上 下
39 / 464

勇者パーティー その1

しおりを挟む
時は遡って勇者パーティー『光の戦士達』のことである。

シュウを追放したその日の夜、リーダーである勇者ライルは、帝都でも高級なレストランの貸し切りの一室で一人テーブルにつき、他のパーティーメンバーが到着するのを待ちながらソワソワしていた。

これからパーティーの打ち上げが始まる予定だが、ライルにとってこの日は記念すべき日である。何の記念というと、それは「シュウを追放した日」であり、そして「自分だけのハーレムが始まる日」だ。

このパーティーの人選は、支援者であるレウス司教が遣わしたシュウとレーナを除けば全てライルが決めていた。
選定基準は例外なく『勇者パーティーとしての実力があり、なおかつ自分好みの女性であるか』である。

運が良いのか選定眼が素晴らしいのか、実際のところライルの人選は的確だった。彼が選んだ女剣士サーラ、賢者アイラ、法術師アリエスはいずれも一級の活躍をする冒険者として育ち、元からいた魔法使いレーナもそれに劣らぬ戦力となっている。
そしてライル以外の唯一の男であるシュウは、明らかに戦力として伸び悩み、戦闘ではすっかり補助要員どころか、予備回復役といった程度の位置づけだった。

ライルはこれを好機と捉えた。
元よりライルはハーレムパーティーを築きたかったのだ。それゆえの偏った人選・・・唯一の邪魔は自分以外の男であるシュウのみ。

『光の戦士達』が弱小の頃から支援してくれた聖神教会のレウスの派遣したシュウを、自分の一存だけで追放することは出来ない。
パーティーの躍進に力を尽くしてくれたのは確かだが、ライルからすればもうシュウは役目を終えたと言えた。よって彼を追放することに決めたのである。

そう決めてからはシュウの飲む、打つ、買うの素行不良を本人のいないときにメンバーに話題に上げるようにし、少しずつイメージを低下させていくというマメな行動を続けていった。
煩悩が見せた執念である。
シュウさえいなくなれば、容姿端麗にして勇者として名声もあるライルには、残ったメンバー全員を口説き落とせる自信があった。

だが、ライルがシュウをパーティーから追放したのは、ハーレムを築きたかっただけではない。一応は他にもう一つの理由があった。


ライルはメンバーがまだ集まらぬと思い、とある書類の束を取り出して眺める。

『魔王城強襲計画』

書類にはそう書かれている。

これはまだライルと賢者アイラだけが知る、極秘計画の記された書類であった。
世界中どこにでも瞬間転移をすることが出来るという、古代のレアアイテム『転送の石』を使い、魔王城までパーティーを転移させ、魔王を強襲して討ち取るという計画である。

『光の戦士達』は魔王討伐に最も近いとされている人類最強の冒険者パーティーであるが、彼らからしても海を渡り、魔族が巣くう大陸『魔大陸』にある巨大な魔王城へ突入し、魔王を倒すというのは簡単ではなかった。
正面から突入して数多の魔族という魔族の分厚い肉の壁を突破し、かつ魔族最強である魔王を倒すのは非現実的だったのだ。

しかし、ライル達がとあるダンジョンに潜った際に、偶然手にしたレアアイテム『転移の石』によって、とある可能性を見出すことが出来た。

魔王の近くに転移し、万全の状態で挑めば容易く魔王を討ち取れるのではないか、と。
そして魔王さえ打倒せば、魔族に戦意は一気に低下し、戦況はその日を境に大きく人類側に有利に傾くであろうと賢者であるアイラはライルに立案した。


ライルはその案を採用することに決めたが、アイラの計算では作戦の成功確率は65%。微妙な数字だ。
アイラが言うには『パーティーの火力不足』が懸念される、ということだった。

人類と魔族の最終決戦に挑むという、大きな勝負に出るにはそこまで悪いとは言えない。だが、やはり不安は大きくあるし、ライルはどうにか作戦の成功率を上げられないかと考え、計画は一旦保留とする。

パーティーの火力不足であるというなら、決戦用に攻撃用メンバーの増員をしたいところだが、あいにく転送の石はアイラの計算上、往復分含めてメンバー6人までしか使用できない魔力しかないという制限があった。

転送魔法というものは現代では既に存在していない魔法なので、転送の石が無ければ魔王を討ったところで無事に帰還することはほぼ不可能だ。何しろ敵の本拠地のど真ん中に片道で突っ込むのだから。
ちなみに転移の石は、1度も行ったことのない場所でも、行き先をざっくりイメージさえ出来れば転移出来るという実に都合の良い代物である。


ライルは考えた。片道特攻などするつもりはさらさらない。
無事に帝国に帰って褒美を賜り、地位と名誉を手に入れ、女を囲って幸せに暮らしたい・・・その一心で、この『魔王城強襲計画』で最も不要と思われるシュウをメンバーから外すことを決めたのだ。
常々ハーレムパーティーを築きたいと思っていたライルからすれば、一石二鳥の名案だ。


そしてこの日、ライルはついにシュウをメンバーから追放することに成功した。
メンバーから反対意見も出ると思ったが


「良いんじゃない?」とレーナ。

「勇者様がそう言われるのでしたら」とアイラ。

「まぁ、しゃーないか」とサーラ。

「仕方が無いと思います」とアリエス。


これまで地道にイメージダウンを図って来た効果が出たのか、ライルが拍子抜けするほどあっさりと追放に対しては同意が取れた。

こうしてライルはシュウの追放を実行することを決断する。
これが落ち目となる引き金になることになるとも知らずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...