121 / 455
ルーシエ
しおりを挟む
シュウによるルーシエの治療を開始することが確定すると、リーダーの男とメイド長は部屋の外に出され、直後部屋にはフローラの結界が張られた。これによって部屋で何があっても誰であっても外から介入することは不可能となった。
「さて・・・それでは覚悟はいいですか?」
こういった状況でシュウが怪しげに笑みを浮かべてそんなことを言うのだから、ただ一人残されたルーシエは「ヒェッ」と小さく悲鳴を上げた。「この人本当に大丈夫なの?」と不安で仕方がない。
(はぁ・・・けどまぁ、いいか・・・)
だがルーシエがそう不安に感じていたのもわずかな時間の間だけだった。やがて彼女はフッと力を緩め、なすが儘であろうと受け身の体勢になる。
しかしリラックスしたというわけではない。どちらかというと捨て鉢になったと言ったほうが正しかった。
(良いことなかったなぁ・・・)
ルーシエはこれまでの自分の身に起きた不幸について顧みた。
数年前、伯爵令嬢であったルーシエは父とともに今侵されている奇病を発症する。
当初は疲労感、頭痛、眩暈がするという程度だったが、やがて病状が進行すると立っていることもままならぬほどになり、発症から半年もかからぬうちに寝たきりの身となってしまった。
ルーシエの幼い頃からの顔なじみであり心優しい婚約者だった男は、最初こそ心配し見舞いにも来たが、寝たきり生活になるやいなや即座に婚約の解消を突き付け姿を現さなくなった。少なからず婚約者の存在に支えられ、必死に闘病していたルーシエはこれをきっかけにして無気力になり、病に抗うことをやめるようになる。
一方でルーシエと同じように病を進行させた父は、自らの体調が改善する見込みがないと判断し、動けるうちにと爵位を返上し財産を整理し平民へと下った。本格的に領地運営が出来なくなってから判断しては、領地が混乱をきたすと配慮しての英断である。
ルーシエ達親子二人の奇病は未知なるものゆえどこの病院でも入院は断られたため、残った金で闘病のための小さな家を買い、最低限の使用人だけ雇って後は暇を出そうしたのだが、多くの使用人達は二人を見捨てずに離れなかった。それどころか療養のために新たな屋敷を確保(不法占拠)し、二人の治療のためにあらゆるもの手段を探し、講じてきたのだ。
「私たちはお二方から与えられたご恩の一部を返しただけに過ぎません」
使用人達は平民の者や、没落した下位貴族の出身の者達ばかりで構成されていた。普通ならば貴族の使用人として働けない者達ばかりであるが、それをルーシエの父である伯爵は個人の能力を重視して使用人として採用したのだ。使用人達は従来の身分からすると破格の待遇でもって雇い入れて貰えたことに、深い恩義を感じた。
だからこそ、使用人達は伯爵が没落しても彼の恩に報いようと必死だった。
(そうね・・・悪いことばかりじゃなかったわね・・・それだけ一生懸命に使用人に尽くされてきたんだから)
給金を払うどころか使用人達に生活の全てを頼りになることになっても、自分達を主とし、従ってくれているこの状況はこれ以上ないほどの幸運だったとルーシエは思い直す。
ただ、ルーシエがこう考えるのは使用人達が山賊行為で金と薬を強奪していた事実を知らないからであるが。
(それに・・・)
チラッ
これから治療を開始するというシュウに目を向ける。
シュウはうすら笑いを浮かべ、いやらしい顔をしているようにルーシエには見えた。これから自分に性的なことをするのでは・・・と、使用人達が感じていた危機感をルーシエも感じていた。
だが捨て鉢の心境になったからだろうか。ルーシエはそれはそれでいいやと考えていた。
彼女はかつて信頼し、愛を育もうと本気で考えていた婚約者に捨てられた。その事実は仕事が出来ないばかりか、女としての機能すら期待されなかったとルーシエの尊厳を深く傷つけた。
現在、数年ろくに食わず動かずだった今のルーシエの体は、体中が不気味な黒紫色に侵されているうえにがりがりに細っている。この醜い姿のまま誰の役に立つこともなく天に逝くくらいなら、こんな自分でも興奮するような物好きの欲を満たしてやったという事実があるだけでもほんの少しだけ嬉しく思う・・・ルーシエは今そんな歪な思考になっていた。
「さて、それでは治療を始めますよ」
シュウがそう言い、ルーシエに近づいた。
「フフッ、もう逃げられませんよ。子猫ちゃん」
