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崩壊の危機

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「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!」


ライルは怒りに任せてサーラの残した手紙を破った。
ハッとして部屋を眺めると、サーラの剣などの装備品、携帯バッグなど旅で使う物は全て部屋から無くなっていた。帝都内に用があるだけなら持っていく必要のないものまで持っていってしまっており、どうやら手紙の内容が本当であることに気付く。


「なんで・・・なんでだよ・・・!」


手紙にはパーティーを抜ける理由については書かれていなかった。ただただ抜ける、と。実に事務的で淡々とした内容が、むしろ雄弁にこの『光の戦士達』のメンバーを抜けることに未練はないと語っているかのようだ。


「そ、そうだアリエス・・・!」


ライルはハッとして今度はアリエスの部屋へずかずかと足を向ける。
彼女も急用があると言って打ち上げに来なかった。だとすれば・・・


「あ・・・」


ライルの最悪な予想が当たった。アリエスの部屋もサーラの部屋と同様にもぬけの殻であった。
そしてテーブルの上には小さな紙きれが一つ。ライルは恐る恐るそれを手に取った。

『私アリエスはパーティーを抜けるっす』

紙切れにはたったそれだけが書いてある。


「それだけーっ!?」


もはや事務的ですらないその置き手紙に、ライルは発狂しそうになる。

サーラの手紙より内容は更にシンプルだ。
いや、よく見ると小さくアリエス自身と思われる女の子がデフォルメされた絵が描いてあり、女の子が手を合わせて「ゴメン」のポーズを取っている。でも顔は眉尻を下げながらも舌を出していて「謝ってはいるけどそこまで悪気は感じてない」といった余計な細かい感情まで伝わって来た。


「ふ・・・ふざけやがって・・・なんなんだよ・・・!」


アリエスの茶目っ気のあるところが前からライルは可愛いと思っていた。だが、今回ばかりはそんな彼女の性格がライルの怒りに火を着ける。


「な、なんでだぁぁぁぁぁ!?どいつもこいつも!!」


べしっと紙切れを床に叩きつけ、何度も何度も足でガシガシと踏みつける。
当然そんなことをしているとそれなりの騒音になるため、異変を感じたレーナがのそのそと部屋から出て怪訝な顔をしながらライルのところへやってきた。


「一体何よ。さっきから煩くしてどうしたの?」


「どうもこうもこういうことだよ!」


ライルは怒鳴りつけ鼻息を荒くしながらも、今しがた踏みつけていた紙切れをレーナに手渡した。
レーナはちらりとそれを見ると、「あぁ、なるほど」と呟きさして驚いた風でもないリアクションを取る。そんなレーナの態度が更にライルの感情を逆なでした。


「そんな落ち着いてる場合か!アリエスだけじゃなくてサーラも置手紙を書いて消えた。これはパーティー崩壊の危機なんだぞ!!」


ライルは目の前にあるテーブルに拳を叩きつけて怒鳴る。
ヒートアップするライルとは逆に、レーナは冷めた目でライルを見つめた。

超優秀な前衛と回復役が消えた。
基本的に抜けたサーラらと同じレベルの冒険者は『光の戦士達』とそれほど遜色ない高レベルのパーティーに既に属しているので、補充は決して簡単ではない。
それはつまり・・・


「崩壊の危機?埋めようのない主戦力が二人一度に抜けたんだから、それもう既にパーティー崩壊してるじゃん。手遅れだっての」


レーナは呆れに呆れるあまり、つい思ったことをそのまま口にしてしまった。
「あっ」と気付いたがもう遅い。ライルはレーナの言葉に衝撃を受け過ぎたのか、石のように固まってしまっている。


「・・・まだあわてるような時間じゃない・・・きちんと説得すれば・・・」


やや間を置いて、自分に言い聞かせるように呟きだしたライルを見て、レーナは小さく溜め息をついた。
オブラートに包んだところでライルが現実を冷静に理解できるかわからなかったので、レーナはもう思い切って言いたいことを言い切ることにする。


「どうせシュウを追いかけていったんでしょあの二人。アイツに気があったようだし・・・いっそシュウを呼び戻したほうが早いんじゃない?」


「なっ!?そんなバカな話が・・・」


「いやいや、だってあの二人がシュウに入れ込んでるのなんて見てればわかるじゃん。シュウがいないなら多分戻る気なんてないんじゃない?まさかこんなに早くパーティーを飛び出すなんて思わなかったけど」


「な・・・」


レーナでさえもサーラ達の感情に気付いていたことにライルは衝撃を受けた。知らぬは自分とシュウ本人だけだったのかと愕然とする。
ライルはメンバーのことを「女」「戦闘員」のこの二つとしてしか見ず、きちんと真正面から個人として深く見ていないから彼女らの気持ちに気付くことがなかったのだ。

それに気付いたレーナは「こんなんが勇者として魔王討伐のパーティーなんて組めるのか」と呆れ返った。


「も、もういい!すぐにでも彼女達を見つけだして、僕が」


「眠れ」


「『魅了』で屈服させてやる」、そう言って部屋を飛び出そうとしたライルに、レーナは眠りの魔法をかけた。
頭に血が上ったライルは放置すれば騒動を起こすと思ったのと、ただでさえアンニュイになっているときだったのにこれ以上面倒な思いをさせて欲しくなかったので、いっそのこと眠らせて黙らせようと思ったのだ。


バターン


精神的なショックを受けて疲弊していたのと、完全に不意を突かれたということもあって、ライルはレーナの放った眠りの魔法をもろに受けて昏倒した。


「むにゃ・・・もうスライムは嫌ぁ・・・」


何やら言いながら、ライルは苦しそうな・・・けどちょっぴりだけ気持ちよさそうな表情を浮かべてかつてアリエスがいた部屋の床で眠りについた。
変な夢を見ているライルを放っておき、レーナは自室に戻った。


「・・・なによこれ。わけわかんないんだけど」


自分の感情を持て余しているときに、更に面倒で持て余すような事案が発生してしまい、レーナはもう頭が完全にパンクしそうになっている。


「ま、いいわ。寝てから考えよ」


いろいろあって疲れている今、あれこれ考えたところで裏目にしか出ないだろうと考え、レーナは今ここでの思考を放棄した。気分屋の彼女らしい有様だ。


だが、目が覚めた後、更なる衝撃が彼女らを襲うことになるのである。
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