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拗らせ片思いスコーン
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「聖女様は・・・聖女様はどこかぁ!」
シュウ達が去った後、それを追いかけることも出来なかった白金の騎士団は、目を負傷して動けなくなっていたスコーンを回収し、騎士団庁舎へと帰還していた。
目の治療を終えたスコーンは、医務室にて体を抑えつけようとする部下達を振り払う勢いでもがいていた。
「ああ 落ち着いてください。焦ることはありません。法王様より先ほど伝達がありまして、『聖女フローラについては現段階においては一先ず静観せよ。帝都の混乱の鎮圧に当たれ。追って連絡する』とのことです。我々が今出動する必要はありません」
副団長が諭すようにスコーンに言った。
白金の騎士団は法王の命令には従う。こう言われれば、いかに興奮状態に陥ったであろうスコーンとて冷静になるだろう・・・副団長はそう思った。が・・・
「一先ず静観だと!?そんな悠長なことを言っている場合ではないのである!!こうしている間にも聖女様は!フローラ様はああああ!」
予想に反して、スコーンが落ち着く様子はなく、むしろヒートアップしたことに
副団長は戸惑いを見せた。
常に実直に任務をこなし、どのような難題、どれだけのハードワークに対しても文句ひとつ言わなかったスコーンだった。
「我が心と剣は法王様のために」
白金の騎士団の団員は法王にそのように誓いを立ててから入団するが、その誓いを誰よりも守り体現しているのがスコーンである。
死ねと言われれば死ぬし、殺せと言われれば殺す。倫理観も何も関係ない。法王がそう言えばそのようにする、それが白金の騎士団であり、誰よりもそれを実行してきたのがスコーンだった。
だから、今こうして我を忘れて法王の命令にすら異を唱えるスコーンに一体何が起こったのか。それがどうしても気になり、副団長は恐る恐る訊ねた。
「一体どうされたのですか団長。法王様の命ですぞ?聖女様をみすみす逃してしまったことは痛恨の極みではありますが、現状で我々が出動する必要はございません」
法王の命に異を唱えたと外部に知れれば、白金の騎士団が取り潰しに遭う可能性も出るほどのスキャンダルになる。だから副団長は円満にスコーンに大人しくしてもらうために必死だった。
そのためにまずは話を聞こうと思ったのである。
「フローラ様は私の太陽なのである」
「は?」
真顔で言ったスコーンの返答に、副団長は最初何を言っているのか理解できなかった。
「太陽から陽を得られなければ、草木は枯れる。それと同じことなのである。フローラ様がいなくなれば、私はただ枯れるのみ」
「はぁ・・・」
副団長だけでなく、その場にいた団員全員が唖然としていた。
32歳のスコーンと17歳のフローラとではそこそこ歳の差があるが、まさかスコーンがそこまで懸想しているとは信じられなかったのだ。
「まさか団長がずっと縁談を断り続けてきたのは・・・」
「そうなのだ。私はフローラ様以外の女人を娶る気はないのである。私の純潔を捧げるならフローラ様以外には考えられないのである!」
「・・・えっ、団長って童貞?」
スコーンの唐突なカミングアウトに団員達が騒めく。
あくまで聖職者として、騎士として道を決めているからこそ独身を貫いているのかと思っていただけに、これは彼らには衝撃的だった。
まさか自分よりはるか年下の少女を懸想するあまり拗らせていただけだったとはと。
「初めてお姿を拝見して以来、ずっと私の心の中にはフローラ様しかいないのである。そんな私の太陽が目の前から消えようとしている・・・これが落ち着いていられるわけがないのであるぅぅぅ!!」
初めて拝見したとなると、フローラが10歳そこらのときから懸想していたことになる。そのことに気付いた団員達は思わず脱力してしまい、スコーンを抑えつける手が弱まってしまう。
「あっ!」
その隙を突き、スコーンは部下達を体から振り払った。
「今すぐ助けに行くのである!今からならまだ間に合うかもしれないのである!!」
スコーンは説得空しく、すぐにでも庁舎を飛び出そうとせんばかりだ。
副団長は必死になってスコーンの前に立ち塞がる。
「駄目です団長!法王様から出動するなと言われておりますから、ここはどうか堪えていただきたい!!」
「ならぬ!」
法王の名を出しても退かぬスコーンに、副団長は絶望した。もう止めることは出来ないのか、と。
「今すぐ行かねば取返しの付かぬことになるかもしれないのだ!フローラ様がシュウの毒牙にかかり、その身を穢されてしまってからでは遅いのである!!」
「でしたらもう手遅れです!聖女様は既に昨晩シュウとおたのしみだったと報告が上がっておりますから!!もう純潔じゃありませんよ!!法王様が静観せよと言ったのは、既に聖女様が聖女様としての資格を失ったとわかったからで・・・は・・・?」
外へ出ようとしているスコーンにしがみ付き、そう説得を続ける副団長は、急にスコーンの体から力が抜けたことに気が付いた。
「 は ? 」
スコーンが動きを止め、呆然とした顔をして副団長を見つめていた。
「 い ま 、 な ん と 言 っ た の だ 」
威圧感を込めた声で、スコーンは副団長に問う。
副団長はピーンと来た。
何がスコーンの動きを止めるのことになったのかに気付き、そしてこれからどう言えば彼が落ち着くかを思いつく。
「聖女・・・いや、元聖女フローラ様はシュウと昨晩おたのしみして、既に処女ではないということです。貴方ではなくシュウのモノになってしまったということですよ。既に清らかな乙女ではないのです。もう無かったことにはならないので、仕方ないから諦めて違う女を探しましょう」
