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尊しの子 その1
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「法王・・・様・・・の子?」
法王デルス・マクスエル・・・彼は聖神教会のトップの者である。
世界中に教徒を持つ聖神教会のトップであるならば、見ようによっては世界最高の権力者と言えなくもない。
自分の後輩であり、一夜まで過ごした相手がその法王の実の娘だと知り、シュウは体の震えが止まらなかった。
「どうして・・・今まで話してくれなかったのですか?」
シュウの手からは既に紅茶のカップは滑り落ちて床に落ちていた。
対してフローラは優雅に紅茶を啜りながらそれに答える。
「だって私が法王の娘だと言ったら、シュウ様は絶対に手を出してはくださらなかったでしょう?」
「あ、ああああああああ当たり前でしょおぉぉぉぉ!?」
悪戯っぽく微笑むフローラに対して、シュウは顔面を蒼白にして声を震わせながら叫んだ。
シュウとて聖女を傷物にする段階でかなりの覚悟を決めたはずだった。後から降りかかるであろう障害も、まぁフローラが何とかなると言っていたのだから何とかなるだろうと楽観視できていた。
だが、聖女であった上に法王の娘であるとなると話は全然別だ。
実際にはそうではないのだが、白金の騎士団が出動してきたのもフローラが法王の娘だからだと考えればシュウも納得が出来た。
帝都脱出の際に聖神教会の虎の子である白金の騎士団が出てきたのはあくまでイレギュラーであり、今後はもうそんなことは無いだろうと根拠も無しに先ほどまでは考えていたが、法王の娘だというフローラの身分ならば、今後も更に第二第三の脅威が迫ってくるだろうと、シュウは絶望の底に沈む。
だがそんなシュウを前にして、フローラの態度はあくまで落ち着いたものだった。
「ですからシュウ様、私は忌み子なのですよ。法王と侍女の間に生まれたのが私なんですが、それ故に法王からしてみれば、今の私に価値はありません。興味も無いと思います」
フローラはそう言ってほんの少しだけ寂しそうに顔を俯かせつつ、微笑を浮かべる。
「法王が・・・侍女に・・・?」
厳格なイメージのある法王が、実のところ隠し子をもっていたなどと、やっぱり聖神教会というのはろくなものではないなとシュウは呆れた。
聖神教会は別に男が妻を複数持つことは禁止していない。ただし関係を持つ以上は、その女性を必ず妻に娶らなければいけないという決まりがある。
第二第三夫人は全然OKだが、愛人はNGと言ったところだ。
妻にしないのなら、女性との一切の性的接触は禁止とされている。娼館についても同様で、もちろんかつてのシュウならぶっちぎりでアウトだ。
「教徒には妻に娶ることを強要しておいて、自分はちゃっかり愛人とは・・・」
呆れて物も言えんと、シュウは溜め息をついた。
トップがそうなら、自分が最初に世話になった教会が地獄だったのは納得できるなと。
「法王には四人の妻がいます。それぞれの子の勢力争いが苛烈になり、私の母はその闘争から逃れたいがために、法王の妻となることを辞退しました。法王もそれを認め、私と母は表に出ることなく過ごしてきたのです」
「勢力争いですか・・・」
聖神教会のトップの座は世襲制ではない。だが、基本的に現法王の血族であるマクスエル家が大きな力を持っているのは変わりなく、何代かに一度別の家に者が法王に就くことはあるが、大体はマクスエル家の者が法王に就く流れになっている。
マクスエル家は親族同士で派閥争いが常にあるが、それが更に激しくなったのが現法王デルスの代だ。歴代法王も決まりの上では複数の妻を持つことが許されているが、それでも多くて娶るのは二人であった。
だが、現法王は好色家のようで四人も娶ってしまった。
それぞれの妻に子が生まれ、その子らが成長してくると、今度は将来の法王の座を見据えた派閥争いに利用されるようになる。
四人妻を持った現法王の代の派閥争いはもはや混沌の渦が出来、収拾のつかないような状態に陥っている。
そこでフローラの母が第五の妻としてエントリーしたらどうなるか・・・
母もろとも暗殺されかねない狂乱の戦に身を投じるようなものである。
だからフローラの母は法王の妻となることを辞退した。法王デルスに恋して関係こそ持ったが、あくまで侍女でしかない彼女は別に権力欲など持っていなかったので、法王の妻という立場よりも命の安全を選んだのだ。
「それでも法王の妻たちは私達親子を警戒し、帝都から遠ざけようと様々な嫌がらせをしてきました。そのうちに母は精神を病み、『お前など生まなければ良かった』と詰るようになったのです」
ここでフローラは一息つく。
シュウは黙って聞いていた。
「そして最後は・・・私は法王の子であることを隠し通すと念書を書かされた上に、教会に出されました。母は私を捨てたのです。あえて聖神教会に出したのは、嫌がらせをしてきた妻たちに対するせめてもの嫌味のようなものでしょうか」
