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謝罪中
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山賊達が降伏した後、漸くショックからいくらか立ち直ったのか、ゆるりと動き出したトラヌドッグは、かつて自分が信頼していた部下に語り掛けていた。
「アポロ・・・ワシはお前を信じていたよ。お前は筋が良いし、勘も悪くない。ワシは子供を12人作ったが、男児であってもいずれも商才には恵まれなかった上に商人になろうともしなかった。だからいつしかお前のことを息子だと思い、いろいろ仕事を任せ、ゆくゆくはワシの跡を・・・などとまで考えていた」
「・・・・・・」
「お前もワシに心を許してくれていると思っていた。一緒に酒を酌み交わしたりもしたが、あれは本当に楽しかった。部下というより息子が出来たみたいだったよ。そう思っていたのはワシだけだったのか?」
「・・・・・・」
「そうか・・・もうワシとは話す口もない、か。はは・・・情けない話だよな。ワシはお前に裏切られたとわかっていながらも、それでもどこかでお前を信じてしまっている。本心としてはワシを裏切りたくなくて、山賊達との柵のために無理と・・・」
「あの、その男・・・口が利けないと思うのですけど」
シュウがツッコミを入れても、まだブツブツとトラヌドッグは返事をしないアポロに対して話しかけ続けていた。当のアポロはフローラに腕をひしゃげられてしまい、口から泡を吹いて今でも失神している状態だが、ショックから立ち直ったようでいて、いまだ彼の精神はパニックに陥ったままであるトラヌドッグにはそれを認識出来ていなかった。
「シュウ様。あれは私達には救えぬものです。まずはこの場をどうにかしましょう」
「・・・ふむ、そうですが・・・」
フローラの言葉にシュウは頷くが、ずらりと数十名揃って頭を垂れる山賊達をどうしたものかと考えていた。
今回の騒動で被害者らしい被害者といえばトラヌドッグくらいなので、彼に山賊達をどうしたいか訪ねようとしたのだが、生憎彼はまだ正気に戻り切れていない。
この場にいるほぼ全員がシュウによって戦闘不能にされているので、シュウ的には罰はもう十分に与えたようなものなのだが、かといってトラヌドッグの意見を聞かぬままこれで終わらせる、というのも違う気がする。
「・・・とりあえず憲兵に突き出しますか?」
無難な回答をするシュウ。
ここにいる山賊は誰もかれもが満身創痍なので、どちらが咎められるかわからなくすらあるが、それしかないのでそう口にしてみたのだが・・・
「待ってくれ!」
山賊の中から例外的に一人だけ無傷の者が前に出て、物の見事なスライディング土下座を披露した。
山賊達のリーダーをやっている男である。
「なんだよアイツ無傷だったのかよ」とボロボロの山賊達から批難がましい視線を浴びているリーダーは、なんだかんだ呆然としているだけで抵抗も逃走もしなかったがために目立つことがなかったため、たまたまシュウの餌食にならずにいたのだ。
「すまない!俺達にはどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ!虫が良いのは重々承知だが、どうか見逃してくれないか!!」
平身低頭、リーダーは地面に頭をこすりつけて許しを請うた。
シュウは「ハッ」と鼻で笑ってリーダーの頭髪を掴んで無理矢理立たせる。
「グッ!」
痛みで顔を顰めるリーダーにシュウが顔を寄せる。
シュウは柔和な笑みを口元に浮かべているが、目は笑っていない。
「略奪行為を仕掛けておいて、自分達の身が危なくなれば謝罪してどうにかしてもらう・・・ですか?甘い甘い。蜂蜜がとろけそうなほどに甘い」
パッとシュウは頭髪を手から離し、リーダーは尻から地面に落下してシュウを見上げる形になった。
「ひっ」
見上げたシュウが邪悪な笑みを浮かべているのを見て、リーダーは小さく悲鳴を上げる。溢れんばかりの殺気が迸っているように見え、後退ることさえ出来ずにリーダーは震えていた。
「決めました。貴方は他の人より更に酷い目にあっていただきましょう。その上で皆さんを憲兵に突き出します」
シュウはボキボキと拳を鳴らし、それを後ろからフローラがニコニコと笑いながら眺めている。この場で誰一人としてシュウを止められるものなどいなかった。
リーダーは大きく息を吐くと、それでもと再度土下座を繰り返した。
「何を見苦しいことを」とシュウが顔を顰めると、再びリーダーは大きな声で言った。
「我々の親分とその娘が病気なんだ!自分はどうなってもいい!だが、せめてその二人の病気だけでも俺達の代わりに面倒を引き受けてくれないか!?」
「む?」
悲痛な叫びを聞き、リーダーをぶん殴ろうとしたシュウの手がピタリと止まった。
「あぁ、こんなこと言っても駄目だろうな」と諦め半分でリーダーはシュウに訴えていたが、シュウは何と殴ろうとする手を止め、話を聞く姿勢に入った。
