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勇者パーティー 強欲の勇者7
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それは『光の戦士達』がダンジョンアタックから戻ったある日のことだった。
「おぉ・・・これはなんと珍しい・・・」
帝都の外れにとある骨董屋にて、店主は客が持ち込んだ宝石のようなものを眺めながら、感嘆の声を上げた。
「珍しい・・・?やはりそれは値打ちのあるものなのか?」
店主にそう訊ねるのはライル。
彼が店主に持ち込み品の鑑定をお願いした客であった。
「・・・ふむ、うちに鑑定を頼んだのは正解だよ。カタギの・・・いや、普通の店じゃコレが何なのかわからずに、適当な事言って終わっただろうね。もし万が一わかる人間がいても、すぐに没収されちゃっただろうね」
そう言って店主はニヤリと笑って手に持っていた宝石をテーブルの上に置いた。
「没収・・・?まさかそんなものが・・・」
店主の言葉にライルは唖然とする。
ライルが持ち込んだのはダンジョンの奥地で見つけた宝石だった。
たまたまパーティーメンバーの目が向いてなかったので気付いたのは自分だけだったが、ライルはその宝石が何だか普通の代物ではないと直感がして、あえて他のメンバーには知らせずに、こっそりと宝石を自分の道具袋へ入れた。
そして帝都に戻ってから、この骨董屋に持ち込んで鑑定を依頼したのである。
どうやら自分の直感は正しかったようだ。
この骨董屋の店主の見る目は確かであり、嘘も言わない。その代わりに鑑定代から何から非常に高くつくのがこの店の特徴だ。
そんなものだから一般人はもちろん、まともな冒険者もここには来ない。しかし決して潰れることはない。
この店は普段はほとんど客が寄り付かないが、たまにワケアリの客だけが訊ねてきている。薬物、宝石、武器、普通の店では取り扱えない違法なものをいろいろ取り扱う店だからだ。
ライルは自分が持ってきた宝石がそのテの危険物であることを察し、つくづく自分には運が向いているとほくそ笑む。
そう言ったものは極めて高く売ることが出来るわけだが、違法品とわかりつつコレクションしている貴族などもいて、うまく彼らに売りつければ金だけでなくコネクションも手に入る。
ライルは勇者パーティーとして活躍する傍ら、時にそう言った戦利品をちょろかまして将来の自分の安寧のための金やパイプ作りに腐心していた。
実際ライルは多少の問題行動を起こしたところで、『勇者』の名を傷つけることなく闇から闇へと問題を処理することが出来るほどのコネを持っていた。
当然、そんなことなど他のパーティーは知る由もない。
「それで、その宝石は一体どういうものなんだ」
ライルはそわそわしながら店主にそう訊ねる。
「ふむ、これはな。飲み込んで体内に取り込むことで、スキルを使用できるようになる宝石だ。飲み込んだ宝石は排泄などで外へ出ることは絶対にない。宿主が死んだら骨と一緒に姿を現すという。『スキル・ストーン』と呼ばれている」
「ああ・・・副作用があるからとか、何かいろいろ他にも問題があるからという理由で製造も研究も禁止されたというものだったかな?今じゃ確かに珍しいものだ。僕だって初めて見る」
「うむ。だが、こいつが世に知られるとまずいのは、こいつがもたらすスキルの方に原因があるな。こいつは『魅了』スキルを付与するスキルストーンだ」
「『魅了』・・・?えっ、『魅了』だって!?」
ライルはダンッとテーブルを叩き、ずいっと店主に詰め寄った。
「そうだ『魅了』だ。スキルストーンはおろか、魔法でも道具でも薬でも、厳格に禁止されている『魅了』だ。その『魅了』スキルを飲み込んだ者に付与することが出来る」
「『魅了』か・・・」
ライルはうわごとのように『魅了』の名を口にする。
『魅了』は任意の相手を魅了し、自分に惚れさせることが出来るスキルで、大昔に研究されていたものだ。これを使えば、対象に恋人がいようと結婚していようと、自制の壁を崩壊させて使用者に強制的に好意を向けることが出来るという。
元はサキュバス達が使う能力を研究して人間が使用できるようにしたものだが、当然、数多の問題を起こして危険視され、使用者も研究者も極刑という厳しい法が作られ制限されるようになり、今では『魅了』の名を知らぬ者とて多いほど世間からは忘れ去られたものであった。
人の意識を強制的に変えてしまう魔法など危険極まりない。傾国の危険性すらあるものなのだから厳しく制限されるのは当然であった。
だが、『魅了』のようなスキルに対して邪な憧れを抱く者が世には多いのもまた事実。そしてこの残念な勇者ライルもその一人であった。
「ま、僕の魅力があればそんなスキルに頼らずとも女性くらい落とすことは出来るからね。僕には必要のない能力だ」
「じゃあ貴族に売るかい?売り先はいくらでもあると思うが」
「だが飲む!」
スキルに頼らずとも、と言った先からライルは宝石を手に取り、躊躇うことなく飲み込んだ。
店主はそんなライルを呆れた目で見ていた。
「僕個人の魅力だけでもハーレムの形成は可能だけどね。まぁ、それでも一応念のためってことで」
「いや、あれだけ思いっきり食い気味に飲んでおいて・・・。別にいいが、『魅了』は使用しているところを見られるどころか、単純にスキルを所持しているだけでも極刑が決まっている。それだけは頭に入れておいたほうがいいぞ」
店主の忠告も今のライルには頭に入っていなかった。
スキルを使って人を魅了するのは屈辱的なことではあるが、選択肢としてあるとないとではまた全然状況は変わってくる。
