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私の愛は狂暴です 23

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マダム・リムルが渋々フローラの持ち掛けた取引に応じると、シュウからの取り立てに関する段取りを手早く済ませ、用事の終わったフローラは挨拶もそこそこに颯爽とその場を後にした。シュウ包囲網を敷くために彼女には無駄にして良い時間は一切無いのだ。


「オーナー・・・あれで良かったのでしょうか?」


フローラのいなくなったその場で、呆然とするリムルに傍にいた娼館の店長が恐る恐る訊ねた。

フローラが脅迫した材料である『麻薬』は、リムルの娼館の行く末どころか国を揺るがすレベルのスキャンダルに発展しかねないネタだった。『麻薬』を使ったプレイを気に入って懇意にしている『上客』の中には、国の役人や貴族、果ては皇族の一部もいたりと、帝国の重要人物が多いからである。

意図せぬ者にこれを知られた場合、口封じをせねばならぬほどの重要機密をフローラは知っていた挙句、それを使って脅しをかけてきた。
リムル達からすれば危険人物である。この娼館から無事に返してはならなかったのでは・・・そう店長には思えてならなかったのである。


「あれより他に仕方がないよ。あのをそうそう口封じ出来ると思うかい?」


リムルは溜め息をつきながら言った。
フローラに対する呼び名を『お嬢ちゃん』から格上げ?していることに店長は気付くが、すぐに納得する。『お嬢ちゃん』と呼ぶには、フローラは少々無理ある厳つい存在になってしまっているからだ。


「・・・はぁ、是非もありませんな。失言でした」


店長も諦めて溜め息をつく。
フローラは『聖女』だ。聖女になるには絶大なる聖魔法の使い手であることが最低条件であって、単身での戦闘力は生半可な冒険者では束になっても敵わないとされている。
加えてフローラはシュウが仕込んだ格闘術の鍛錬も怠っておらず、極秘裏に口封じするには少々リスクの高い存在と言えた。
故にリムルはフローラの始末を諦め、フローラの要求を飲むしかなかったのである。


「しかし、あの子もとんでもない子に成長しましたな・・・」


フローラが最初に娼館に突撃してから、リムルとともに店長もフローラの対応に追われていたので何とも言えない気持ちが彼にはあった。
「何かマセた子だなぁ」と思っていたが、マセてるなんてものじゃない、とんでもないサイコパスに成長してしまったフローラを目の当たりにして店長は困惑すらしていた。
見た目は可愛らしい女の子だが、中身はとんでもなく腹黒・・・得体の知れない化け物でさえあると言えた。


「・・・とはね、今回を限りにもう二度と関わらないほうがいい。まぁ、今後向こうからやってくることはないだろうけどね」


かつてフローラには面倒な対応をさせられながらも、それでも気概ある彼女のことをリムルは実のところ気に入ったと知る店長は、リムルの発言に驚いた。
不機嫌そうにしながらもどこか楽しそうに相手をしていたはずのリムルは、今や眉を顰めて神妙な様子で「関わらない方がいい」とまで言ったのだから。


「あれは自分の欲望のために本当に何でもするタイプだね。巻き込まれる者のことなんて何も考えてない真正のサイコパスだ。それもとてつもない行動力を持った・・・ね。巻き込まれないうちに遠ざかるが正解だよ。玄関に塩まいときな」


邪険にするなんてレベルではないほどに、リムルはフローラを忌避するようになった。
肝が据わり、一度気に入った相手なら簡単には無碍にはしないはずのリムルがここまで忌避するようになったフローラ・・・そんな彼女がなりふり構わず追い求める男シュウに対し、店長は「可哀想な人だ」と思ったのだった。

いずれ訪れるシュウの女難はフローラ相手だけなのではないのだが、この時は誰一人としてそれを知る者などいるはずがなかった。
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