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気まぐれ者は敗北者ではいたくない

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シュウとフローラの真実の愛()の逃避行のドタバタ劇の当日朝、『光の戦士達』の拠点で、シュウの元恋人であるレーナは自室でまだ一人モヤモヤと考え事をしていたが、あるときピーンと一つの事実に気が付いた。
だが、それはレーナにとって認めづらい事実だった。


(あれ・・・私、シュウを追い出したこと少し後悔してるわ)


今更の今更だが、レーナはライルの口車に乗ってシュウの追放に同意したことをいくらか後悔していることに気が付いた。
基本的にレーナは自分の行動を顧みることは無い。風の吹くまま気の向くままである。
だからこそ、今自分の中に芽生えているシュウの追放についての後悔の念を抱いていることに少なからず戸惑っていた。


(まぁ、悪いやつじゃなかったしね・・・話しててつまらないやつじゃなかったし、お父様の言いつけが無ければシュウとさっさとてたんだろうな・・・)


レーナはシュウのことを気に入ってはいた。押し付けられたような婚約内定者だが、不満らしい不満はなかった。

身勝手なことだが、シュウをことにより、レーナはようやく自分の中でシュウの存在感が大きかったことに気付く。


「っ・・・!」


慌ててレーナはベッドに寝ころばせていた身を起こす。
「ちょっと寂しくなるな」程度には考えていたシュウの追放だが、実際これから彼がいなくなったことの喪失感を埋められるだけのメリットは自分にあるのか?ということを考えたとき、レーナは「このままでは何もない」ということに気が付いた。

一介の神官の代わりに将来有望の勇者を自分の男に据える・・・これならいいかと最初は考えていたのだが、サーラとアリエスの脱退により、『光の戦士達』は今存続自体を危ぶまれている状態である。完全に本末転倒だ。

自分で昨日ライルに指摘しておいて、ここにきてようやくレーナは事態の深刻さに気が付く。
『光の戦士達』が消滅すれば、『勇者ライル』の活躍も停滞する公算が大なのだ。

かつてシュウは言った。
「ライルはそれほど頭は良くない。だから、どちらかといえば出来るだけ恐れを知らせず、調子に乗らせたほうが力を発揮するタイプだと思う」と。
実際ライルが飛躍的に活躍するようになったのは、シュウ達と組むようになり結果を出すようになってからだ。
ライルは勢いに乗せればどこまでも乗って行くタイプだった。

だが『光の戦士達』の崩壊は、ライルの精神に深刻なダメージを負わせることになるだろう。立ち直るには最初のライルの挫折のときのように、また数年かかることになるかもしれない。
いや、現状からの見立てでは再起すら出来るかどうかである。


「まずいまずいまずい・・・」


レーナはいてもたってもいられずに部屋を飛び出した。
今更ながらに『光の戦士達』の崩壊を防がねばという気持ちになってきたのだ。『光の戦士達』の崩壊を防ぎ、『勇者ライル』を健在のものとしておかなければ、今の自分はただ損をする選択をした馬鹿に過ぎないことになると。

これまで損得関係なく自身の選択に疑問を抱くことのなかったはずのレーナは、シュウがいなくなった喪失感を埋めるだけのメリットを欲してやまなかった。
今の彼女ははとりあえず「シュウよりも遥かに良物件の男を捕まえた」という事実に縋ろうとしている。


「レーナ、おはよう」


そんなレーナの心境などついぞ知らぬとばかりに、能天気な声が彼女の耳に入る。声のした方を見ると、拠点のロビーにて外出の準備をしていたライルがレーナの視界に入った。
ふと時計を見ると時刻は既に真昼間と言える時間になっている。


「ちょっとこれから僕はサーラとアリエスを探して来ようと思う。情報屋に頼めばすぐに見つけられると思うから」


昨日レーナの魔法によって強制的に眠らされたことについてすっかり忘れているのか、そのことに一切触れることなくライルは言う。

既にパーティーの崩壊が避けられないところまで来ているというのに、ライルは随分と能天気な男だなとレーナは思った。ライルには『魅了』というとっておきの秘訣があるからこそまだサーラ達に執着するのだが、それを知らぬレーナは呆れてライルを見ていた。

だが、むしろレーナは今はそのライルの能天気さが羨ましいと思う。
このくらい能天気ならあれこれ悩まずに済むのかな、なんて。

レーナが頭の中でそう考えていたときだった。


「今日は何だか外が騒がしいね」


シュウとフローラが起こした騒ぎのことを知らぬライルは、賑やかになっている外を窓から見て怪訝な顔をした。まるで皇族の冠婚葬祭でもあるかのような騒ぎ声がするなとレーナも思ったが、そこへ一人の男が拠点に飛び込んできた。


「こちら『光の戦士達』の拠点ホームですか!?大至急お伝えしたいことがございます!」


血相を変えた男は、帝都の大病院の職員であった。
彼は『光の戦士達』のメンバーであるアリエスが全身複雑骨折、そしてサーラが過労で昏睡状態になって病院に運ばれたという知らせを持ってきたのだ。


「え、なにそれは・・・(ドン引き)」


尋ね人が速攻で見つかったのは良かったが、一体何が起きたのかさっぱり理解できずライルは混乱した。
だが、これから更に彼が混乱することが起きるのである。
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