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治療中
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「さて、これから始めましょうか」
シュウはどこか観念したような表情になっているルーシエを、下品な笑みを浮かべながら見下ろして言った。
「シュウ様。私にはどうしてよいかわかりませんでしたけど、治せる見込みはあるのですか?」
「大体の見込み・・・でしかありませんがね、一応の見当はついてます。いかんせん確実な話ではないのですが、ああも強気に言っておかないと納得していただけないような方々でしたから」
シュウの中にはルーシエの症状について一つの仮説があった。
だが、あくまで仮説の一つとして話をすると使用人達は「ただの仮説なのにお嬢様を弄るつもりか」などと激昂しかねない。だからシュウは勝算が高いと思わせぶりな発言をして治療に漕ぎつけたのだった。
「フローラ。まずはこのルーシエさんに解毒魔法をかけてもらって良いですか?」
「はい!」
シュウは魔力の絶対量が多くない。なので魔力を余るほど有しているフローラに代わりに解毒魔法をかけてもらう。
フローラが念じた瞬間、部屋全体が白く輝くほどの強力な聖魔法が発動する。人ひとりにかけるには余るほどの強力な解毒魔法だ。植物から魔物のそれから、ありとあらゆる種類の毒を浄化する効果がある。
「ふむ・・・」
フローラの解毒魔法がルーシエの体を包み込むと、彼女の体中にあった黒紫の染みが一瞬にして消滅し、綺麗な肌が姿を現す。フローラの聖女としての絶大な効果を有する聖魔法にかかれば、いかに強力な毒とて体に残ることはない・・・はずだった。
「・・・むぅ」
が、消えたと思った黒紫の染みは少しの時間を置いて体の奥から滲み出てくるかのように、再び解毒前の姿に戻ってしまった。
「ぐぅっ・・・!」
解毒され一瞬体が楽になるが、体の奥からチクチクと痛みが走ったと思うと、間もなく全身を毒素のようなものが巡ったことで激痛が走ったルーシエは苦痛に顔を歪めた。
彼女はこれまで何度も何度もこうして一瞬は解毒が成功し、そのたびに再発症を繰り返してぬか喜びの後に激痛を伴うという苦行を受けさせられてきた。今回は強力な聖魔法により一瞬にして体中の毒が消えたのを実感したルーシエは「もしや今回こそは」と淡い期待を抱いたが、結果は彼女の期待を裏切るものとなってしまった。
(やっぱり何をしても無駄なんだ・・・)
非情な現実にルーシエが打ちのめされていると、シュウはとんでもないことを口にした。
「フローラ。もう一度お願いします」
「・・・え」
シュウの言葉にルーシエは唖然とした。
無駄とわかっていてもまだやるつもりなのか?この絶望と苦痛を何度も味わわせるつもりなのかと愕然としそうになるも
「はい、わかりました」
フローラはルーシエの心中などお構いなしに、即座にシュウの言葉通りに解毒魔法をかける。
結果は先ほどと同じように魔法によって体から綺麗さっぱり毒が消えたように見えても、すぐにまた毒が体を回るというものになった。
「うぐぐっ・・・」
苦痛に身をよじらせるルーシエに
「ふむふむ、なるほどね」
なにやらシュウが納得するように頷く一方で、ルーシエの心は怒りで満たされた。
「ちょっと・・・!もうやめてください!解毒しても無駄だし・・・毒素が元に戻るときに体に激痛が走るのです!」
声を出すのもつらいルーシエだったが、気力を振り絞って抗議の声を上げる。
例えどれだけ高度な回復魔法でも治らない。これまで散々使用人達が手を尽くして連れて来た回復術師も探し当てた薬も、自分の体を治すことは出来なかった。体から絶えず毒素を生み出す奇病-- 識者は誰もが口を揃えて言い、治療を諦めた。
そのときに散々味わってきた激痛による絶望と恐怖が、再びルーシエの心を蝕んでいた。
しかし
「すみませんが、もう少し耐えていただけますか?必ず治しますので。ではフローラ。もう一度お願いします」
