上 下
64 / 464

私の愛は狂暴です

しおりを挟む
帝都から逃げ出し、他国の小さな村で宿を取ったシュウ達。
一旦逃走に成功したことにより緊張から解放されたことによる気分の高揚と、法王の娘という背徳感、いろいろ合わさって盛り上がったシュウに激しく抱かれたフローラは、自分の隣で裸で熟睡しているシュウの横顔を楽しそうにずっと眺めていた。


「あぁ、シュウ様・・・私、いまだに信じられませんわ・・・」


フローラは手を伸ばし、シュウの顎に触れてついっと指をなぞらせる。
そして愛おしそうにシュウの顔を眺めながら、深く深く溜め息をついた。


「あれほど恋焦がれていたシュウ様が、本当に私の物になるときが来るなんて。もうこれ以上に望むことなどありません・・・」


目を細め、寝ているシュウの頬に口づけをする。


「触れようと思えばいつでも触れる位置にシュウ様がいる。ここにいるのは私達だけ・・・夢ならどうか覚めないで・・・」


フローラはこれまで帝都にいたときからずっとシュウを自分の物とするべく策を巡らせていた。

恋敵はフローラが直接知っているだけでもレーナ、サーラ、アリエスがいた。
サーラとアリエスは自分よりもずっとシュウと接している時間の長い同じパーティーメンバーであるし、レーナに至っては婚約内定者。いずれも脅威のライバルだったが、うまく彼女らを出し抜き、シュウを手に入れることが出来たのだ。
まぁあくまでレーナは自滅なのだが、フローラは争奪戦に勝利したことで身に余るほどの喜びに打ち震えていた。


「はぁはぁ・・・」


息を荒くし、顔を真っ赤にしながらフローラはベッドが這い上がり、ササッと素早くローブを着込む。それから寝ているシュウを起こさぬようそっと部屋を出ていった。
フローラはそのまま宿屋からも出て、少し離れたとこまでそそくさと歩いていく。
まだ深夜なので人目はないが、その様子はどこか人目を忍ぶようであった。


「はぁ・・・」


宿屋から離れたところまで来て、フローラはため息をつく。
やがてうずくまるようにしてから体を震わせ、しばし溜を作ったあと・・・


「できたー!全部できたー!あははははははは!!」


唐突にフローラは天を仰ぎながら叫び笑い始めた。
誰もいない空間で一人、ただ狂ったように笑い続けているフローラの姿は、帝都でイメージされていた清楚な聖女とはかけ離れている。
その声量たるや民家から距離をいくらか取ったというのに、就寝している住民を起こしてしまうほどであった。
起こされた村人達は魔物の襲来が来たのかと勘違いし、撃退しようと農具を持って外に飛び出してきた者もいた。


『アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』


だが深い闇のいずこから不気味に響き渡る底冷えしそうなほど不気味な笑い声に、飛び出した村人達は「ヒェッ」と悲鳴を上げ、即座に家の中に戻っていく。


「魔女だ。魔女がいる・・・!」


「関わっちゃなんねーだ!」


狂喜の声の主は魔女どころか元聖女なのだが、そんなことを村人達が知るはずもない。
住民達は震えて未知なる恐怖に朝が来るのを振るえて待った。
この日以来、村人達は深夜に外出するのを控えるようになる。






「あはははははは・・・あー、いけないいけない。嬉しすぎて我慢できなかったわ」


笑い過ぎて浮かんだ目に浮かんだ涙を指で拭いながら、気を落ち着かせたフローラはようやく笑うことをやめた。
そして近くの木に近づくと、そっと身を預けて目を瞑り、自分の体を抱えるようにして震えながら蹲る。


「シュウ様・・・貴方の言った通りでした。『貪欲に望め、勝ち取れ、奪い取れ』私、貴方の言葉の通りにしたら本当に幸せになれましたわ」


清貧のイメージのついた聖女としてはあるまじき言葉を紡ぎながら、フローラは昔の記憶を探り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...