じように今はまだお休みになられています。お体の具合が悪かったので、これまでしっかり休めておられませんでしたから、治療してお体が楽になったことでこれまでの疲れが出たのでございましょう」
「・・・そう」
ルーシエは安堵の溜め息をつく。
ここで漸く気が付いたが、これまでとは比較にならぬほど体が軽く、自分で半身を起こせるようになっていることに気付いた。今までは排泄すら一人では出来ぬほどに衰弱していたことを思い出すと、飛び上がりたいほどの喜びがルーシエの心の奥底から湧き上がってきた。
「そうだわ、あの治療師の方!あのお方にお礼をしなくてはいけないわ!彼は今どうしてるの!?」
そして彼女は唐突に大事なことを思い出す。
自分を絶望から救ってくれた命の恩人に、まずは礼を言わなければならないと思った。
「あの方でしたら、その、今は取り込み中ですので・・・お礼は後にして今のところはお嬢様はお休みになられたほうがよろしいかと。しっかり療養しませんと、まだ体力が戻ってはおりませんから」
何やら気まずそうに視線を逸らしながら言うメイド長に、ルーシエは疑問を抱く。
「取り込み中とは一体どうしたの?私、まずはお礼を言わないと気になって休むことができないわ。あの方々は今どちらにいて何をしていらっしゃるの?」
「それは・・・別室で・・・」
身を乗り出して問い詰めてくるルーシエに対し、どう答えたら良いのか迷っているように口を濁すメイド長。
緊迫した空気を打ち破ったのは、部屋の扉が開かれる音だった。
「目が覚めたのですね」
部屋に入って来たのはフローラだった。
治療を直接行ってくれたわけではないが、シュウの連れ人だったフローラに礼を言おうとしたルーシエは、口を開きかけて・・・止まった。
「・・・」
フローラはジト目で唇を尖らせ、見るからに不機嫌だったからだ。
「えと・・・」
話しかけづらいオーラがフローラが放たれていたが、ルーシエはそれでもと意を決してフローラに礼をすることにした。
「あの、私の体を治してくれてありがとうございます!」
「別に私は何もやっていませんから。お礼ならシュウ様に言ってください」
「・・・」
つっけんどんな態度でそう言うフローラは、取り付く島もなさそうである。ルーシエは「え、なんでこの人怒ってるの?」と困惑したが、すぐに気を取り直し、再び口を開いたが・・・
「ではシュウ様にも是非お礼をしたいのですが」
「今は取り込んでいるのでしばらく待ってくださいッ!シュウ様の邪魔だけはしないでくれますかッッッ?!」
ルーシエの言葉にかぶせ気味にフローラが言い放つ。
目が据わり、顔には血管がいくつも浮き出てるように見えるフローラに気圧されて、ルーシエは今度こそ黙らされてしまった。
ルーシエはフローラを怒らせたわけではない。原因は全く別のところにある。
「シュウ様の気が済むまで待っててください。あと一日・・・いえ、遅ければ二日、あるいは三日・・・」
そう言ってから爪をガジガジと嚙み不機嫌オーラを大全開にしながら、フローラはブツブツと何かを呟いて部屋を出て行った。
「え?三日・・・?一体何が・・・」
ルーシエは唖然として去っていくフローラを見送る。
シュウは今、屋敷の地下室にて父娘から取り出して捕獲した2体のスライムの解剖と観察を行っていた。
食事も摂らず、睡眠も地下室で取るほどの熱中ぶりで、目の前の娯楽(?)を堪能するあまりに、フローラを含め他一切のことに関心を寄せていない状態になっている。
「邪魔者はいません!さぁ私と蜜月の時を過ごしましょう!!あなた達の穴という穴まで余すところなく私に見せてみなさい!!」
シュウはフローラすらも追い出して、地下室に一人で籠ってスライムの研究に打ち込んだ。地下室からは三日三晩、狂人そのもののような声と笑い声が聞こえてきたという。
シュウにひたすら放置され、延々と不機嫌なフローラの扱いに屋敷の面々はほとほと困り果てた。
シュウによる治療が終わり、丸一日が経過した頃・・・ルーシエは自室のベッドで目を覚ました。
「・・・治療は・・・あれ、夢?」
ルーシエの意識はシュウがスライムを体から摘出した時から途絶えていた。治療が終わり、自分の体から毒が無くなったと聞いたところまでは覚えているが、それからすぐに意識を失ったことで、そのときのことが夢だったのではないかとルーシエは怖くなっていた。
(そうだ。私の体は誰もが見放した不治の病・・・そんな簡単に治るわけがないし、あんな変な人(シュウ)が実在するなんてあるわけない・・・夢・・・夢を見たんだ・・・)
ルーシエの心が徐々に絶望に侵されそうになっていると
「お嬢様。お目覚めになりましたか」
ルーシエは突然横から声をかけられた。思わず声のした方を向くと、そこには傍らにずっとついていたと思われるメイド長が目に涙を浮かべて立っていた。
