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追跡者達 拗らせ騎士スコーン
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逃亡したシュウ達を追う者達の動きが活発化する中、唯一動かないでいるのは『白金の騎士団』であった。
元々滅多に動かないのが白金の騎士団であり、フローラの騒動で動いたのがむしろ異例も異例と言えるのだが・・・そのフローラの一件で都民と衝突した際、『税金泥棒』と呼ばれたことは白金の騎士団に大きな衝撃を与えた。
「はは・・・婚約者に婚約解消してくれないかと言われてしまったよ。真実の愛を応援出来ぬ者とは愛を育めない、とさ・・・」
「僕のところも似たようなものさ。『普段何しているのかわからないと思ってたけど、ようやく動いたと思ったら真実の愛の邪魔だなんて。恥ずかしくはないの?』だってさ・・・はぁ」
白金の騎士団の詰所では団員達が死んだような目をしているのを、団長スコーンの側近であるヘンリーは横目にしながら歩いている。
(皆心が死にかけている・・・)
フローラの一件からたった数日で、かつて不屈と精神と屈強な肉体を持っていた帝国の誇りである白金の騎士団の面々は、見るも無残に腐っていた。
白金の騎士団の団員達は良くも悪くも純粋だった。出番こそ少ないが、帝国のために有事の際には命をかけて任務に当たる。自分達がいるからには帝国の平和を脅かすようなことは絶対にさせない・・・そのような絶対的な自信が彼らにはあったのだが、その庇護すべき都民から嫌われ、詰られ、攻撃されたことで想像を絶するほどの精神的衝撃が彼らを襲いかかったのだ。
中には親類縁者、恋人から責められた者もおり、その衝撃に耐えられなかった者が白金の騎士団の詰所の至るところで死に体となっていた。
(バカバカしい。我々白金の騎士は入団したその瞬間から、国のために全てを投げうっているはずだろうが!何を女々しいことを)
平民で天涯孤独であるヘンリーには、死に体となっている彼らの気持ちなどわからない。
白金の騎士団は入団したそのときから身分から何からそれまでの自分を捨てる。貴族であっても除籍し家名を捨て、平民の団員と同じ立場になるほどの徹底っぷりだ。
これは帝国のために、聖神教会のために、不退転の覚悟で任務にあたるべしという考えの元によるものだ。
・・・とは、一応慣例でそのようになっているわけであって、実際に貴族ならば平民に下ってからの入団ということはあるものの、それまでの人間関係の清算だとかそこまでは求められることはない。
しかし、元より失う物がなく、かつ原理主義で石頭であるヘンリーには、近親者や恋人、都民に詰られたことで心を痛める同僚達のことはただただ情けないとしか思えなかった。
(とはいえ、団長があの状態である今、団員に弱気が伝染してしまうことは無理もないことかもしれないか・・・)
ヘンリーは溜め息をついてから、ある部屋の目の前で歩みを止める。
そこはある意味団員の士気低下を招いている元凶である、団長スコーンの私室である。
コンコン
ヘンリーは部屋をノックし、声を張り上げた。
「団長、ヘンリーです。たまには外に出られてはいかがでしょうか?」
ここ数日、フローラの件以来、スコーンは心を病んで部屋に閉じこもっていた。
ヘンリーが軽蔑する同僚達と同様に、スコーンもまた心を壊してしまったのである。・・・というより、団長のスコーンがこのザマなので、団員達に悪影響を及ぼしたというのが正しいのかもしれない。
「団長。そろそろ外に出ませんと、いつまでも閉じこもってばかりでは心と体に毒です」
ここ毎日ヘンリーはこうしてスコーンに声をかけているが、返事が返ってきたことはない。
(団長がこのザマでは・・・!)
ヘンリーは歯がゆかった。
自分が尊敬し、信頼するスコーンがたった一度の躓きでここまで壊れてしまうことに戸惑いもあったし、それを見ているだけで自分では何も出来ない現状にもどかしさもあった。
「ヘンリー・・・入って来てほしいのである」
しかし、この日は数日ぶりにスコーンの声を聞くことが出来た。
「失礼します」
ヘンリーがようやく元気が戻ったのかと心を弾ませながら入室する。
スコーンはベッドで丸くなっていた。甲冑を着たまま。
(あれでどうやって寝られるのだろう・・・)
ヘンリーを含め、白金の騎士団員はスコーンが甲冑を抜いたところを見たことがない。「これを脱ぐときは団を脱する時である」と豪語していつだって脱がない。ヘンリーはスコーンを尊敬してはいるが、不衛生極まりないなとは思っていた。
「ヘンリー。相談に乗って欲しいことがあるのである」
ベッドで横になったまま、そう言ったスコーンの言葉にヘンリーは目を輝かせた。
「はいよろこんで!何でもおっしゃってください!なんでも力になりましょう!!」
スコーンがいくらかでも前向きになったこと、そして何より自分を頼ってくれたことを嬉しく思ったヘンリーは、心の底からスコーンのために何でもするつもりでいた。
「そうか・・・人に言うにも恥ずかしいことなのだが、力になったくれるか。私もお前にしか相談できないのである」
「自分にしか相談できない」この辺りでヘンリーは天にも昇るような気持ちだった。
尊敬するスコーンにここまで言わせたのだ。どんな悩みでも自分が解決しよう、そう思い、スコーンの次の言葉を待った。
「ヘンリー・・・」
「はいっ!」
「私のおちん〇んがおかしいのである」
「・・・・・・・・・・・・はっ?」
「私のおちん〇んがおかしいのである。苦しいのだ。張り裂けそうなのだ。ヘンリー、どうにかこれを楽にして欲しいのである」
