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ルーシエ

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シュウによるルーシエの治療を開始することが確定すると、リーダーの男とメイド長は部屋の外に出され、直後部屋にはフローラの結界が張られた。これによって部屋で何があっても誰であっても外から介入することは不可能となった。


「さて・・・それでは覚悟はいいですか?」


こういった状況でシュウが怪しげに笑みを浮かべてそんなことを言うのだから、ただ一人残されたルーシエは「ヒェッ」と小さく悲鳴を上げた。「この人本当に大丈夫なの?」と不安で仕方がない。


(はぁ・・・けどまぁ、いいか・・・)


だがルーシエがそう不安に感じていたのもわずかな時間の間だけだった。やがて彼女はフッと力を緩め、なすが儘であろうと受け身の体勢になる。
しかしリラックスしたというわけではない。どちらかというと捨て鉢になったと言ったほうが正しかった。


(良いことなかったなぁ・・・)


ルーシエはこれまでの自分の身に起きた不幸について顧みた。
数年前、伯爵令嬢であったルーシエは父とともに今侵されている奇病を発症する。
当初は疲労感、頭痛、眩暈がするという程度だったが、やがて病状が進行すると立っていることもままならぬほどになり、発症から半年もかからぬうちに寝たきりの身となってしまった。

ルーシエの幼い頃からの顔なじみであり心優しい婚約者だった男は、最初こそ心配し見舞いにも来たが、寝たきり生活になるやいなや即座に婚約の解消を突き付け姿を現さなくなった。少なからず婚約者の存在に支えられ、必死に闘病していたルーシエはこれをきっかけにして無気力になり、病に抗うことをやめるようになる。

一方でルーシエと同じように病を進行させた父は、自らの体調が改善する見込みがないと判断し、動けるうちにと爵位を返上し財産を整理し平民へと下った。本格的に領地運営が出来なくなってから判断しては、領地が混乱をきたすと配慮しての英断である。

ルーシエ達親子二人の奇病は未知なるものゆえどこの病院でも入院は断られたため、残った金で闘病のための小さな家を買い、最低限の使用人だけ雇って後は暇を出そうしたのだが、多くの使用人達は二人を見捨てずに離れなかった。それどころか療養のために新たな屋敷を確保(不法占拠)し、二人の治療のためにあらゆるもの手段を探し、講じてきたのだ。


「私たちはお二方から与えられたご恩の一部を返しただけに過ぎません」


使用人達は平民の者や、没落した下位貴族の出身の者達ばかりで構成されていた。普通ならば貴族の使用人として働けない者達ばかりであるが、それをルーシエの父である伯爵は個人の能力を重視して使用人として採用したのだ。使用人達は従来の身分からすると破格の待遇でもって雇い入れて貰えたことに、深い恩義を感じた。
だからこそ、使用人達は伯爵が没落しても彼の恩に報いようと必死だった。


(そうね・・・悪いことばかりじゃなかったわね・・・それだけ一生懸命に使用人に尽くされてきたんだから)


給金を払うどころか使用人達に生活の全てを頼りになることになっても、自分達を主とし、従ってくれているこの状況はこれ以上ないほどの幸運だったとルーシエは思い直す。
ただ、ルーシエがこう考えるのは使用人達が山賊行為で金と薬を強奪していた事実を知らないからであるが。



(それに・・・)

チラッ

これから治療を開始するというシュウに目を向ける。
シュウはうすら笑いを浮かべ、いやらしい顔をしているようにルーシエには見えた。これから自分に性的なことをするのでは・・・と、使用人達が感じていた危機感をルーシエも感じていた。

だが捨て鉢の心境になったからだろうか。ルーシエはそれはそれでいいやと考えていた。
彼女はかつて信頼し、愛を育もうと本気で考えていた婚約者に捨てられた。その事実は仕事が出来ないばかりか、女としての機能すら期待されなかったとルーシエの尊厳を深く傷つけた。

現在、数年ろくに食わず動かずだった今のルーシエの体は、体中が不気味な黒紫色に侵されているうえにがりがりに細っている。この醜い姿のまま誰の役に立つこともなく天に逝くくらいなら、こんな自分でも興奮するような物好きの欲を満たしてやったという事実があるだけでもほんの少しだけ嬉しく思う・・・ルーシエは今そんな歪な思考になっていた。


「さて、それでは治療を始めますよ」


シュウがそう言い、ルーシエに近づいた。


「フフッ、もう逃げられませんよ。子猫ちゃん」


手をワキワキと動かして、舌なめずりしながらニヤニヤ笑うシュウを見て「あっ、この人やっぱり私に変なことするつもりなのね」とルーシエは思った。
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