副団長の言葉を聞いたスコーンは、泡を吹いて倒れた。
シュウ達が去った後、それを追いかけることも出来なかった白金の騎士団は、目を負傷して動けなくなっていたスコーンを回収し、騎士団庁舎へと帰還していた。
目の治療を終えたスコーンは、医務室にて体を抑えつけようとする部下達を振り払う勢いでもがいていた。
「ああ 落ち着いてください。焦ることはありません。法王様より先ほど伝達がありまして、『聖女フローラについては現段階においては一先ず静観せよ。帝都の混乱の鎮圧に当たれ。追って連絡する』とのことです。我々が今出動する必要はありません」
副団長が諭すようにスコーンに言った。
白金の騎士団は法王の命令には従う。こう言われれば、いかに興奮状態に陥ったであろうスコーンとて冷静になるだろう・・・副団長はそう思った。が・・・
「一先ず静観だと!?そんな悠長なことを言っている場合ではないのである!!こうしている間にも聖女様は!フローラ様はああああ!」
予想に反して、スコーンが落ち着く様子はなく、むしろヒートアップしたことに
副団長は戸惑いを見せた。
常に実直に任務をこなし、どのような難題、どれだけのハードワークに対しても文句ひとつ言わなかったスコーンだった。
「我が心と剣は法王様のために」
白金の騎士団の団員は法王にそのように誓いを立ててから入団するが、その誓いを誰よりも守り体現しているのがスコーンである。
死ねと言われれば死ぬし、殺せと言われれば殺す。倫理観も何も関係ない。法王がそう言えばそのようにする、それが白金の騎士団であり、誰よりもそれを実行してきたのがスコーンだった。
だから、今こうして我を忘れて法王の命令にすら異を唱えるスコーンに一体何が起こったのか。それがどうしても気になり、副団長は恐る恐る訊ねた。
「一体どうされたのですか団長。法王様の命ですぞ?聖女様をみすみす逃してしまったことは痛恨の極みではありますが、現状で我々が出動する必要はございません」
法王の命に異を唱えたと外部に知れれば、白金の騎士団が取り潰しに遭う可能性も出るほどのスキャンダルになる。だから副団長は円満にスコーンに大人しくしてもらうために必死だった。
そのためにまずは話を聞こうと思ったのである。
「フローラ様は私の太陽なのである」
「は?」
真顔で言ったスコーンの返答に、副団長は最初何を言っているのか理解できなかった。
「太陽から陽を得られなければ、草木は枯れる。それと同じことなのである。フローラ様がいなくなれば、私はただ枯れるのみ」
「はぁ・・・」
副団長だけでなく、その場にいた団員全員が唖然としていた。
32歳のスコーンと17歳のフローラとではそこそこ歳の差があるが、まさかスコーンがそこまで懸想しているとは信じられなかったのだ。
「まさか団長がずっと縁談を断り続けてきたのは・・・」
「そうなのだ。私はフローラ様以外の女人を娶る気はないのである。私の純潔を捧げるならフローラ様以外には考えられないのである!」
「・・・えっ、団長って童貞?」
スコーンの唐突なカミングアウトに団員達が騒めく。
あくまで聖職者として、騎士として道を決めているからこそ独身を貫いているのかと思っていただけに、これは彼らには衝撃的だった。
まさか自分よりはるか年下の少女を懸想するあまり拗らせていただけだったとはと。
「初めてお姿を拝見して以来、ずっと私の心の中にはフローラ様しかいないのである。そんな私の太陽が目の前から消えようとしている・・・これが落ち着いていられるわけがないのであるぅぅぅ!!」
初めて拝見したとなると、フローラが10歳そこらのときから懸想していたことになる。そのことに気付いた団員達は思わず脱力してしまい、スコーンを抑えつける手が弱まってしまう。
「あっ!」
その隙を突き、スコーンは部下達を体から振り払った。
「今すぐ助けに行くのである!今からならまだ間に合うかもしれないのである!!」
スコーンは説得空しく、すぐにでも庁舎を飛び出そうとせんばかりだ。
副団長は必死になってスコーンの前に立ち塞がる。
「駄目です団長!法王様から出動するなと言われておりますから、ここはどうか堪えていただきたい!!」
「ならぬ!」
法王の名を出しても退かぬスコーンに、副団長は絶望した。もう止めることは出来ないのか、と。
「今すぐ行かねば取返しの付かぬことになるかもしれないのだ!フローラ様がシュウの毒牙にかかり、その身を穢されてしまってからでは遅いのである!!」
「でしたらもう手遅れです!聖女様は既に昨晩シュウとおたのしみだったと報告が上がっておりますから!!もう純潔じゃありませんよ!!法王様が静観せよと言ったのは、既に聖女様が聖女様としての資格を失ったとわかったからで・・・は・・・?」
外へ出ようとしているスコーンにしがみ付き、そう説得を続ける副団長は、急にスコーンの体から力が抜けたことに気が付いた。
「 は ? 」
スコーンが動きを止め、呆然とした顔をして副団長を見つめていた。
「 い ま 、 な ん と 言 っ た の だ 」
威圧感を込めた声で、スコーンは副団長に問う。
副団長はピーンと来た。
何がスコーンの動きを止めるのことになったのかに気付き、そしてこれからどう言えば彼が落ち着くかを思いつく。
「聖女・・・いや、元聖女フローラ様はシュウと昨晩おたのしみして、既に処女ではないということです。貴方ではなくシュウのモノになってしまったということですよ。既に清らかな乙女ではないのです。もう無かったことにはならないので、仕方ないから諦めて違う女を探しましょう」
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