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交渉・・・中?
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山賊のリーダー格の男はシュウを見て思った。こいつ、只者じゃねぇぞ・・・と。
身なりは神官っぽく見えるが、体が動かしやすいようにアレンジがされている服。
目が細く笑って見えるため、柔和な印象を受ける顔をしていたが、邪悪な笑みを浮かべている顔。
そして何より言っていることが何かヤバイ。言いようのない不吉なオーラを纏っているとリーダー格の男は思った。
(それに・・・)
ちらりとシュウの後方にある馬車に目を向ける。
触れなくてもわかるほどに強力な結界が張られているのが問題だった。結界は強力であればあるほど可視化される。逆に見えない結界など紙みたいにもろいのが一般的だが、フローラの張った結界は誰がどう見てもそれとわかる強固で分厚い結界だ。
それほどの結界を展開できる人間はそうそういない。絶対只者ではないし、その結界を張った人間と同行しているシュウも警戒されて当然だった。
(ちっ、今回は退いたほうがいいか)
リーダー格の男のこれまで数えきれないほどの危機を乗り越えてきた勘が告げていた。この男に関わってはいけないと。
数では明らかに有利。加えてシュウは武器を持っていない。
普通なら絶対に退くべき場面ではないのだが、リーダー格の男は内心撤退することを決めていた。
が・・・
「おいリーダー。アンタまさかあんな優男にビビってんのか?」
撤退を指示しようとしたその瞬間、黙りこくっていたリーダーの様子を不審に思った大柄な山賊がずいっと前に出た。
(ちっ、コイツか)
大柄な山賊は機微もわからぬ典型的な脳筋だ。今もどうしてリーダーが馬車やシュウへの襲撃を指示しなかったのか、全く理解していない。
常に冷静に状況を見極め、得物を襲撃している最中でも危険を察知すれば即座に撤退を指示するリーダーと、あくまで気の向くまま勢いだけで行動する大柄の男は相性が悪かった。
「リーダーがビビってるようだからよぉ・・・ここは俺がその優男をぶっ飛ばしてやるぜ」
大柄の男はリーダーの返事を聞くことなく、大鉈を手にシュウに近づいていく。
(へっ、あのビビりに替わって俺が今度からリーダーになってやるぜ)
野獣のような本能を前面に押し出すタイプのこの男は、理屈ばかりこねて保身に走ってばかりのリーダーのことを嫌っていた。
だからリーダーがシュウに臆していることを察した大柄の男は、自分がシュウを呆気なく倒してやることで誰が本当のリーダーに相応しいか仲間達に見せつけてやろうとしたのだ。
「おい、やめとけ。この男はちょっと只者じゃねぇ・・・」
リーダーは大柄の男に忠告しようとするが、彼はそれを聞かなかった。
「うるせぇ。ビビってるならそこで黙ってみてな。それに、今回の荷は結構な数のポーションなんだろ?今回を見過ごすなら、次はいつこれほどの上物に出会えるかわからねぇぜ」
大柄の男の言葉に、リーダーは押し黙った。
それを了承の合図と受け取った男は、意気揚々とシュウの目の前まで歩を進める。
「おぉ、誰も名乗り出てきてくれなかったので寂しいと思っていたのですよ。貴方が私の『交渉相手』ですか?」
シュウは目を細め、ペロリと舌なめずりをして言った。良く見ると息が荒く、顔も紅潮しているように見える。
血気盛んな狂犬のようである。
(おい・・・あれやっぱヤバイやつだぞ)
リーダーは顔面を蒼白にしてたじろいた。
「そうだ俺が交渉人だ。俺の要求は一つ。荷とさっきの女を置いてさっさとこの場から消え失せろ。そうすれば殺さないでいてやるよ」
大鉈をちらつかせて大柄の男は言った。
反抗すれば直ちに殺すという意味であったし、実際にそうするつもりもあった。
リーダーと違い、この男はシュウを完全に舐めていた。
自分より小さな男であるし、体も細い。それに来ている服が神官を連想させるデザインなのも非力な印象を与えている。
だから目の前の優男が、まさか自分に牙を向いてくるなどとは思ってもいなかったのである。
「交渉決裂ですね」
「あ・・・?」
どう答えようが、多少は痛めつけてやらないとな・・・と考えていた大柄の男の視界が、一瞬にしてぐるりと回る。
シュウによる足払いで、シュウより遥か長身である大柄の男は、あっさりとバランスを崩して尻餅をつく。
「て、てめ・・・」
瞬時に何が起きたのかと理解し、すぐに反撃に出ようとした大柄の男だったが、次の瞬間には顔面に拳をのめりこまされて意識を失った。
カンッ
ノックダウンされた男の口から折れた歯が飛び出し、地面に落ちて小さな音を立てる。
ごくりと山賊達が息を飲む。
大柄な男は頭こそ悪いが、それでも仲間達の中でもきっての実力者だった。大型の魔物の攻撃を受けても倒れず、壁役としても頼りになっていた男だった。
それが彼よりも体の小さな素手の男に一瞬にしてのされてしまったことで、ようやく山賊達も自分達がいかに危険な相手に手を出してしまったのかを本当の意味で理解した。
