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診察中
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「こちらがになります」
シュウ達が案内されたのは、森の中にひっそりと佇んでいた古い屋敷だった。
どこかの貴族か金持ちが別荘だったようだが、それを山賊たちが見つけて主達をそこに住まわせているという。
満身創痍の山賊たちとシュウ達を出迎えたのは質素な身なりの女たち。皆が山賊の男たちと同じように、かつて伯爵だった主人に今でも仕える使用人達であった。
「よっぽど人望の厚い貴族だったようですね」
フローラがこっそりとシュウに耳打ちをする。
当時から誰一人抜けていないということはないのだろうが、それでもかなりの大人数が没落し、ただ滅ぶときを待っている者に対して犯罪者に身を落としてまで献身するのは尋常ではない。彼らが仕えるのはかなりの大人物なのだなとシュウは思った。
「どうぞ、こちらがお嬢様のお部屋になります」
メイド長のような立ち位置と思われる女が、ある部屋の前までシュウ達を案内する。
診察中シュウ達に付き添うのはリーダーの男だけだったが、部屋の外では他の山賊たちが待機する形になることになった。
これは何かあったときは彼らがすぐに部屋に突入できるようにするためである。シュウという存在はトラウマ級の脅威であるが、それでも自分達の主に危険が及ぶようであれば命を賭してでも戦う・・・そういった気概が見て取れた。どこかしら骨を折られて戦闘不能だというのに大したものだとシュウは感心する。
主である元伯爵のほうは先ほど眠りについたばかりだというので、まずは先に娘の方の診断という流れになったのだが、「変な真似をすればどうなるかわかっているんだろうな」的な無言の圧力が屋敷にいる者全員からかけられているかのようなプレッシャーがシュウには感じられた。
「それでは何かありましたら、お申し付けください」
そう言って下がろうとするメイド長の目にも不信感と警戒感が露わになっていた。
シュウは苦笑いを浮かべながら元執事だというリーダーの男に促すと、彼は部屋をノックして要件を述べると、部屋の扉を開けた。
「ほぅ・・・これは」
「あら」
部屋の中を見てシュウ達は感嘆の声を上げる。
部屋にはある物が置いてあり、まず何より先にそれが二人の目に留まった。白く輝き、部屋で存在感を現すほどの大き目の壺があったのだが、シュウ達にはそれに見覚えがあった。
「まさかこれを目にすることになるとは・・・」
『幸運の壺』・・・聖神教会で多額のお布施で手に入れることが出来るという、「極めて高額な幸福グッズ」である。
実のところ特別なことはあまりされてないという壺でしかないこれを「持っているだけで幸運を呼ぶ」「邪気を祓う」と言って売るという詐欺行為が、聖神教会の大きな資金源の一つである噂されていた。
教会内で詐欺に遭うことを揶揄するときに「壺を買わされる」という冗談まであるほどである。
シュウ達はそれが噂ではなく聖神教会の闇として実在することを知っていたが、このタイミングでそれを目にすることで何とも言えない気まずさを感じていた。
藁にも縋る思いで使用人達が手に入れて部屋に置いてあるのか?とシュウは思いつつ・・・部屋の隅で最初は視界に入らなかった場所にいた、患者が横たわっているベッドに目を向けた。
「こちらがルーシエお嬢様です」
リーダーの男に案内されたそこには、ルーシエと呼ばれたフローラと同い年くらいの少女がそこにいた。
「ふむ・・・」
ルーシエはベッドから体を起こすことなく、寝た体制のままシュウ達に無言で視線だけ向けていた。
体力が落ちに落ち、ヘッドから身分の力で体を起こすどころか満足に言葉を話すことすらできないという。
シュウはじっくりとルーシエを観察した。
頬も体もげっそりと痩せこけ、本人に負担をかけないために手入れは最低限にしているという元は青いという髪は、長さこそ切りそろえられているが、くすんで痛んだままになっている。
一目で「死相が見えるな」とシュウは思ったが、流石にそれを口にはしなかった。
「では診察を開始しましょう。服を全部脱がしてください」
ギリッ
シュウが言うと、リーダーの男がはっきりとわかるくらい歯ぎしりするのがわかった。「わかってはいるがこの男にそれを許すのが嫌だ」というのが露骨に見てとれてシュウは苦笑いを浮かべる。
ギリリリリ・・・
そして何故か、フローラのほうも目を充血させうっすら涙すら浮かべながら、リーダーの男以上に歯ぎしりをしていることに気付く。
「うううううぅぅぅぅ・・・我慢・・・我慢よ」
「わかってはいるがシュウに他の女の裸を見せるのが嫌だ」というのが露骨に見てとれてシュウは苦笑いすら浮かばず、リーダーの男もそれを横目に見て困惑していた。
