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私の愛は狂暴です 6

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「嘘・・・そんな・・・信じられない・・・」


自分の肌にあった、もう消えるはずのない傷がいつの間にか消えているのを、フローラは何度も何度も瞬きしてから確認する。
それからまさに穴が空くほどの勢いで凝視し続け、そして本当に傷が綺麗さっぱり消えているのを漸く認識すると、目を丸くしてシュウの顔を見た。


「あの・・・これって一体・・・私の傷が・・・」


何が起きているのか理解し切れていないような顔でそう言うフローラにシュウは微笑みかける。


「反対側の手も出してください」


シュウに促され、フローラはすぐさま彼の言う通りに今治療された方の反対の側の腕の袖も捲った。
そこにも先ほどと同じだけの数の傷跡があったが、シュウが手をかざして回復魔法を使うと、それらもまた綺麗さっぱり無くなった。


「す・・・凄いです・・・」


フローラは目を見張って驚愕する。
聖魔法の素質ありとして教会でフローラは回復魔法を習い始めているが、担当している教師よりもシュウの回復魔法の腕は遥か上であるように見えた。
何故なら「自然治癒するまで放置した傷跡は決して治らない」と彼ら教師は口を酸っぱくして言っていたからだ。
教科書にも同じことが書かれており、そのために怪我をした後の治療魔法は迅速に行うようにと重ねて注意を受けている。自然治癒が進めば進むほど元ある形に戻す工程が複雑になるからであるとかどうとか、いろいろと説はあるがその辺ははっきりしていない。

だが、シュウの治療魔法はそのフローラが教わっていた回復魔法の常識を覆すものであり、フローラは大きく衝撃を受けていた。
怪我を見るたびに一生教会での辛い経験を思い出すことになるのだろうかと、絶望を抱いていたフローラは突然にその柵から解放されたことで困惑すら感じている。


「治療魔法では、この傷跡はもう消せないものだと・・・」


ポツリとそう漏らすフローラに、シュウは微笑しながら答えた。


「そう思われがちですが、コツさえ掴めばある程度は可能です」


何てことの無いように言うが、それがどれだけ凄いことかくらいはフローラもわかっていた。
(この人は凄い人だ!)
フローラは唐突に現れた救いのヒーローが想像以上の偉人であることに興奮し、胸の高鳴りが止まらなかった。


「それで・・・跡になっているのは腕だけですか?」


そんなフローラに、シュウは少し躊躇いがちに質問する。


「他にもあるならば、治療してみせましょう」


フローラはシュウの質問に「他にもあります」と言いかけ、ハッと気づいて口を噤んだ。
虐めでつけられた体の傷は他にもあるが、それの治療を頼むということは目の前の出会ったばかりの男に肌を晒すことになるというに気が付いたのだ。


「極力見ないようにしますが、ただ、きちんと治療するためにはある程度どうしても・・・」


気まずそうにそう言うシュウに、フローラは決心したように頷いて答えた。


「傷は他にも・・・あります」


袖を捲るだけでは決してみることの出来ない場所にある傷・・・
それを晒すことによるほんの一瞬だけ生じた躊躇いをフローラは振り切った。
消せないと思っていた傷跡を消せるのだから、というだけではない。シュウならば構わないと考えて直したからだ。

それからフローラ達は人目につかない部屋に移動し、服を脱がねば出来ない箇所の治療を開始した。
フローラがつけられた傷の箇所は、全身いたるところに点在する。先輩修道女達のストレスのはけ口に使われるサンドバッグ扱いであったからだ。

シュウはフローラの治療を行っている際、終始険しい表情をしていた。
目に見えるだけの傷跡を全て消した後


「報いは受けてもらわねば」


表情は微笑を浮かべながらも、静かにドスの効いた声でシュウがそう呟く。
理不尽な虐めに耐えるフローラにシュウはかつての自分を重ね、静かな怒りを湛えていた。

しかしそんなシュウとは裏腹に、フローラは興奮がやまなかった。
シュウを見ているだけで動悸が止まらない。

初めて自分に本当の意味で優しくしてくれた男、助けてくれた人、かっこいいい人・・・
シュウに対する好意で頭の中が埋めつくされ、フローラの中で彼は神格化された。

この日からシュウに対するフローラの恋が始まった。そしてそれは狂暴なほどの燃え上がりを見せることになる。
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