「あの・・・ごめんなさい。変なこと聞いていいかしら?私の体は、今までのままよね?治ってなんかいないわよね?」
ルーシエの問いに、メイド長はゆっくりと首を横に振って笑顔を浮かべながら涙声で答えた。
「治療のほうは問題なく終わり、お嬢様のお体の方はもう毒には侵されておりません」
言われてハッとして、ルーシエは自分の腕を確認する。
これまでは黒紫に変色し、見るのもつらかった自分の体だったが、数年ぶりに見る本来の自分の肌に戻っているのを見て、次にルーシエは慌てて寝巻をたくし上げて足を見る。
「戻ってる・・・」
自分の体が元に戻っていることに、ルーシエは涙が溢れそうになったが、すぐにあることに気付いて血相を変えてメイド長に訊ねた。
「お父様は!?お父様はどうなの!!?」
ルーシエの父、元伯爵も彼女とほとんど同じ症状だった。
自分の体が治った今、今度は父のことが気になって仕方が無かった。
「旦那様もお嬢様の後に治療され、先ほどのお嬢様と同じように今はまだお休みになられています。お体の具合が悪かったので、これまでしっかり休めておられませんでしたから、治療してお体が楽になったことでこれまでの疲れが出たのでございましょう」
「・・・そう」
ルーシエは安堵の溜め息をつく。
ここで漸く気が付いたが、これまでとは比較にならぬほど体が軽く、自分で半身を起こせるようになっていることに気付いた。今までは排泄すら一人では出来ぬほどに衰弱していたことを思い出すと、飛び上がりたいほどの喜びがルーシエの心の奥底から湧き上がってきた。
「そうだわ、あの治療師の方!あのお方にお礼をしなくてはいけないわ!彼は今どうしてるの!?」
そして彼女は唐突に大事なことを思い出す。
自分を絶望から救ってくれた命の恩人に、まずは礼を言わなければならないと思った。
「あの方でしたら、その、今は取り込み中ですので・・・お礼は後にして今のところはお嬢様はお休みになられたほうがよろしいかと。しっかり療養しませんと、まだ体力が戻ってはおりませんから」
何やら気まずそうに視線を逸らしながら言うメイド長に、ルーシエは疑問を抱く。
「取り込み中とは一体どうしたの?私、まずはお礼を言わないと気になって休むことができないわ。あの方々は今どちらにいて何をしていらっしゃるの?」
「それは・・・別室で・・・」
身を乗り出して問い詰めてくるルーシエに対し、どう答えたら良いのか迷っているように口を濁すメイド長。
緊迫した空気を打ち破ったのは、部屋の扉が開かれる音だった。
「目が覚めたのですね」
部屋に入って来たのはフローラだった。
治療を直接行ってくれたわけではないが、シュウの連れ人だったフローラに礼を言おうとしたルーシエは、口を開きかけて・・・止まった。
「・・・」
フローラはジト目で唇を尖らせ、見るからに不機嫌だったからだ。
「えと・・・」
話しかけづらいオーラがフローラが放たれていたが、ルーシエはそれでもと意を決してフローラに礼をすることにした。
「あの、私の体を治してくれてありがとうございます!」
「別に私は何もやっていませんから。お礼ならシュウ様に言ってください」
「・・・」
つっけんどんな態度でそう言うフローラは、取り付く島もなさそうである。ルーシエは「え、なんでこの人怒ってるの?」と困惑したが、すぐに気を取り直し、再び口を開いたが・・・
「ではシュウ様にも是非お礼をしたいのですが」
「今は取り込んでいるのでしばらく待ってくださいッ!シュウ様の邪魔だけはしないでくれますかッッッ?!」
ルーシエの言葉にかぶせ気味にフローラが言い放つ。
目が据わり、顔には血管がいくつも浮き出てるように見えるフローラに気圧されて、ルーシエは今度こそ黙らされてしまった。
ルーシエはフローラを怒らせたわけではない。原因は全く別のところにある。
「シュウ様の気が済むまで待っててください。あと一日・・・いえ、遅ければ二日、あるいは三日・・・」
そう言ってから爪をガジガジと嚙み不機嫌オーラを大全開にしながら、フローラはブツブツと何かを呟いて部屋を出て行った。
「え?三日・・・?一体何が・・・」
ルーシエは唖然として去っていくフローラを見送る。
シュウは今、屋敷の地下室にて父娘から取り出して捕獲した2体のスライムの解剖と観察を行っていた。
食事も摂らず、睡眠も地下室で取るほどの熱中ぶりで、目の前の娯楽(?)を堪能するあまりに、フローラを含め他一切のことに関心を寄せていない状態になっている。
「邪魔者はいません!さぁ私と蜜月の時を過ごしましょう!!あなた達の穴という穴まで余すところなく私に見せてみなさい!!」
シュウはフローラすらも追い出して、地下室に一人で籠ってスライムの研究に打ち込んだ。地下室からは三日三晩、狂人そのもののような声と笑い声が聞こえてきたという。
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