上 下
75 / 464

私の愛は狂暴です 12

しおりを挟む
一瞬とも、何年ともわからぬ時間をフローラは悩み続けた。
起きているのかいないのか、混濁した意識の中で彼女の耳に誰かの声が入ってくる。

ああ・・・彼の声だ。

待ちわびていた声。誰のそれよりも聞いていたい声。
フローラの意識はその声に引き寄せられるように覚醒した。


「フローラ・・・どうして・・・どうしてこのようなことをっ!」


意識が覚醒したフローラの耳に入って来たのは男の叫び。
目に飛び込んできたのは、ぐったりしている女と、それを抱きかかえている男・・・シュウの姿だ。
シュウに糾弾されていたのはフローラだった。


「フローラ・・・どうして・・・?」


どうして?
・・・ああ、そうか思い出した。
自分はシュウに糾弾されるだけのことをやったのだと、いくらかの間をもってようやくフローラは理解した。

シュウが抱きかかえている女・・・レーナの体からは多量の血が流れている。
フローラが聖魔法の攻撃によるものであった。


「どうして?ふふ、おかしなことを聞くのですねシュウ様」


腹を抱え、ケラケラと本当に可笑しそうにフローラは笑う。


「そんなの、シュウ様が私のものにならないこの世界が悪いんじゃないですか」


狂喜を笑みを浮かべながら言うフローラに、シュウは怒りのあまり叫びながら突撃して---





「あぁ、ダメダメ。そういうのナシ。例え妄想でもシュウ様に殺されるなんて駄目ゼッタイ」


先ほどまでの世界が一瞬にして消え失せ、場面は教会の礼拝堂に切り替わる。
シュウもレーナもこの場にはいない。いるのは数人の教徒と、手を組んで膝を折り、祈る姿勢を取っているフローラだけだ。

先ほどまでの光景は、全てフローラの妄想だ。
前日にシュウの同僚の神官に話を聞いてから、ずっと部屋でフローラは泣き明かした。泣いて泣いて泣いて、これでもかと言うほどに泣き通したら、今度は妄想をして鬱憤を晴らす方向にシフトした。

シュウを失った悲しみから闇落ちし、シュウの恋人となったレーナを自ら手にかけるといった妄想をしていたが、少しだけフローラの考えている理想の世界とかけ離れた方向へ進もうとしていたので一旦その妄想は打ち切り、今度はまた新しく違う妄想を開始する。

妄想しても現実は1ミリも変わらない。
わかってはいるが、わかるわけにはいかん。人は時として無意味とされる妄想で心の安息を得るのである。

フローラはやり場のない激情を、過激な妄想をひたすらに頭の中で垂れ流すことでどうにか表に出ることを食い止めていた。


「フローラが祈っているわ。あんなことがあったばかりだというのに・・・」


「どのような時でも、神への祈りは欠かせない・・・まさに聖職者になるべくしてなった人ですね」


フローラの頭の中身など知るはずもない教徒達は、礼拝堂で余暇すらつぎ込んでひたすらに祈る彼女を見て感激すらしていた。
実際は人々が思っているような聖女に似つかわしいそれではなく、邪悪極まりない妄想をしている。

今のフローラの妄想は、突如フローラが巨大化し、口から火を吐き拳で建物を破壊し、帝都中を火の海にして壊滅して回っているといった痛いを通り越してワケの分からない内容なのだが・・・周囲からは聖職者としての理想の権化とすら見られている。

さしもの緊急事態に勇者パーティーがやってきて、巨大フローラと帝国の存亡をかけた最終決戦になる・・・といったところで、フローラの妄想は突如として終わりを迎えた。


「そうだわ・・・そうよ・・・」


フローラは何度ともわからぬ妄想の中で、一つのことに気が付いたのだ。


「権力。そうよ権力よ・・・」


数ある妄想の中で、フローラは自分が権力を手に入れ、力づくでレーナにざまぁするという陰湿な妄想を抱いていた。
結局その妄想の最後はシュウに断罪されるという結果になってしまったために即座に廃棄した妄想だったのだが、方向の持っていき方次第では現実にシュウを手に入れることが出来るのではないかと今更気が付いたのだ。


「権力・・・そうよ。聖女になって、権力さえ手に入れれば・・・!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...