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勇者パーティー その3

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ライルの噴き出した紅茶は、対面に座ったアイラに降りかかる。


「・・・ちょっと待ってくれ。もう一度言ってくれないか?」


あまりにあり得ない結果に自分が聞き間違えたのだろうと思ったライルは、深呼吸して気を落ち着けてからアイラに問う。
アイラは無表情のままハンカチで濡れた顔を拭いながら、淡々とライルの質問に答えた。


「『魔王城強襲計画』の現状での成功率は0.5%です」


「ば・・・」


馬鹿な、とライルは言葉を失う。
以前叩き出した計算では成功率は65%。懸念していたパーティーの火力をスノウの加入によって底上げしたことで、どれだけ悪くても変動した成功率は70%以上になるとライルは踏んでいた。しかし現実は真逆も真逆。実行するだけ無駄というレベルの成功率が、アイラの口から出てきたわけである。

混乱して理解が追い付かなかったライルだが、それでも少し時間を置いていくらか落ち着いてきたのか、ようやく彼なりに悲惨な算定結果についての原因が思いつく。


「加入させるスノウに、それだけ大きな問題があるということかい?」


前よりもマイナスの結果になったということは、変わった状況に問題があるということ。ライルはその要因として、シュウの代わりに加入させるスノウにとてつもなく大きな問題があるのではと考えた。


「いいえ。スノウ自体に問題はありません。スノウがいない場合の成功率は0.25%ですから」


「じゃあなんだと言うんだ!」


テーブルを叩きそう問うライルだが、実のところ内心彼もある結論には既に達していた。ただ、それを認めたくないだけである。


「加入メンバーよりも、シュウを追放したことが問題です。シュウがパーティーにいることで、漸く成功率は65%になっていました」


だが、アイラはそれを知ってか知らずか、ライルが認めたくなかった現実を淡々と突きつけた。


「どういうことだ!?シュウさんなんてここのところ大して戦闘で活躍していなかったじゃないか!!彼が補助魔法を知らぬところで使っていたとか、そういう話なのか!?」


はっきり言えば戦闘に関して言えばシュウは完全にお荷物だったと認識していたライルは、アイラの言っていることに全く納得がいかなかった。
だからこそ追放し、新たなメンバーを入れることで勝率を上げようとしたのに、まさか逆の展開になってしまうとは夢にも思わない。


「いいえ。シュウは補助魔法を使ってはいません。ですが、このパーティーが機能するにあたって、彼は必要不可欠な存在でした。正確にはサーラとアリエスが力を発揮するためには、シュウがいなくてはならなかったのです」


「なに?どういうことだ。説明してくれないか?」


寝耳に水の事を聞かされ、ライルは目を見張る。
そんなライルの様子を見て、心なしかアイラは少し呆れたような表情を見せた・・・ようにライルには見えた。
「何?お前、そんなことも知らないの?」と言いたげにしているかのようであった。

無表情で無関心なアイラからしても、呆れてしまうくらいの取返しが付かないことを知らぬうちにしてしまったのではないか・・・とライルの焦燥感が強くなる。

「まずサーラですが・・・」

剣士サーラ。
男勝りな性格の光の戦士達の前衛で、果敢に敵に突っ込み、豪快な剣術で血の雨を降らせる斬りこみ隊長。ライルが少し躊躇うような魔物にも、恐れず飛び込んでいくその雄姿には、ライルも随分と後押ししてもらっていた。
そんな彼女とシュウに何があるのか。ライルはアイラの言葉を待った。


「彼女はメンタル豆腐です」


「は?何だって?」


「メンタル豆腐。豆腐のように脆いメンタル。サーラは精神的に脆いのです。男勝りに見えるあの性格も、実際のところはキャラづくりでそう見せているだけです」


慣れない言葉に最初戸惑ったライルは、その後に続くアイラの発言の内容に更に戸惑った。


「せ、精神的に脆い?サーラが?そんなわけないだろ!?」


ライルはアイラの言った言葉が信じられなかった。
しかし、アイラはこれまでライルに対して間違ったことを言ったことが無い。だからこそ余計にライルは焦り、混乱した。


「サーラはプレッシャーに弱く、ダンジョンアタックやクエスト前にはいつだって隠れて震えていました。そんな彼女を毎回宥め、勇気づけていたのはシュウです」


「嘘だっ!!サーラは勇敢な前衛だ!そんなことあるはずが・・・」


「ですからそれはそのように見せかけていただけです。ハッタリです。本当のサーラはとても繊細で、そして臆病なのです」


「いやいや・・・それは・・・」


アイラの言葉が信じられずに、ライルは尚も否定しようとするが、そこでふと思い出す。かつてサーラがパーティーに加入するときのことを。

『剣士ですか・・・ご希望の条件ですと、今この人がフリーですね。曰く付きの人でですが』


かつてライルは冒険者ギルドで新しいメンバーを募集するとき、「強い」「美人」「スタイル良し」とギルドに注文したところ、面倒くさそうにしている受付に鼻くそをほじりながらそう紹介されたのがサーラだった。

とりあえず初見で顔がライルの要求を満たしていたので、深く詳細を聞くことなく紹介されたサーラを受け入れたわけだが、実際サーラはパーティー加入時から即戦力として使えるほど強い剣士だった。
これだけ優秀で勇敢な剣士で、しかも美人でスタイルも良いとは実に良いメンバーを見つけることが出来たとライルは喜んだものだが・・・


(曰く付きと言っていたのに、そんなことないじゃないか)

ライルはそう疑問に思っていた。むしろ良物件じゃないかと。
ギルド職員も適当に相手しているような感じだったが、実際にはしっかりと良い冒険者をあてがってくれたのだなくらいに考え、やがてそれについては忘れて気にもしなくなっていった。



「ギルドの記録によると、サーラは『どうして剣士を選んだの?』と言われるくらいの臆病者で、訓練では抜群の結果を出しながらも、実戦では震えて野犬一匹斬ることも出来ぬほどの問題児だったそうです。様々なパーティーを追放され続け、ようやく定着したのが『光の戦士達』です」


アイラのその言葉を聞いて、ライルはここでようやく当時感じていた疑問を思い出す。


「シュウはサーラの欠点を克服するために、いろいろと手を尽くしました。その結果サーラは実戦でも能力を発揮できるようになったのです。あの男勝りな態度は侮られないためと、いずれ本当の自信を身につけるためのハッタリですが、実のところまだシュウの手を離れたわけではないのです」


「なっ・・・サーラが加入してからどれくらいの時間が経過しているか知らないのか?そりゃ最初は慣れなくて満足に戦えなかったかもしれないけど、流石に経験を積んだ今となっては・・・」


「いいえ。シュウがいない今のサーラは、恐らくろくに戦力にならないと思います。ただのポンコツです」


ピシャリと言い放つアイラを前に、ライルは白目を剥いて気が遠くなりかける。

ナニソレ・・・?キイテナイヨ?
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