「病気ですか。それなら話は別です。詳しく聞かせてください」
「へ?」
リーダーの肩を引き寄せ、顔を間近に寄せて凄い剣幕でそう言うシュウのことを、山賊達は唖然として眺めていた。
「アポロ・・・ワシはお前を信じていたよ。お前は筋が良いし、勘も悪くない。ワシは子供を12人作ったが、男児であってもいずれも商才には恵まれなかった上に商人になろうともしなかった。だからいつしかお前のことを息子だと思い、いろいろ仕事を任せ、ゆくゆくはワシの跡を・・・などとまで考えていた」
「・・・・・・」
「お前もワシに心を許してくれていると思っていた。一緒に酒を酌み交わしたりもしたが、あれは本当に楽しかった。部下というより息子が出来たみたいだったよ。そう思っていたのはワシだけだったのか?」
「・・・・・・」
「そうか・・・もうワシとは話す口もない、か。はは・・・情けない話だよな。ワシはお前に裏切られたとわかっていながらも、それでもどこかでお前を信じてしまっている。本心としてはワシを裏切りたくなくて、山賊達との柵のために無理と・・・」
「あの、その男・・・口が利けないと思うのですけど」
シュウがツッコミを入れても、まだブツブツとトラヌドッグは返事をしないアポロに対して話しかけ続けていた。当のアポロはフローラに腕をひしゃげられてしまい、口から泡を吹いて今でも失神している状態だが、ショックから立ち直ったようでいて、いまだ彼の精神はパニックに陥ったままであるトラヌドッグにはそれを認識出来ていなかった。
「シュウ様。あれは私達には救えぬものです。まずはこの場をどうにかしましょう」
「・・・ふむ、そうですが・・・」
フローラの言葉にシュウは頷くが、ずらりと数十名揃って頭を垂れる山賊達をどうしたものかと考えていた。
今回の騒動で被害者らしい被害者といえばトラヌドッグくらいなので、彼に山賊達をどうしたいか訪ねようとしたのだが、生憎彼はまだ正気に戻り切れていない。
この場にいるほぼ全員がシュウによって戦闘不能にされているので、シュウ的には罰はもう十分に与えたようなものなのだが、かといってトラヌドッグの意見を聞かぬままこれで終わらせる、というのも違う気がする。
「・・・とりあえず憲兵に突き出しますか?」
無難な回答をするシュウ。
ここにいる山賊は誰もかれもが満身創痍なので、どちらが咎められるかわからなくすらあるが、それしかないのでそう口にしてみたのだが・・・
「待ってくれ!」
山賊の中から例外的に一人だけ無傷の者が前に出て、物の見事なスライディング土下座を披露した。
山賊達のリーダーをやっている男である。
「なんだよアイツ無傷だったのかよ」とボロボロの山賊達から批難がましい視線を浴びているリーダーは、なんだかんだ呆然としているだけで抵抗も逃走もしなかったがために目立つことがなかったため、たまたまシュウの餌食にならずにいたのだ。
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平身低頭、リーダーは地面に頭をこすりつけて許しを請うた。
シュウは「ハッ」と鼻で笑ってリーダーの頭髪を掴んで無理矢理立たせる。
「グッ!」
痛みで顔を顰めるリーダーにシュウが顔を寄せる。
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「略奪行為を仕掛けておいて、自分達の身が危なくなれば謝罪してどうにかしてもらう・・・ですか?甘い甘い。蜂蜜がとろけそうなほどに甘い」
パッとシュウは頭髪を手から離し、リーダーは尻から地面に落下してシュウを見上げる形になった。
「ひっ」
見上げたシュウが邪悪な笑みを浮かべているのを見て、リーダーは小さく悲鳴を上げる。溢れんばかりの殺気が迸っているように見え、後退ることさえ出来ずにリーダーは震えていた。
「決めました。貴方は他の人より更に酷い目にあっていただきましょう。その上で皆さんを憲兵に突き出します」
シュウはボキボキと拳を鳴らし、それを後ろからフローラがニコニコと笑いながら眺めている。この場で誰一人としてシュウを止められるものなどいなかった。
リーダーは大きく息を吐くと、それでもと再度土下座を繰り返した。
「何を見苦しいことを」とシュウが顔を顰めると、再びリーダーは大きな声で言った。
「我々の親分とその娘が病気なんだ!自分はどうなってもいい!だが、せめてその二人の病気だけでも俺達の代わりに面倒を引き受けてくれないか!?」
「む?」
悲痛な叫びを聞き、リーダーをぶん殴ろうとしたシュウの手がピタリと止まった。
「あぁ、こんなこと言っても駄目だろうな」と諦め半分でリーダーはシュウに訴えていたが、シュウは何と殴ろうとする手を止め、話を聞く姿勢に入った。
「病気ですか。それなら話は別です。詳しく聞かせてください」
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