どうしても自分の思うようなハーレム生活が送れないのであれば、あるいは・・・と。
重ねて言うが、ライルは本当の本当に残念な勇者として育ってしまった。
「おぉ・・・これはなんと珍しい・・・」
帝都の外れにとある骨董屋にて、店主は客が持ち込んだ宝石のようなものを眺めながら、感嘆の声を上げた。
「珍しい・・・?やはりそれは値打ちのあるものなのか?」
店主にそう訊ねるのはライル。
彼が店主に持ち込み品の鑑定をお願いした客であった。
「・・・ふむ、うちに鑑定を頼んだのは正解だよ。カタギの・・・いや、普通の店じゃコレが何なのかわからずに、適当な事言って終わっただろうね。もし万が一わかる人間がいても、すぐに没収されちゃっただろうね」
そう言って店主はニヤリと笑って手に持っていた宝石をテーブルの上に置いた。
「没収・・・?まさかそんなものが・・・」
店主の言葉にライルは唖然とする。
ライルが持ち込んだのはダンジョンの奥地で見つけた宝石だった。
たまたまパーティーメンバーの目が向いてなかったので気付いたのは自分だけだったが、ライルはその宝石が何だか普通の代物ではないと直感がして、あえて他のメンバーには知らせずに、こっそりと宝石を自分の道具袋へ入れた。
そして帝都に戻ってから、この骨董屋に持ち込んで鑑定を依頼したのである。
どうやら自分の直感は正しかったようだ。
この骨董屋の店主の見る目は確かであり、嘘も言わない。その代わりに鑑定代から何から非常に高くつくのがこの店の特徴だ。
そんなものだから一般人はもちろん、まともな冒険者もここには来ない。しかし決して潰れることはない。
この店は普段はほとんど客が寄り付かないが、たまにワケアリの客だけが訊ねてきている。薬物、宝石、武器、普通の店では取り扱えない違法なものをいろいろ取り扱う店だからだ。
ライルは自分が持ってきた宝石がそのテの危険物であることを察し、つくづく自分には運が向いているとほくそ笑む。
そう言ったものは極めて高く売ることが出来るわけだが、違法品とわかりつつコレクションしている貴族などもいて、うまく彼らに売りつければ金だけでなくコネクションも手に入る。
ライルは勇者パーティーとして活躍する傍ら、時にそう言った戦利品をちょろかまして将来の自分の安寧のための金やパイプ作りに腐心していた。
実際ライルは多少の問題行動を起こしたところで、『勇者』の名を傷つけることなく闇から闇へと問題を処理することが出来るほどのコネを持っていた。
当然、そんなことなど他のパーティーは知る由もない。
「それで、その宝石は一体どういうものなんだ」
ライルはそわそわしながら店主にそう訊ねる。
「ふむ、これはな。飲み込んで体内に取り込むことで、スキルを使用できるようになる宝石だ。飲み込んだ宝石は排泄などで外へ出ることは絶対にない。宿主が死んだら骨と一緒に姿を現すという。『スキル・ストーン』と呼ばれている」
「ああ・・・副作用があるからとか、何かいろいろ他にも問題があるからという理由で製造も研究も禁止されたというものだったかな?今じゃ確かに珍しいものだ。僕だって初めて見る」
「うむ。だが、こいつが世に知られるとまずいのは、こいつがもたらすスキルの方に原因があるな。こいつは『魅了』スキルを付与するスキルストーンだ」
「『魅了』・・・?えっ、『魅了』だって!?」
ライルはダンッとテーブルを叩き、ずいっと店主に詰め寄った。
「そうだ『魅了』だ。スキルストーンはおろか、魔法でも道具でも薬でも、厳格に禁止されている『魅了』だ。その『魅了』スキルを飲み込んだ者に付与することが出来る」
「『魅了』か・・・」
ライルはうわごとのように『魅了』の名を口にする。
『魅了』は任意の相手を魅了し、自分に惚れさせることが出来るスキルで、大昔に研究されていたものだ。これを使えば、対象に恋人がいようと結婚していようと、自制の壁を崩壊させて使用者に強制的に好意を向けることが出来るという。
元はサキュバス達が使う能力を研究して人間が使用できるようにしたものだが、当然、数多の問題を起こして危険視され、使用者も研究者も極刑という厳しい法が作られ制限されるようになり、今では『魅了』の名を知らぬ者とて多いほど世間からは忘れ去られたものであった。
人の意識を強制的に変えてしまう魔法など危険極まりない。傾国の危険性すらあるものなのだから厳しく制限されるのは当然であった。
だが、『魅了』のようなスキルに対して邪な憧れを抱く者が世には多いのもまた事実。そしてこの残念な勇者ライルもその一人であった。
「ま、僕の魅力があればそんなスキルに頼らずとも女性くらい落とすことは出来るからね。僕には必要のない能力だ」
「じゃあ貴族に売るかい?売り先はいくらでもあると思うが」
「だが飲む!」
スキルに頼らずとも、と言った先からライルは宝石を手に取り、躊躇うことなく飲み込んだ。
店主はそんなライルを呆れた目で見ていた。
「僕個人の魅力だけでもハーレムの形成は可能だけどね。まぁ、それでも一応念のためってことで」
「いや、あれだけ思いっきり食い気味に飲んでおいて・・・。別にいいが、『魅了』は使用しているところを見られるどころか、単純にスキルを所持しているだけでも極刑が決まっている。それだけは頭に入れておいたほうがいいぞ」
店主の忠告も今のライルには頭に入っていなかった。
スキルを使って人を魅了するのは屈辱的なことではあるが、選択肢としてあるとないとではまた全然状況は変わってくる。
どうしても自分の思うようなハーレム生活が送れないのであれば、あるいは・・・と。
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