「私の要求は一つ。今すぐ皆さまにはサンドバッグになっていただきたい。それだけです」
それは交渉でもなんでもない!山賊達はそう思いながら、慌てて散り散りに逃げ出そうとした。
身なりは神官っぽく見えるが、体が動かしやすいようにアレンジがされている服。
目が細く笑って見えるため、柔和な印象を受ける顔をしていたが、邪悪な笑みを浮かべている顔。
そして何より言っていることが何かヤバイ。言いようのない不吉なオーラを纏っているとリーダー格の男は思った。
(それに・・・)
ちらりとシュウの後方にある馬車に目を向ける。
触れなくてもわかるほどに強力な結界が張られているのが問題だった。結界は強力であればあるほど可視化される。逆に見えない結界など紙みたいにもろいのが一般的だが、フローラの張った結界は誰がどう見てもそれとわかる強固で分厚い結界だ。
それほどの結界を展開できる人間はそうそういない。絶対只者ではないし、その結界を張った人間と同行しているシュウも警戒されて当然だった。
(ちっ、今回は退いたほうがいいか)
リーダー格の男のこれまで数えきれないほどの危機を乗り越えてきた勘が告げていた。この男に関わってはいけないと。
数では明らかに有利。加えてシュウは武器を持っていない。
普通なら絶対に退くべき場面ではないのだが、リーダー格の男は内心撤退することを決めていた。
が・・・
「おいリーダー。アンタまさかあんな優男にビビってんのか?」
撤退を指示しようとしたその瞬間、黙りこくっていたリーダーの様子を不審に思った大柄な山賊がずいっと前に出た。
(ちっ、コイツか)
大柄な山賊は機微もわからぬ典型的な脳筋だ。今もどうしてリーダーが馬車やシュウへの襲撃を指示しなかったのか、全く理解していない。
常に冷静に状況を見極め、得物を襲撃している最中でも危険を察知すれば即座に撤退を指示するリーダーと、あくまで気の向くまま勢いだけで行動する大柄の男は相性が悪かった。
「リーダーがビビってるようだからよぉ・・・ここは俺がその優男をぶっ飛ばしてやるぜ」
大柄の男はリーダーの返事を聞くことなく、大鉈を手にシュウに近づいていく。
(へっ、あのビビりに替わって俺が今度からリーダーになってやるぜ)
野獣のような本能を前面に押し出すタイプのこの男は、理屈ばかりこねて保身に走ってばかりのリーダーのことを嫌っていた。
だからリーダーがシュウに臆していることを察した大柄の男は、自分がシュウを呆気なく倒してやることで誰が本当のリーダーに相応しいか仲間達に見せつけてやろうとしたのだ。
「おい、やめとけ。この男はちょっと只者じゃねぇ・・・」
リーダーは大柄の男に忠告しようとするが、彼はそれを聞かなかった。
「うるせぇ。ビビってるならそこで黙ってみてな。それに、今回の荷は結構な数のポーションなんだろ?今回を見過ごすなら、次はいつこれほどの上物に出会えるかわからねぇぜ」
大柄の男の言葉に、リーダーは押し黙った。
それを了承の合図と受け取った男は、意気揚々とシュウの目の前まで歩を進める。
「おぉ、誰も名乗り出てきてくれなかったので寂しいと思っていたのですよ。貴方が私の『交渉相手』ですか?」
シュウは目を細め、ペロリと舌なめずりをして言った。良く見ると息が荒く、顔も紅潮しているように見える。
血気盛んな狂犬のようである。
(おい・・・あれやっぱヤバイやつだぞ)
リーダーは顔面を蒼白にしてたじろいた。
「そうだ俺が交渉人だ。俺の要求は一つ。荷とさっきの女を置いてさっさとこの場から消え失せろ。そうすれば殺さないでいてやるよ」
大鉈をちらつかせて大柄の男は言った。
反抗すれば直ちに殺すという意味であったし、実際にそうするつもりもあった。
リーダーと違い、この男はシュウを完全に舐めていた。
自分より小さな男であるし、体も細い。それに来ている服が神官を連想させるデザインなのも非力な印象を与えている。
だから目の前の優男が、まさか自分に牙を向いてくるなどとは思ってもいなかったのである。
「交渉決裂ですね」
「あ・・・?」
どう答えようが、多少は痛めつけてやらないとな・・・と考えていた大柄の男の視界が、一瞬にしてぐるりと回る。
シュウによる足払いで、シュウより遥か長身である大柄の男は、あっさりとバランスを崩して尻餅をつく。
「て、てめ・・・」
瞬時に何が起きたのかと理解し、すぐに反撃に出ようとした大柄の男だったが、次の瞬間には顔面に拳をのめりこまされて意識を失った。
カンッ
ノックダウンされた男の口から折れた歯が飛び出し、地面に落ちて小さな音を立てる。
ごくりと山賊達が息を飲む。
大柄な男は頭こそ悪いが、それでも仲間達の中でもきっての実力者だった。大型の魔物の攻撃を受けても倒れず、壁役としても頼りになっていた男だった。
それが彼よりも体の小さな素手の男に一瞬にしてのされてしまったことで、ようやく山賊達も自分達がいかに危険な相手に手を出してしまったのかを本当の意味で理解した。
「私の要求は一つ。今すぐ皆さまにはサンドバッグになっていただきたい。それだけです」
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