俯き、カップを持つ手を僅かに震わせるフローラの手を、シュウは優しく包み込んだ。
法王デルス・マクスエル・・・彼は聖神教会のトップの者である。
世界中に教徒を持つ聖神教会のトップであるならば、見ようによっては世界最高の権力者と言えなくもない。
自分の後輩であり、一夜まで過ごした相手がその法王の実の娘だと知り、シュウは体の震えが止まらなかった。
「どうして・・・今まで話してくれなかったのですか?」
シュウの手からは既に紅茶のカップは滑り落ちて床に落ちていた。
対してフローラは優雅に紅茶を啜りながらそれに答える。
「だって私が法王の娘だと言ったら、シュウ様は絶対に手を出してはくださらなかったでしょう?」
「あ、ああああああああ当たり前でしょおぉぉぉぉ!?」
悪戯っぽく微笑むフローラに対して、シュウは顔面を蒼白にして声を震わせながら叫んだ。
シュウとて聖女を傷物にする段階でかなりの覚悟を決めたはずだった。後から降りかかるであろう障害も、まぁフローラが何とかなると言っていたのだから何とかなるだろうと楽観視できていた。
だが、聖女であった上に法王の娘であるとなると話は全然別だ。
実際にはそうではないのだが、白金の騎士団が出動してきたのもフローラが法王の娘だからだと考えればシュウも納得が出来た。
帝都脱出の際に聖神教会の虎の子である白金の騎士団が出てきたのはあくまでイレギュラーであり、今後はもうそんなことは無いだろうと根拠も無しに先ほどまでは考えていたが、法王の娘だというフローラの身分ならば、今後も更に第二第三の脅威が迫ってくるだろうと、シュウは絶望の底に沈む。
だがそんなシュウを前にして、フローラの態度はあくまで落ち着いたものだった。
「ですからシュウ様、私は忌み子なのですよ。法王と侍女の間に生まれたのが私なんですが、それ故に法王からしてみれば、今の私に価値はありません。興味も無いと思います」
フローラはそう言ってほんの少しだけ寂しそうに顔を俯かせつつ、微笑を浮かべる。
「法王が・・・侍女に・・・?」
厳格なイメージのある法王が、実のところ隠し子をもっていたなどと、やっぱり聖神教会というのはろくなものではないなとシュウは呆れた。
聖神教会は別に男が妻を複数持つことは禁止していない。ただし関係を持つ以上は、その女性を必ず妻に娶らなければいけないという決まりがある。
第二第三夫人は全然OKだが、愛人はNGと言ったところだ。
妻にしないのなら、女性との一切の性的接触は禁止とされている。娼館についても同様で、もちろんかつてのシュウならぶっちぎりでアウトだ。
「教徒には妻に娶ることを強要しておいて、自分はちゃっかり愛人とは・・・」
呆れて物も言えんと、シュウは溜め息をついた。
トップがそうなら、自分が最初に世話になった教会が地獄だったのは納得できるなと。
「法王には四人の妻がいます。それぞれの子の勢力争いが苛烈になり、私の母はその闘争から逃れたいがために、法王の妻となることを辞退しました。法王もそれを認め、私と母は表に出ることなく過ごしてきたのです」
「勢力争いですか・・・」
聖神教会のトップの座は世襲制ではない。だが、基本的に現法王の血族であるマクスエル家が大きな力を持っているのは変わりなく、何代かに一度別の家に者が法王に就くことはあるが、大体はマクスエル家の者が法王に就く流れになっている。
マクスエル家は親族同士で派閥争いが常にあるが、それが更に激しくなったのが現法王デルスの代だ。歴代法王も決まりの上では複数の妻を持つことが許されているが、それでも多くて娶るのは二人であった。
だが、現法王は好色家のようで四人も娶ってしまった。
それぞれの妻に子が生まれ、その子らが成長してくると、今度は将来の法王の座を見据えた派閥争いに利用されるようになる。
四人妻を持った現法王の代の派閥争いはもはや混沌の渦が出来、収拾のつかないような状態に陥っている。
そこでフローラの母が第五の妻としてエントリーしたらどうなるか・・・
母もろとも暗殺されかねない狂乱の戦に身を投じるようなものである。
だからフローラの母は法王の妻となることを辞退した。法王デルスに恋して関係こそ持ったが、あくまで侍女でしかない彼女は別に権力欲など持っていなかったので、法王の妻という立場よりも命の安全を選んだのだ。
「それでも法王の妻たちは私達親子を警戒し、帝都から遠ざけようと様々な嫌がらせをしてきました。そのうちに母は精神を病み、『お前など生まなければ良かった』と詰るようになったのです」
ここでフローラは一息つく。
シュウは黙って聞いていた。
「そして最後は・・・私は法王の子であることを隠し通すと念書を書かされた上に、教会に出されました。母は私を捨てたのです。あえて聖神教会に出したのは、嫌がらせをしてきた妻たちに対するせめてもの嫌味のようなものでしょうか」
俯き、カップを持つ手を僅かに震わせるフローラの手を、シュウは優しく包み込んだ。
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