上 下
85 / 473

私の愛は狂暴です 22

しおりを挟む
「アンタ・・・シュウのことをどうしようもないくらいに愛していたんじゃなかったんかい?」


シュウのツケの減額や建て替えの話をするかと思っていたリムルは、急にツケを増額方向に操作しろと言ってきたフローラの心中が理解できないでいた。


「結論を言いますと、私はシュウ様に無茶苦茶な債務を背負わせ、その債権を私が買うことでシュウ様を自分の物にするつもりです」


「は・・・?」


「この娼館のツケを水増ししてもらうことがシュウ様に一番怪しまれることなく債務漬けにすることが出来ると考えています。そちらのツケの総額の改竄さえしていただくだけで良いのです。もちろん、改竄された金額はそのまま私が後でお支払いしますから、そちらにとっても悪い話ではないはずです。今回はそれをお願いに来ました」


フローラの話を一緒に聞いていた娼館の店長は、ぼそりと小声で「狂ってる」と呟いた。真顔で真っ直ぐな目をしながら、愛する男を借金漬けに陥れようなどと、まだ年若い・・・それも『聖女』とされている少女がやろうとしているという事実に恐れおののく。


「ほぉ、大したことを考えるじゃないか。ま、確かにそれなら確実にシュウを自分の物にできるさね。どうせ正面からじゃアレに相手してもらえないとわかっているなら、尚更良い手かもしれないね」


店長と違い、リムルはフローラを意図さえ飲み込んでしまえば特にそれ自体にどうとか感じることはないようで、薄ら笑いを浮かべながらそう言った。


「なら・・・」


「だが断るよ」


提案を受け入れてくれそうだと早とちりして顔を綻ばせたフローラに対し、一瞬で笑みを引っ込めると、淡々とした声でリムルは彼女の言葉を遮る。


「私達の仕事も信用商売だし、この仕事はこの仕事で誇りを持ってやっているからね。花代をちょろまかすなんて恥知らずな真似は出来ないのさ。例えどんな事情があったってね。今日のことは聞かなかったことにしてやるから、さっさと帰るんだね」


取り付く島もないリムルに対し、フローラはあくまで冷静なまま表情を崩さない。
自分の要求を聞き入れられずに激昂して駄々をこねていたかつてのフローラの姿を思い出していたリムルは、フローラのその様子に違和感を覚えた。


「では、こういう取引というのはどうでしょう」


フローラはスッと目の前にあるものを差し出した。


「っ!」


それを見たリムルと店長の顔が引きつる。
フローラが二人に見せたものは、包み紙の上に乗っている白い粉末。一件すると小麦粉なのか何なのかよくわからないが、見る人が見ればすぐにあるものに結び付いた。


「これ、マダム・リムルの経営している娼館で、一部の上客に使われている薬だそうですね」


リムルの表情が強張った。
店長は顔を青くして震えている。


「快楽性と興奮を異常に高め、精力の増強までするという貴重なセックスドラッグ。ですが、この帝国での分類は厳しく取り締まられ禁止されている『麻薬』というやつですよね」


「どこでそれを・・・」


マダム・リムルが力を持つことが出来るのは、彼女の経営する娼館に高位貴族などが常連として通っているというのがあるが、彼らはただリムルの店を贔屓にしているわけではない。
『麻薬』によって快楽を得ているという秘密を共有しているというのがあった。
上客からすれば禁止されている遊びに興じることが出来るし、リムルからすると秘密を共有することで彼らの後ろ盾を得ることが出来るという、ウィンウィンの間柄であった。

当然ながら事が事だけにそれはリムルの店でも極々一部の人しか知らぬほど、徹底して管理されている情報なのだが、フローラはその恐るべきネットワークでその情報を掴んでいた。


「証拠も証人もこちらは用意してあります。まぁ、そちらでいくら手を回して証拠を根絶しようとも、一度この情報が表に上がっては醜聞を気にした上客様方が敬遠して、そちらの商売があがったりになりますよね?私はそこまではしたくないのです。ですから、どうか私の言うことを聞いていただけませんか?」


フローラはそう言って強かに微笑んだ。
懸想する男を物にするための謀略。自分の要求を押し通すための脅迫。
『聖女』とまで言われているはずのかつての癇癪を起こして泣き喚いていただけの少女の恐ろしい方向への成長に、リムルの頬を冷や汗が一滴流れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

.
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...