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私の愛は狂暴です 11

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フローラの熱心なアピールは「あらあらまぁまぁ」と、見る者をほっこりさせていた。歳の差があるだけに「お兄さんに憧れる年ごろ」と見ている者もいるにはいたが、それでも大半はフローラのそれがガチ恋であることを知っていた。

だからこそ、その日がやってこようなどとは誰も思ってもみなかった。


「えっ、シュウ様が・・・婚約・・・?」


シュウとレウス司教の娘であるレーナが婚約内定。
そのニュースは一部の者にしか広まらなかったが、教会内でパイプを広げていたフローラは誰よりも早くその情報を掴んだ。


「あの、嬉しいですけど、私いつの間にシュウ様と婚約したのでしょう?」


落ち着き払った態度だが、フローラはこれでもかというほど錯乱していた。


「落ち着いて。どうか落ち着いて。婚約したのは君とじゃない」


「えっ?私じゃなければ、一体誰がシュウ様と婚約するというのですか?」


フローラの中でシュウと婚約するのは自分以外あり得なかった。


「だから落ち着いて。シュウとレーナ様と言っただろう?」


「シュウ様が・・・他の人と婚約・・・?」


「正確には婚約内定・・・のようだよ」


錯乱するフローラを宥めつつ、根気強くシュウの情報を落ち着いてフローラに伝えたのは、レウス司教の側近を務める神官だ。
彼はシュウの同僚であり仲も良かったために、フローラからシュウに関係する情報は何でも教えてくれとお願いされていた。


「婚約内定・・・それは婚約と何が違うのですか」


「・・・なんだろうね。婚約のようなものなんだろうけど・・・」


神官もこの婚約内定についてそう取り決めたレウス司教の心境は把握できないでいた。実際にはシュウとの婚約は保険であり、レーナには本命として出世した勇者ライルをあてがいたいとレウスが考えているなどと誰が予想するだろうか。


「シュウ様が・・・婚約・・・それを、シュウ様は良しとしたのですか!?」


「あ~、それはねぇ・・・良しとしたというか、断れないというか・・・まぁ、大人にはいろいろあるんだよ。これも仕方ないのさ」



フローラは神官に掴みかかる勢いで聞くと、神官は気まずそうに視線を逸らしながら後頭部をポリポリとかいて答える。
そして更に言いにくそうにしながらも言葉を続けた。

「それとシュウはこれから勇者ライルが率いるパーティーに属して旅をするため、籍は残すけど教会からは離れることになるみたいだ」


フローラは頭を大金槌でぶん殴られたほどの衝撃を受けた。
婚約だけでなく、物理的にシュウは自分の元から離れてしまうということはフローラにとって死ぬほどのショックだった。


「そ・・・」


そんな話ってありますか!と癇癪を起こしそうになるのを、フローラはすんでのところで堪えた。
シュウは理不尽な圧力に諸手を挙げて屈する男ではない。フローラを先輩の虐めから救ったのも、逆らい方を教えたのも、理不尽な圧力というものを憎んでいるからだった。そのシュウが婚約内定に納得したというのなら、それなりの理由があるか、考えたくはないがシュウそのものにとって望むべく話だったのか。

勇者ライルとの冒険も、シュウの口からライルのことをたびたび聞いていたフローラは「きっとシュウ様も望んでいたことだったんだ」と渋々納得した。
かつてシュウがライルのことを楽しそうに話すのを、フローラは僅かばかりに嫉妬しながらも聞いていたのだ。


「そういうことなら、仕方がないですね・・・」


言葉では納得しつつも、怒気をこれでもかというほど孕んでそう声を絞り出したフローラは俯いて体を奮わせる。
シュウの思惑がどうであれ、今フローラが感情に任せて騒ぎ立てれば巡り巡ってシュウに迷惑がかかることになるかもしれない・・・そう思ってフローラは耐え忍んだ。
いや、耐え忍ぼうと必死に己の心と格闘した。


「グギギ・・・ううううぅぅぅぅぅぅ・・・!」


ギリギリと音がするほどに歯を食いしばり、血涙と吐血を流しながらフローラは全身を震わせつつ・・・最後は耐えた。必死に堪えた。死ぬほど気合を入れてどうにか我慢した。


「ヒェッ!」


踵を返してとぼとぼと歩いていくフローラを見て、神官は震えながら悲鳴を上げた。


「鬼だ。心で泣いて内から溢れ出そうとしている怒気を必死で抑え込んでいる鬼だ・・・シュウめ・・・あんな子に目を付けられてしまうなんて」


およそ年齢に似つかわしくないオーラを放っているフローラを、神官はただただ恐怖の対象として見ていた。そしてフローラに深く懸想されているシュウに対し、羨ましさ僅か、同情心大半を抱くのだった。
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