「なっ・・・!」
シュウは更にルーシエが絶望する言葉を発した。
そして間髪入れずに再度解毒魔法がルーシエにかけられる。
「もう・・・やめて!無駄だから・・・!」
ルーシエは振り絞るような声でそう言った。
これ以上自分に惨めな思いをさせてほしくなかった。無駄とわかっていることを行い、絶望を深めないでほしかった。そう思ってルーシエはやめるように言ったのだが、シュウは顔をルーシエに寄せ、真剣な表情で言った。
「『無駄』などと、簡単に口にはしないことですね」
「え・・・?」
先ほどまで気味の悪い笑みを浮かべていたシュウとは思えぬほどシュウの声に凄みを感じ、ルーシエは思わずキョトンとした。
「例え僅かでも可能性を信じ、生きる希望を捨てないこと。簡単に諦めないこと。何があっても逆境に打ち勝つという気を保つこと。この意志を持たぬようでは、勝てるものにも勝てなくなります。結局最後は本人の気力が物を言うのです」
「そ、そんなことを言ったって・・・」
全身を走る気を失うような激痛を耐えても、これまで何も進展の無かった現実に打ちのめされ続けてきたルーシエは、「自分の苦しみなんてわからないくせに」と非難めいた視線をシュウに向ける。
シュウはただただその視線を黙って受けていたが、やや間を空けてから口を開いた。
「貴方はこれまでの生活が、どれだけの人の思いと犠牲によって成り立ってきたかを自覚するべきです。自覚していれば、そのような泣き言はそうそう口に出せないはずです」
「え・・・?」
ルーシエが言われた言葉の意味を理解する前にシュウは続けた。
「決して負けないと思い続けること。何があっても耐えることを諦めないこと。そうでなければ、これから先のことには耐えられませんよ」
「なにを」
「そんなわけでまだ続けます。ではフローラ。もう一回」
「えっ」
事態について行けないルーシエを無視し、シュウはそれから何度もフローラに解毒魔法をかけ続けさせた。
「これならまだ慰み者になった方がマシだった」そんなことを思いながら、やがてルーシエの意識は落ちそうなところまでいくことになる。
シュウはどこか観念したような表情になっているルーシエを、下品な笑みを浮かべながら見下ろして言った。
「シュウ様。私にはどうしてよいかわかりませんでしたけど、治せる見込みはあるのですか?」
「大体の見込み・・・でしかありませんがね、一応の見当はついてます。いかんせん確実な話ではないのですが、ああも強気に言っておかないと納得していただけないような方々でしたから」
シュウの中にはルーシエの症状について一つの仮説があった。
だが、あくまで仮説の一つとして話をすると使用人達は「ただの仮説なのにお嬢様を弄るつもりか」などと激昂しかねない。だからシュウは勝算が高いと思わせぶりな発言をして治療に漕ぎつけたのだった。
「フローラ。まずはこのルーシエさんに解毒魔法をかけてもらって良いですか?」
「はい!」
シュウは魔力の絶対量が多くない。なので魔力を余るほど有しているフローラに代わりに解毒魔法をかけてもらう。
フローラが念じた瞬間、部屋全体が白く輝くほどの強力な聖魔法が発動する。人ひとりにかけるには余るほどの強力な解毒魔法だ。植物から魔物のそれから、ありとあらゆる種類の毒を浄化する効果がある。
「ふむ・・・」
フローラの解毒魔法がルーシエの体を包み込むと、彼女の体中にあった黒紫の染みが一瞬にして消滅し、綺麗な肌が姿を現す。フローラの聖女としての絶大な効果を有する聖魔法にかかれば、いかに強力な毒とて体に残ることはない・・・はずだった。
「・・・むぅ」
が、消えたと思った黒紫の染みは少しの時間を置いて体の奥から滲み出てくるかのように、再び解毒前の姿に戻ってしまった。
「ぐぅっ・・・!」
解毒され一瞬体が楽になるが、体の奥からチクチクと痛みが走ったと思うと、間もなく全身を毒素のようなものが巡ったことで激痛が走ったルーシエは苦痛に顔を歪めた。
