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蛇に捉われた男

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時は戻り、視点はシュウに差し変わる。





『あーあ、やっちまったなぁ』


「・・・誰ですか?」


一切の光が刺さず、深い深い闇の中にある意識の底。
突然に話しかけられたことで、眠っていたシュウの意識は覚醒した。
話しかけてきたのは男の声。姿は見えない。


『警告したってのにまんまと絡め取られやがって。随分勘が鈍くなったんじゃねぇか?猫っかぶりばっかしてたら本当に猫になっちまったか?』


誰であるか、の質問には答えずに男の声は一方的にシュウに語り続ける。声の調子からして呆れている感じであった。


「警告?」


一体何のことだ?シュウは考えを巡らすが、相手はシュウの言葉が聞こえているのかいないのか、あくまで質問には答えずに話を続けた。


『ま、何にせよもう既にヤっちまったものは仕方がねぇ。俺が言いてぇのはって、それだけだ』


「はぁ?ですから、一体何の話なんですか!」


さっぱり話が見えないシュウはただただ混乱するばかり。
突然に詰られて、その上で「覚悟を決めろ」など突然に言われて理解など出来るはずも無かった。しかも相手は質問に何一つ答えてはくれない。


『いいか?・・・これだけだ。もう無かったことにはできねぇし、違う道に逸れることもできねぇ。どこにも逃げられねぇのさ。お前は自分のしたことに最後まで責任を持つ必要がある』


「何を・・・」


しつこく「覚悟を決めろ」と言われたことで、シュウは何か恐ろしいことでも起きるとかと身構えたが、その瞬間、何も見えない闇の中に蠢く巨大なものの存在に気付く。


「むっ!?」


それは巨大な蛇。
シュウを丸のみしてしまいそうなほどの巨大な口に、長く長くとぐろを巻いた山のような巨体。
そして身も竦むほどの圧を放ち、シュウを見つめる瞳。

シュウは呆然としてその大蛇を見上げていた。


『来ちまったか。それじゃ、俺はこれでお暇するぜ』


男の姿は相変わらず見えないが、大蛇が現れたことで退散するつもりのようであった。


「待ってください!貴方は一体・・・」


質問しようとしたシュウの体を、大蛇が足元から絡みついて拘束した。


「なっ・・・!」


抵抗することも出来ず、全身を大蛇に絡めとられ、一瞬にしてシュウは全く身動きが取れなくなってしまう。


ペロッ


動けなくなったシュウを、大蛇は長い舌でぺろぺろと舐めまわす。そして最後に口を大きく開けて、シュウの眼前に迫った。
ゾワリと悪寒が全身に走り、シュウは戦慄する。

捕食される--

「覚悟を決めろ」とはこの事だったのだろうか?
そんなことを考えていると・・・







「はっ!」


全身をビクッと震わせ、シュウは今度こそ眠りから覚め覚醒した。


「夢・・・」


目に入ってきたのはシュウ達が取った村の宿屋の部屋。暗闇の世界ではなかった。
悪夢を見ていたのかとシュウはふぅと胸を撫でおろす。


「あっ、シュウ様・・・起こしてしまいましたか?」


シュウの体には裸体のフローラが絡みついていた。
蛇に絡まれていた夢を見たのはこのせいかとシュウは納得する。
夢でぺろぺろ舐められていたのは、もしかしてその時フローラにキスでもされていたのか?そういえば前にも朝からそんなことをされたような・・・

それにしてもフローラを大蛇などと認識してしまうとは、夢とはいえ失礼なことをしてしまったとシュウは思ったのだが・・・


「・・・!」


一瞬・・・それはほんの一瞬ことだった。
フローラが愛おしそうに自分を見つめて来るその瞳が、悪夢の中で見た大蛇のそれとまるで同じようだとシュウには思えてしまったのだ。

再びシュウの体に悪寒が走った。
目の前にいる少女は可憐なのに、その実恐ろしい化け物なのではないかと思ってしまい、冷や汗が一筋シュウの頬を伝う。


「どうしました・・・?」


心配そうな顔をして、フローラはシュウの顔を覗き込む。


「いえ、何も」


シュウは微笑を浮かべながら、頭に湧いたフローラに対する違和感を振り払った。
夢の中で言われた言葉も、いつの間にか記憶に留まらずに四散する。
シュウは頭の片隅に湧いた、目の前のフローラに対して抱いた不気味な感覚を振り払うために言った。


「朝からで申し訳ありませんが、今からしませんか?」


言われたフローラは一瞬ポカンとしたものの、顔を赤らめながらシュウの求めに応じた。

これがシュウの残念な「モヤモヤしたときの誤魔化し方」であり、ずぶずぶとフローラへと深くハマり込んでいくのである。
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