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私の愛は狂暴です 21

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「突然押しかけてきて会わせろだなんて不躾なことを言う輩が訪ねてくるなんて誰かと思ったが、やっぱりお嬢ちゃんだったね。私をここまでぞんざいに扱う人間は帝国では・・・いや、この世であんたくらいだよ」


ノーアポイントで娼館に押しかけたフローラを迎えたのは、娼館のオーナーであるマダム・リムルだった。
歳の頃は40代半ばで妖艶なる美しさを持ち、帝都の風俗業の半分以上を取り仕切っている。かつて娼婦をしていたが、そこで稼いだ金を元手に身一つでここまでのし上がってきた女傑だ。

リムルが経営する娼館には、自他国の貴族を始めとした多くの高貴なる者が顧客としてついており、そのこともあって貴族ではないはずの彼女は実質的に己が身分を遥かに超える力を持っていた。
故に普通ならば会うことは難しい。自国の皇族であろうとも事前連絡無しには会わせてすらもらえないのだが、フローラは特に帝都内では絶大な権力を持つ『聖女』であり、また個人的な因縁もあったがためにすぐに会うことが出来た。
突然の呼び出しに不機嫌さを隠そうともしないリムルを見て従業員は震えあがったが、そんな彼女の視線を正面から受けてなお、フローラは堂々としていた。


「それで今回はどんな要件で来たんだい?私ぁこれでも忙しい身だからね。要件は早く済ませておくれよ」


リムルは口調こそ不機嫌そうだが、それでもどこか楽しそうな目でフローラを見つめている。


「今回は『お願い』に来ました。いえ、『取引』とでも言いましょうか」


「ほぅ?」


フローラの言葉に、リムルは口角を上げる。


「お嬢ちゃんはいつも『お願い』ばかりしてきたけど、その件とは別なんだろうね?それともシュウに絡んでのことかい?」


「そうです」


「はっ!まぁ・・・あんたがここに来る要件と言えばやっぱりそれくらいしかないわねぇ」


リムルはかつての光景を思い出す。
数年前、あるとき泣きながら娼館に突撃し、『シュウ様を出入り禁止にしてください!』と懇願しに来たのがフローラで、それを何度も追い返したのがリムルだった。

本来ならば店長どころかボーイがつまみ出して終わりなのだが、聖魔法とシュウ仕込みの格闘術を駆使するフローラを力づくで追い出すのは骨が折れ、『十代前半の少女が押しかけている』といった報告を聞いて興味のそそられたリムルが仕方なしに話し合いに応じたのが彼女らの初顔合わせだった。


『シュウ様を出入り禁止にしてください!』


フローラは懸想するシュウが自分と別の女と淫らな行為をしているのが嫌過ぎて暴走し、ついに娼館に押しかけてシュウを出入り禁止にしろと喚きだしたのだ。
もちろん、この手の類の相手をするのは初めてではないために、リムルは全く取り合わなかった。


「それはお嬢ちゃん本人がシュウに何とかするんだね。うちは大事なお客様を理由なく出禁にするなんてことは出来ないよ」


『それでも!』


「はん。それじゃお嬢ちゃんが店の子としてシュウの相手でもしてみるかい?」


『やります!』


「少しは躊躇しな!なんてマセた子だい! 可愛げがないね!!」



フローラとリムルはそのような不毛なやり取りを何度かした間柄である。


-----


「それで、今度はシュウの何をお願いするというんだい?シュウは神官を辞めさせられたって話じゃないか。愛想も尽きたってもんだろう」


帝都の影の権力者であるリムルの元には、既に独自の情報報でシュウについての情報が入っていた。
常連であることに加え、フローラを絡む騒動があるために一応気にかけている客リストに入っているために、彼の動向は逐一報告されている。
リムルが権力者であることは知っているために、フローラはシュウのことに切り出したリムルには特に驚かなかった。


「知っているなら話は早いです。シュウ様にはこの店にいくらかのが溜まっていますよね?『お願い』というのは、その額を調整してほしいということです」


「調整・・・?」


フローラの言葉に、それまで笑みを浮かべていたリムルが怪訝な顔をした。
フローラもまた独自の情報網でシュウについてのことは掴み切っているだろうことはリムルも把握していたために、ツケのことを知っていることについては驚きはない。
しかし「調整」とは一体どういうことかと首を傾げる。


「シュウ様のツケを、支払い不能なほどに釣り上げてほしいのです。債権奴隷に叩き落とすレベルまで!」


「・・・は?」


さしもの女傑も、フローラのこと言葉には唖然とした。
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