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勇者パーティー その1
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時は遡って勇者パーティー『光の戦士達』のことである。
シュウを追放したその日の夜、リーダーである勇者ライルは、帝都でも高級なレストランの貸し切りの一室で一人テーブルにつき、他のパーティーメンバーが到着するのを待ちながらソワソワしていた。
これからパーティーの打ち上げが始まる予定だが、ライルにとってこの日は記念すべき日である。何の記念というと、それは「シュウを追放した日」であり、そして「自分だけのハーレムが始まる日」だ。
このパーティーの人選は、支援者であるレウス司教が遣わしたシュウとレーナを除けば全てライルが決めていた。
選定基準は例外なく『勇者パーティーとしての実力があり、なおかつ自分好みの女性であるか』である。
運が良いのか選定眼が素晴らしいのか、実際のところライルの人選は的確だった。彼が選んだ女剣士サーラ、賢者アイラ、法術師アリエスはいずれも一級の活躍をする冒険者として育ち、元からいた魔法使いレーナもそれに劣らぬ戦力となっている。
そしてライル以外の唯一の男であるシュウは、明らかに戦力として伸び悩み、戦闘ではすっかり補助要員どころか、予備回復役といった程度の位置づけだった。
ライルはこれを好機と捉えた。
元よりライルはハーレムパーティーを築きたかったのだ。それゆえの偏った人選・・・唯一の邪魔は自分以外の男であるシュウのみ。
『光の戦士達』が弱小の頃から支援してくれた聖神教会のレウスの派遣したシュウを、自分の一存だけで追放することは出来ない。
パーティーの躍進に力を尽くしてくれたのは確かだが、ライルからすればもうシュウは役目を終えたと言えた。よって彼を追放することに決めたのである。
そう決めてからはシュウの飲む、打つ、買うの素行不良を本人のいないときにメンバーに話題に上げるようにし、少しずつイメージを低下させていくというマメな行動を続けていった。
煩悩が見せた執念である。
シュウさえいなくなれば、容姿端麗にして勇者として名声もあるライルには、残ったメンバー全員を口説き落とせる自信があった。
だが、ライルがシュウをパーティーから追放したのは、ハーレムを築きたかっただけではない。一応は他にもう一つの理由があった。
ライルはメンバーがまだ集まらぬと思い、とある書類の束を取り出して眺める。
『魔王城強襲計画』
書類にはそう書かれている。
これはまだライルと賢者アイラだけが知る、極秘計画の記された書類であった。
世界中どこにでも瞬間転移をすることが出来るという、古代のレアアイテム『転送の石』を使い、魔王城までパーティーを転移させ、魔王を強襲して討ち取るという計画である。
『光の戦士達』は魔王討伐に最も近いとされている人類最強の冒険者パーティーであるが、彼らからしても海を渡り、魔族が巣くう大陸『魔大陸』にある巨大な魔王城へ突入し、魔王を倒すというのは簡単ではなかった。
正面から突入して数多の魔族という魔族の分厚い肉の壁を突破し、かつ魔族最強である魔王を倒すのは非現実的だったのだ。
しかし、ライル達がとあるダンジョンに潜った際に、偶然手にしたレアアイテム『転移の石』によって、とある可能性を見出すことが出来た。
魔王の近くに転移し、万全の状態で挑めば容易く魔王を討ち取れるのではないか、と。
そして魔王さえ打倒せば、魔族に戦意は一気に低下し、戦況はその日を境に大きく人類側に有利に傾くであろうと賢者であるアイラはライルに立案した。
ライルはその案を採用することに決めたが、アイラの計算では作戦の成功確率は65%。微妙な数字だ。
アイラが言うには『パーティーの火力不足』が懸念される、ということだった。
人類と魔族の最終決戦に挑むという、大きな勝負に出るにはそこまで悪いとは言えない。だが、やはり不安は大きくあるし、ライルはどうにか作戦の成功率を上げられないかと考え、計画は一旦保留とする。
パーティーの火力不足であるというなら、決戦用に攻撃用メンバーの増員をしたいところだが、あいにく転送の石はアイラの計算上、往復分含めてメンバー6人までしか使用できない魔力しかないという制限があった。
転送魔法というものは現代では既に存在していない魔法なので、転送の石が無ければ魔王を討ったところで無事に帰還することはほぼ不可能だ。何しろ敵の本拠地のど真ん中に片道で突っ込むのだから。
ちなみに転移の石は、1度も行ったことのない場所でも、行き先をざっくりイメージさえ出来れば転移出来るという実に都合の良い代物である。
ライルは考えた。片道特攻などするつもりはさらさらない。
無事に帝国に帰って褒美を賜り、地位と名誉を手に入れ、女を囲って幸せに暮らしたい・・・その一心で、この『魔王城強襲計画』で最も不要と思われるシュウをメンバーから外すことを決めたのだ。
常々ハーレムパーティーを築きたいと思っていたライルからすれば、一石二鳥の名案だ。
そしてこの日、ライルはついにシュウをメンバーから追放することに成功した。
メンバーから反対意見も出ると思ったが
「良いんじゃない?」とレーナ。
「勇者様がそう言われるのでしたら」とアイラ。
「まぁ、しゃーないか」とサーラ。
「仕方が無いと思います」とアリエス。
これまで地道にイメージダウンを図って来た効果が出たのか、ライルが拍子抜けするほどあっさりと追放に対しては同意が取れた。
