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私の愛は狂暴です 22

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「アンタ・・・シュウのことをどうしようもないくらいに愛していたんじゃなかったんかい?」


シュウのツケの減額や建て替えの話をするかと思っていたリムルは、急にツケを増額方向に操作しろと言ってきたフローラの心中が理解できないでいた。


「結論を言いますと、私はシュウ様に無茶苦茶な債務を背負わせ、その債権を私が買うことでシュウ様を自分の物にするつもりです」


「は・・・?」


「この娼館のツケを水増ししてもらうことがシュウ様に一番怪しまれることなく債務漬けにすることが出来ると考えています。そちらのツケの総額の改竄さえしていただくだけで良いのです。もちろん、改竄された金額はそのまま私が後でお支払いしますから、そちらにとっても悪い話ではないはずです。今回はそれをお願いに来ました」


フローラの話を一緒に聞いていた娼館の店長は、ぼそりと小声で「狂ってる」と呟いた。真顔で真っ直ぐな目をしながら、愛する男を借金漬けに陥れようなどと、まだ年若い・・・それも『聖女』とされている少女がやろうとしているという事実に恐れおののく。


「ほぉ、大したことを考えるじゃないか。ま、確かにそれなら確実にシュウを自分の物にできるさね。どうせ正面からじゃアレに相手してもらえないとわかっているなら、尚更良い手かもしれないね」


店長と違い、リムルはフローラを意図さえ飲み込んでしまえば特にそれ自体にどうとか感じることはないようで、薄ら笑いを浮かべながらそう言った。


「なら・・・」


「だが断るよ」


提案を受け入れてくれそうだと早とちりして顔を綻ばせたフローラに対し、一瞬で笑みを引っ込めると、淡々とした声でリムルは彼女の言葉を遮る。


「私達の仕事も信用商売だし、この仕事はこの仕事で誇りを持ってやっているからね。花代をちょろまかすなんて恥知らずな真似は出来ないのさ。例えどんな事情があったってね。今日のことは聞かなかったことにしてやるから、さっさと帰るんだね」


取り付く島もないリムルに対し、フローラはあくまで冷静なまま表情を崩さない。
自分の要求を聞き入れられずに激昂して駄々をこねていたかつてのフローラの姿を思い出していたリムルは、フローラのその様子に違和感を覚えた。


「では、こういう取引というのはどうでしょう」


フローラはスッと目の前にあるものを差し出した。


「っ!」


それを見たリムルと店長の顔が引きつる。
フローラが二人に見せたものは、包み紙の上に乗っている白い粉末。一件すると小麦粉なのか何なのかよくわからないが、見る人が見ればすぐにあるものに結び付いた。


「これ、マダム・リムルの経営している娼館で、一部の上客に使われている薬だそうですね」


リムルの表情が強張った。
店長は顔を青くして震えている。


「快楽性と興奮を異常に高め、精力の増強までするという貴重なセックスドラッグ。ですが、この帝国での分類は厳しく取り締まられ禁止されている『麻薬』というやつですよね」


「どこでそれを・・・」


マダム・リムルが力を持つことが出来るのは、彼女の経営する娼館に高位貴族などが常連として通っているというのがあるが、彼らはただリムルの店を贔屓にしているわけではない。
『麻薬』によって快楽を得ているという秘密を共有しているというのがあった。
上客からすれば禁止されている遊びに興じることが出来るし、リムルからすると秘密を共有することで彼らの後ろ盾を得ることが出来るという、ウィンウィンの間柄であった。

当然ながら事が事だけにそれはリムルの店でも極々一部の人しか知らぬほど、徹底して管理されている情報なのだが、フローラはその恐るべきネットワークでその情報を掴んでいた。


「証拠も証人もこちらは用意してあります。まぁ、そちらでいくら手を回して証拠を根絶しようとも、一度この情報が表に上がっては醜聞を気にした上客様方が敬遠して、そちらの商売があがったりになりますよね?私はそこまではしたくないのです。ですから、どうか私の言うことを聞いていただけませんか?」


フローラはそう言って強かに微笑んだ。
懸想する男を物にするための謀略。自分の要求を押し通すための脅迫。
『聖女』とまで言われているはずのかつての癇癪を起こして泣き喚いていただけの少女の恐ろしい方向への成長に、リムルの頬を冷や汗が一滴流れた。
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