悲痛なスコーンの求めに、ヘンリーはたっぷりと間を置いてから
「すみませんが力になれません」
滝汗を流しながらそう答え、部屋を出て行くことにした。
元々滅多に動かないのが白金の騎士団であり、フローラの騒動で動いたのがむしろ異例も異例と言えるのだが・・・そのフローラの一件で都民と衝突した際、『税金泥棒』と呼ばれたことは白金の騎士団に大きな衝撃を与えた。
「はは・・・婚約者に婚約解消してくれないかと言われてしまったよ。真実の愛を応援出来ぬ者とは愛を育めない、とさ・・・」
「僕のところも似たようなものさ。『普段何しているのかわからないと思ってたけど、ようやく動いたと思ったら真実の愛の邪魔だなんて。恥ずかしくはないの?』だってさ・・・はぁ」
白金の騎士団の詰所では団員達が死んだような目をしているのを、団長スコーンの側近であるヘンリーは横目にしながら歩いている。
(皆心が死にかけている・・・)
フローラの一件からたった数日で、かつて不屈と精神と屈強な肉体を持っていた帝国の誇りである白金の騎士団の面々は、見るも無残に腐っていた。
白金の騎士団の団員達は良くも悪くも純粋だった。出番こそ少ないが、帝国のために有事の際には命をかけて任務に当たる。自分達がいるからには帝国の平和を脅かすようなことは絶対にさせない・・・そのような絶対的な自信が彼らにはあったのだが、その庇護すべき都民から嫌われ、詰られ、攻撃されたことで想像を絶するほどの精神的衝撃が彼らを襲いかかったのだ。
中には親類縁者、恋人から責められた者もおり、その衝撃に耐えられなかった者が白金の騎士団の詰所の至るところで死に体となっていた。
(バカバカしい。我々白金の騎士は入団したその瞬間から、国のために全てを投げうっているはずだろうが!何を女々しいことを)
平民で天涯孤独であるヘンリーには、死に体となっている彼らの気持ちなどわからない。
白金の騎士団は入団したそのときから身分から何からそれまでの自分を捨てる。貴族であっても除籍し家名を捨て、平民の団員と同じ立場になるほどの徹底っぷりだ。
これは帝国のために、聖神教会のために、不退転の覚悟で任務にあたるべしという考えの元によるものだ。
・・・とは、一応慣例でそのようになっているわけであって、実際に貴族ならば平民に下ってからの入団ということはあるものの、それまでの人間関係の清算だとかそこまでは求められることはない。
しかし、元より失う物がなく、かつ原理主義で石頭であるヘンリーには、近親者や恋人、都民に詰られたことで心を痛める同僚達のことはただただ情けないとしか思えなかった。
(とはいえ、団長があの状態である今、団員に弱気が伝染してしまうことは無理もないことかもしれないか・・・)
ヘンリーは溜め息をついてから、ある部屋の目の前で歩みを止める。
そこはある意味団員の士気低下を招いている元凶である、団長スコーンの私室である。
コンコン
ヘンリーは部屋をノックし、声を張り上げた。
「団長、ヘンリーです。たまには外に出られてはいかがでしょうか?」
ここ数日、フローラの件以来、スコーンは心を病んで部屋に閉じこもっていた。
ヘンリーが軽蔑する同僚達と同様に、スコーンもまた心を壊してしまったのである。・・・というより、団長のスコーンがこのザマなので、団員達に悪影響を及ぼしたというのが正しいのかもしれない。
「団長。そろそろ外に出ませんと、いつまでも閉じこもってばかりでは心と体に毒です」
ここ毎日ヘンリーはこうしてスコーンに声をかけているが、返事が返ってきたことはない。
(団長がこのザマでは・・・!)
ヘンリーは歯がゆかった。
自分が尊敬し、信頼するスコーンがたった一度の躓きでここまで壊れてしまうことに戸惑いもあったし、それを見ているだけで自分では何も出来ない現状にもどかしさもあった。
「ヘンリー・・・入って来てほしいのである」
しかし、この日は数日ぶりにスコーンの声を聞くことが出来た。
「失礼します」
ヘンリーがようやく元気が戻ったのかと心を弾ませながら入室する。
スコーンはベッドで丸くなっていた。甲冑を着たまま。
(あれでどうやって寝られるのだろう・・・)
ヘンリーを含め、白金の騎士団員はスコーンが甲冑を抜いたところを見たことがない。「これを脱ぐときは団を脱する時である」と豪語していつだって脱がない。ヘンリーはスコーンを尊敬してはいるが、不衛生極まりないなとは思っていた。
「ヘンリー。相談に乗って欲しいことがあるのである」
ベッドで横になったまま、そう言ったスコーンの言葉にヘンリーは目を輝かせた。
「はいよろこんで!何でもおっしゃってください!なんでも力になりましょう!!」
スコーンがいくらかでも前向きになったこと、そして何より自分を頼ってくれたことを嬉しく思ったヘンリーは、心の底からスコーンのために何でもするつもりでいた。
「そうか・・・人に言うにも恥ずかしいことなのだが、力になったくれるか。私もお前にしか相談できないのである」
「自分にしか相談できない」この辺りでヘンリーは天にも昇るような気持ちだった。
尊敬するスコーンにここまで言わせたのだ。どんな悩みでも自分が解決しよう、そう思い、スコーンの次の言葉を待った。
「ヘンリー・・・」
「はいっ!」
「私のおちん〇んがおかしいのである」
「・・・・・・・・・・・・はっ?」
「私のおちん〇んがおかしいのである。苦しいのだ。張り裂けそうなのだ。ヘンリー、どうにかこれを楽にして欲しいのである」
悲痛なスコーンの求めに、ヘンリーはたっぷりと間を置いてから
「すみませんが力になれません」
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