こうしてライルはシュウの追放を実行することを決断する。
これが落ち目となる引き金になることになるとも知らずに。
シュウを追放したその日の夜、リーダーである勇者ライルは、帝都でも高級なレストランの貸し切りの一室で一人テーブルにつき、他のパーティーメンバーが到着するのを待ちながらソワソワしていた。
これからパーティーの打ち上げが始まる予定だが、ライルにとってこの日は記念すべき日である。何の記念というと、それは「シュウを追放した日」であり、そして「自分だけのハーレムが始まる日」だ。
このパーティーの人選は、支援者であるレウス司教が遣わしたシュウとレーナを除けば全てライルが決めていた。
選定基準は例外なく『勇者パーティーとしての実力があり、なおかつ自分好みの女性であるか』である。
運が良いのか選定眼が素晴らしいのか、実際のところライルの人選は的確だった。彼が選んだ女剣士サーラ、賢者アイラ、法術師アリエスはいずれも一級の活躍をする冒険者として育ち、元からいた魔法使いレーナもそれに劣らぬ戦力となっている。
そしてライル以外の唯一の男であるシュウは、明らかに戦力として伸び悩み、戦闘ではすっかり補助要員どころか、予備回復役といった程度の位置づけだった。
ライルはこれを好機と捉えた。
元よりライルはハーレムパーティーを築きたかったのだ。それゆえの偏った人選・・・唯一の邪魔は自分以外の男であるシュウのみ。
『光の戦士達』が弱小の頃から支援してくれた聖神教会のレウスの派遣したシュウを、自分の一存だけで追放することは出来ない。
パーティーの躍進に力を尽くしてくれたのは確かだが、ライルからすればもうシュウは役目を終えたと言えた。よって彼を追放することに決めたのである。
そう決めてからはシュウの飲む、打つ、買うの素行不良を本人のいないときにメンバーに話題に上げるようにし、少しずつイメージを低下させていくというマメな行動を続けていった。
煩悩が見せた執念である。
シュウさえいなくなれば、容姿端麗にして勇者として名声もあるライルには、残ったメンバー全員を口説き落とせる自信があった。
だが、ライルがシュウをパーティーから追放したのは、ハーレムを築きたかっただけではない。一応は他にもう一つの理由があった。
ライルはメンバーがまだ集まらぬと思い、とある書類の束を取り出して眺める。
『魔王城強襲計画』
書類にはそう書かれている。
これはまだライルと賢者アイラだけが知る、極秘計画の記された書類であった。
世界中どこにでも瞬間転移をすることが出来るという、古代のレアアイテム『転送の石』を使い、魔王城までパーティーを転移させ、魔王を強襲して討ち取るという計画である。
『光の戦士達』は魔王討伐に最も近いとされている人類最強の冒険者パーティーであるが、彼らからしても海を渡り、魔族が巣くう大陸『魔大陸』にある巨大な魔王城へ突入し、魔王を倒すというのは簡単ではなかった。
正面から突入して数多の魔族という魔族の分厚い肉の壁を突破し、かつ魔族最強である魔王を倒すのは非現実的だったのだ。
しかし、ライル達がとあるダンジョンに潜った際に、偶然手にしたレアアイテム『転移の石』によって、とある可能性を見出すことが出来た。
魔王の近くに転移し、万全の状態で挑めば容易く魔王を討ち取れるのではないか、と。
そして魔王さえ打倒せば、魔族に戦意は一気に低下し、戦況はその日を境に大きく人類側に有利に傾くであろうと賢者であるアイラはライルに立案した。
ライルはその案を採用することに決めたが、アイラの計算では作戦の成功確率は65%。微妙な数字だ。
アイラが言うには『パーティーの火力不足』が懸念される、ということだった。
人類と魔族の最終決戦に挑むという、大きな勝負に出るにはそこまで悪いとは言えない。だが、やはり不安は大きくあるし、ライルはどうにか作戦の成功率を上げられないかと考え、計画は一旦保留とする。
パーティーの火力不足であるというなら、決戦用に攻撃用メンバーの増員をしたいところだが、あいにく転送の石はアイラの計算上、往復分含めてメンバー6人までしか使用できない魔力しかないという制限があった。
転送魔法というものは現代では既に存在していない魔法なので、転送の石が無ければ魔王を討ったところで無事に帰還することはほぼ不可能だ。何しろ敵の本拠地のど真ん中に片道で突っ込むのだから。
ちなみに転移の石は、1度も行ったことのない場所でも、行き先をざっくりイメージさえ出来れば転移出来るという実に都合の良い代物である。
ライルは考えた。片道特攻などするつもりはさらさらない。
無事に帝国に帰って褒美を賜り、地位と名誉を手に入れ、女を囲って幸せに暮らしたい・・・その一心で、この『魔王城強襲計画』で最も不要と思われるシュウをメンバーから外すことを決めたのだ。
常々ハーレムパーティーを築きたいと思っていたライルからすれば、一石二鳥の名案だ。
そしてこの日、ライルはついにシュウをメンバーから追放することに成功した。
メンバーから反対意見も出ると思ったが
「良いんじゃない?」とレーナ。
「勇者様がそう言われるのでしたら」とアイラ。
「まぁ、しゃーないか」とサーラ。
「仕方が無いと思います」とアリエス。
これまで地道にイメージダウンを図って来た効果が出たのか、ライルが拍子抜けするほどあっさりと追放に対しては同意が取れた。
こうしてライルはシュウの追放を実行することを決断する。
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