彼女はこれまで何度も何度もこうして一瞬は解毒が成功し、そのたびに再発症を繰り返してぬか喜びの後に激痛を伴うという苦行を受けさせられてきた。今回は強力な聖魔法により一瞬にして体中の毒が消えたのを実感したルーシエは「もしや今回こそは」と淡い期待を抱いたが、結果は彼女の期待を裏切るものとなってしまった。
(やっぱり何をしても無駄なんだ・・・)
非情な現実にルーシエが打ちのめされていると、シュウはとんでもないことを口にした。
「フローラ。もう一度お願いします」
「・・・え」
シュウの言葉にルーシエは唖然とした。
無駄とわかっていてもまだやるつもりなのか?この絶望と苦痛を何度も味わわせるつもりなのかと愕然としそうになるも
「はい、わかりました」
フローラはルーシエの心中などお構いなしに、即座にシュウの言葉通りに解毒魔法をかける。
結果は先ほどと同じように魔法によって体から綺麗さっぱり毒が消えたように見えても、すぐにまた毒が体を回るというものになった。
「うぐぐっ・・・」
苦痛に身をよじらせるルーシエに
「ふむふむ、なるほどね」
なにやらシュウが納得するように頷く一方で、ルーシエの心は怒りで満たされた。
「ちょっと・・・!もうやめてください!解毒しても無駄だし・・・毒素が元に戻るときに体に激痛が走るのです!」
声を出すのもつらいルーシエだったが、気力を振り絞って抗議の声を上げる。
例えどれだけ高度な回復魔法でも治らない。これまで散々使用人達が手を尽くして連れて来た回復術師も探し当てた薬も、自分の体を治すことは出来なかった。体から絶えず毒素を生み出す奇病-- 識者は誰もが口を揃えて言い、治療を諦めた。
そのときに散々味わってきた激痛による絶望と恐怖が、再びルーシエの心を蝕んでいた。
しかし
「すみませんが、もう少し耐えていただけますか?必ず治しますので。ではフローラ。もう一度お願いします」
「なっ・・・!」
シュウは更にルーシエが絶望する言葉を発した。
そして間髪入れずに再度解毒魔法がルーシエにかけられる。
「もう・・・やめて!無駄だから・・・!」
ルーシエは振り絞るような声でそう言った。
これ以上自分に惨めな思いをさせてほしくなかった。無駄とわかっていることを行い、絶望を深めないでほしかった。そう思ってルーシエはやめるように言ったのだが、シュウは顔をルーシエに寄せ、真剣な表情で言った。
「『無駄』などと、簡単に口にはしないことですね」
「え・・・?」
先ほどまで気味の悪い笑みを浮かべていたシュウとは思えぬほどシュウの声に凄みを感じ、ルーシエは思わずキョトンとした。
「例え僅かでも可能性を信じ、生きる希望を捨てないこと。簡単に諦めないこと。何があっても逆境に打ち勝つという気を保つこと。この意志を持たぬようでは、勝てるものにも勝てなくなります。結局最後は本人の気力が物を言うのです」
「そ、そんなことを言ったって・・・」
全身を走る気を失うような激痛を耐えても、これまで何も進展の無かった現実に打ちのめされ続けてきたルーシエは、「自分の苦しみなんてわからないくせに」と非難めいた視線をシュウに向ける。
シュウはただただその視線を黙って受けていたが、やや間を空けてから口を開いた。
「貴方はこれまでの生活が、どれだけの人の思いと犠牲によって成り立ってきたかを自覚するべきです。自覚していれば、そのような泣き言はそうそう口に出せないはずです」
「え・・・?」
ルーシエが言われた言葉の意味を理解する前にシュウは続けた。
「決して負けないと思い続けること。何があっても耐えることを諦めないこと。そうでなければ、これから先のことには耐えられませんよ」
「なにを」
「そんなわけでまだ続けます。ではフローラ。もう一回」
「えっ」
事態について行けないルーシエを無視し、シュウはそれから何度もフローラに解毒魔法をかけ続けさせた。
「これならまだ慰み者になった方がマシだった」そんなことを思いながら、やがてルーシエの意識は落ちそうなところまでいくことになる。
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