何はともあれ、シュウによる病気の元令嬢ルーシエの診察が始まった。
シュウ達が案内されたのは、森の中にひっそりと佇んでいた古い屋敷だった。
どこかの貴族か金持ちが別荘だったようだが、それを山賊たちが見つけて主達をそこに住まわせているという。
満身創痍の山賊たちとシュウ達を出迎えたのは質素な身なりの女たち。皆が山賊の男たちと同じように、かつて伯爵だった主人に今でも仕える使用人達であった。
「よっぽど人望の厚い貴族だったようですね」
フローラがこっそりとシュウに耳打ちをする。
当時から誰一人抜けていないということはないのだろうが、それでもかなりの大人数が没落し、ただ滅ぶときを待っている者に対して犯罪者に身を落としてまで献身するのは尋常ではない。彼らが仕えるのはかなりの大人物なのだなとシュウは思った。
「どうぞ、こちらがお嬢様のお部屋になります」
メイド長のような立ち位置と思われる女が、ある部屋の前までシュウ達を案内する。
診察中シュウ達に付き添うのはリーダーの男だけだったが、部屋の外では他の山賊たちが待機する形になることになった。
これは何かあったときは彼らがすぐに部屋に突入できるようにするためである。シュウという存在はトラウマ級の脅威であるが、それでも自分達の主に危険が及ぶようであれば命を賭してでも戦う・・・そういった気概が見て取れた。どこかしら骨を折られて戦闘不能だというのに大したものだとシュウは感心する。
主である元伯爵のほうは先ほど眠りについたばかりだというので、まずは先に娘の方の診断という流れになったのだが、「変な真似をすればどうなるかわかっているんだろうな」的な無言の圧力が屋敷にいる者全員からかけられているかのようなプレッシャーがシュウには感じられた。
「それでは何かありましたら、お申し付けください」
そう言って下がろうとするメイド長の目にも不信感と警戒感が露わになっていた。
シュウは苦笑いを浮かべながら元執事だというリーダーの男に促すと、彼は部屋をノックして要件を述べると、部屋の扉を開けた。
「ほぅ・・・これは」
「あら」
部屋の中を見てシュウ達は感嘆の声を上げる。
部屋にはある物が置いてあり、まず何より先にそれが二人の目に留まった。白く輝き、部屋で存在感を現すほどの大き目の壺があったのだが、シュウ達にはそれに見覚えがあった。
「まさかこれを目にすることになるとは・・・」
『幸運の壺』・・・聖神教会で多額のお布施で手に入れることが出来るという、「極めて高額な幸福グッズ」である。
実のところ特別なことはあまりされてないという壺でしかないこれを「持っているだけで幸運を呼ぶ」「邪気を祓う」と言って売るという詐欺行為が、聖神教会の大きな資金源の一つである噂されていた。
教会内で詐欺に遭うことを揶揄するときに「壺を買わされる」という冗談まであるほどである。
シュウ達はそれが噂ではなく聖神教会の闇として実在することを知っていたが、このタイミングでそれを目にすることで何とも言えない気まずさを感じていた。
藁にも縋る思いで使用人達が手に入れて部屋に置いてあるのか?とシュウは思いつつ・・・部屋の隅で最初は視界に入らなかった場所にいた、患者が横たわっているベッドに目を向けた。
「こちらがルーシエお嬢様です」
リーダーの男に案内されたそこには、ルーシエと呼ばれたフローラと同い年くらいの少女がそこにいた。
「ふむ・・・」
ルーシエはベッドから体を起こすことなく、寝た体制のままシュウ達に無言で視線だけ向けていた。
体力が落ちに落ち、ヘッドから身分の力で体を起こすどころか満足に言葉を話すことすらできないという。
シュウはじっくりとルーシエを観察した。
頬も体もげっそりと痩せこけ、本人に負担をかけないために手入れは最低限にしているという元は青いという髪は、長さこそ切りそろえられているが、くすんで痛んだままになっている。
一目で「死相が見えるな」とシュウは思ったが、流石にそれを口にはしなかった。
「では診察を開始しましょう。服を全部脱がしてください」
ギリッ
シュウが言うと、リーダーの男がはっきりとわかるくらい歯ぎしりするのがわかった。「わかってはいるがこの男にそれを許すのが嫌だ」というのが露骨に見てとれてシュウは苦笑いを浮かべる。
ギリリリリ・・・
そして何故か、フローラのほうも目を充血させうっすら涙すら浮かべながら、リーダーの男以上に歯ぎしりをしていることに気付く。
「うううううぅぅぅぅ・・・我慢・・・我慢よ」
「わかってはいるがシュウに他の女の裸を見せるのが嫌だ」というのが露骨に見てとれてシュウは苦笑いすら浮かばず、リーダーの男もそれを横目に見て困惑していた。
何はともあれ、シュウによる病気の元令嬢ルーシエの診察が始まった。
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