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私の愛は狂暴です 4

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先輩修道女とのいざこざ以来、フローラの教会での生活は地獄へと様変わりした。
元々重労働だったところに、今度は暴力が加えられるようになり、暴力を振るわない
同僚からの当たりも更にきついものになる。

フローラを迫害する女達の派閥が出来上がると、ほとんどの者が彼女らとの衝突を恐れることになり、元より多く無かったフローラに有効的に接する者は一気にその数を減らした。
フローラに近くに残ったのは皮肉にも彼女に対して下心を持っていた男達のみ。
逆境に立つフローラに優しくすれば・・・という邪な考えから彼らはより距離を縮めようとし、それがまた先輩らを刺激する。

先輩らと正面から衝突することは出来ず、かといって表向きは優しくしてくれる男達を無碍にすることも出来ず、八方塞がったフローラは徐々に精神を削られていった。


(これも神様の試練だと言うのだろうか)


フローラは礼拝堂の掃除をしながら、そんなことをふと考えた。
服に下にはいたるところに先輩につけられた生傷がある。毎日一つずつ増える。
聖魔法の素質はあるが、まだきちんとした回復魔法を教わっておらず、また幼い故に力のコントロールも不安定なフローラには自分の能力でその傷を塞ぐことは出来ない。
回復魔法を使える教徒にお願いすれば傷を消すことは出来るだろうが、そうすると怪我の理由について他人に話さなければならず、それが知れると先輩からの壮絶な報復が待っていると思うと、フローラは誰に話すことなく泣き寝入りを決め込むしかなかった。

肌の傷は回復魔法で治すことが出来るが、日が経つと完全に治療することは難しくなる。既にフローラの体には消えることのない傷が何カ所にも残っていた。
そのことがさらにまたフローラの心を追い詰める。

誰も助けてはくれない。何も救いにはならない。
この教会も飛び出してしまおうか。しかし、そうしてしまって生きて行くことは出来るだろうか?出来るはずもない。自分はまだ何もできない少女なのだから・・・と。

フローラは自分の精神をどんどんすり減らし、抵抗することも逃げることも出来ないのならと、せめて痛みに対して鈍感であろうと心を閉ざそうとしていた・・・そんなある日のことだった。




「感心しませんね。虐めというものは」


いつものように人目のない場所で先輩に囲まれ、また生傷を一つ作らされようとしているそのときだった。
落ち着いた口調でうすら笑いを浮かべながらも、しかしどこか怒気を孕んだシュウがその場に介入してきたのは。


(誰・・・・?)


人目のないところで行われてきただけあって、これまで虐めの現場に介入してきた者など皆無だった。だからフローラは最初何が起こっているのかわからなかった。


「あら、何のことかしら?」


「虐めとおっしゃいましたか?そのようなことはしておりませんよ」


「何もしていませんわ」


焦った表情を最初は浮かべた修道女らは、シュウに対してすっとぼけてみせた。
内一人はフローラの肩に手を置き「余計なことを話すな」と暗に圧をかける。

この修道女達の教会内での立場はそこそこ強いことをフローラは知っていた。彼女らの実家は貴族であり、中には侯爵家の者もいる。
教会内ではあくまで実家の身分に関係なく、各々は対等として接すべきとされているが、あくまでそれは建前。実質的には貴族の力は権力不可侵の教会にも及んでいる。

だからフローラを虐める修道女らは、虐めを巧妙に隠してはいるが、彼女らの行動を知っている者は少数いたものの、それを咎める者はいなかった。報復が恐ろしいからである。

修道女らは教会内で立場が上の者よりも実質的に強い力を持っていた。故に神父ですらも彼女らを簡単には止められない。
軽く口を出すことだって、リスクがあるので親しい者がするときはあるが、それだけだ。本格的に彼女らに反抗しようとする者はいない。


「何もしていない?とてもそうは見えませんね。彼女が怯えています」


だから、そんな強権を持つ修道女達に一歩も引かずに立ち向かうシュウを、フローラはとてもとても異質なものに感じた。

シュウはフローラの肩に置かれた修道女の手を払うと、庇うように前に立つ。
これがフローラが初めて見た『頼りになる背中』だった。
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