手をワキワキと動かして、舌なめずりしながらニヤニヤ笑うシュウを見て「あっ、この人やっぱり私に変なことするつもりなのね」とルーシエは思った。
「さて・・・それでは覚悟はいいですか?」
こういった状況でシュウが怪しげに笑みを浮かべてそんなことを言うのだから、ただ一人残されたルーシエは「ヒェッ」と小さく悲鳴を上げた。「この人本当に大丈夫なの?」と不安で仕方がない。
(はぁ・・・けどまぁ、いいか・・・)
だがルーシエがそう不安に感じていたのもわずかな時間の間だけだった。やがて彼女はフッと力を緩め、なすが儘であろうと受け身の体勢になる。
しかしリラックスしたというわけではない。どちらかというと捨て鉢になったと言ったほうが正しかった。
(良いことなかったなぁ・・・)
ルーシエはこれまでの自分の身に起きた不幸について顧みた。
数年前、伯爵令嬢であったルーシエは父とともに今侵されている奇病を発症する。
当初は疲労感、頭痛、眩暈がするという程度だったが、やがて病状が進行すると立っていることもままならぬほどになり、発症から半年もかからぬうちに寝たきりの身となってしまった。
ルーシエの幼い頃からの顔なじみであり心優しい婚約者だった男は、最初こそ心配し見舞いにも来たが、寝たきり生活になるやいなや即座に婚約の解消を突き付け姿を現さなくなった。少なからず婚約者の存在に支えられ、必死に闘病していたルーシエはこれをきっかけにして無気力になり、病に抗うことをやめるようになる。
一方でルーシエと同じように病を進行させた父は、自らの体調が改善する見込みがないと判断し、動けるうちにと爵位を返上し財産を整理し平民へと下った。本格的に領地運営が出来なくなってから判断しては、領地が混乱をきたすと配慮しての英断である。
ルーシエ達親子二人の奇病は未知なるものゆえどこの病院でも入院は断られたため、残った金で闘病のための小さな家を買い、最低限の使用人だけ雇って後は暇を出そうしたのだが、多くの使用人達は二人を見捨てずに離れなかった。それどころか療養のために新たな屋敷を確保(不法占拠)し、二人の治療のためにあらゆるもの手段を探し、講じてきたのだ。
「私たちはお二方から与えられたご恩の一部を返しただけに過ぎません」
使用人達は平民の者や、没落した下位貴族の出身の者達ばかりで構成されていた。普通ならば貴族の使用人として働けない者達ばかりであるが、それをルーシエの父である伯爵は個人の能力を重視して使用人として採用したのだ。使用人達は従来の身分からすると破格の待遇でもって雇い入れて貰えたことに、深い恩義を感じた。
だからこそ、使用人達は伯爵が没落しても彼の恩に報いようと必死だった。
(そうね・・・悪いことばかりじゃなかったわね・・・それだけ一生懸命に使用人に尽くされてきたんだから)
給金を払うどころか使用人達に生活の全てを頼りになることになっても、自分達を主とし、従ってくれているこの状況はこれ以上ないほどの幸運だったとルーシエは思い直す。
ただ、ルーシエがこう考えるのは使用人達が山賊行為で金と薬を強奪していた事実を知らないからであるが。
(それに・・・)
チラッ
これから治療を開始するというシュウに目を向ける。
シュウはうすら笑いを浮かべ、いやらしい顔をしているようにルーシエには見えた。これから自分に性的なことをするのでは・・・と、使用人達が感じていた危機感をルーシエも感じていた。
だが捨て鉢の心境になったからだろうか。ルーシエはそれはそれでいいやと考えていた。
彼女はかつて信頼し、愛を育もうと本気で考えていた婚約者に捨てられた。その事実は仕事が出来ないばかりか、女としての機能すら期待されなかったとルーシエの尊厳を深く傷つけた。
現在、数年ろくに食わず動かずだった今のルーシエの体は、体中が不気味な黒紫色に侵されているうえにがりがりに細っている。この醜い姿のまま誰の役に立つこともなく天に逝くくらいなら、こんな自分でも興奮するような物好きの欲を満たしてやったという事実があるだけでもほんの少しだけ嬉しく思う・・・ルーシエは今そんな歪な思考になっていた。
「さて、それでは治療を始めますよ」
シュウがそう言い、ルーシエに近づいた。
「フフッ、もう逃げられませんよ。子猫ちゃん」
手をワキワキと動かして、舌なめずりしながらニヤニヤ笑うシュウを見て「あっ、この人やっぱり私に変なことするつもりなのね」とルーシエは思った。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる