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司教、責任を取ります
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シュウ達が国外へ逃走し終えた頃・・・シュウ達の逃走を許した聖神教会は、言わずもがな混乱をきたしていた。
第1から第5まである支部、そして本部の代表者が一同に集まり、極秘裏に会議が行われていた。
会議といっても、基本的には第5支部の代表・・・レウス司教に対する糾弾が主である。
「新聞社の記事の発行を止めることも、市井の噂を消すことも、もはやどうにもならぬところまで来ているな。いやはや、ここまで滅茶苦茶になるとは全てレウス殿お陰だ」
「我ら関係のない支部にまで飛び火している。市民が絶え間なく押しかけてきているそうだよ、聖女の人権を守れとな。これでしばらくほとぼりが冷めるまでは聖女の縁談を結びづらくなった。経済的損失だけでも、教会が一つ傾くよ」
「聖女達が余計な考えを持たぬように気を遣わねばならなくなった。悪しき前例だ・・・極めて悪しき、だ」
他の代表者は皆椅子に腰かけているが、レウスだけが項垂れて棒立ちになり、皆の糾弾の的になっていた。まるで裁判のような光景である。
(くそっ・・・どうしてこんなことに・・・!)
レウスは歯噛みする。
知らぬ間に聖女が逃げ出し、知らぬ間に自分の悪名が広がり、そして逃げられてしまった。
何もかも自分の知らぬ間の出来事だ。どうしろというのか。
しかも聖女の確保に失敗した白金の騎士団については法王の直属の組織であるためか、誰一人糾弾しようとしない。
自分だけが責められている理不尽にレウスは我を忘れそうなほどの怒りを感じていた。
「それも何だって?元は君が聖女の懸想する神官に横恋慕して、つまらん嫉妬が原因となって引き起こされたことだという話じゃないか?」
フローラのついた大嘘が記事になり、元々シュウが意地悪で広めたレウスの悪評とマッチした結果・・・レウスが男色家で、シュウに懸想してそれが拗れたことによって聖女とシュウの駆け落ちが発生した、聖神教会内ではそのような話がまるで事実であるかのように広まっていた。
「違う!そのような事実はない!」
レウスは必死に叫ぶが、皆の視線は冷めたままだった。
「ならばどうしてシュウとやらを勝手に破紋した?まずそこからして問題ではないか」
「ぐっ・・・」
噂が嘘であろうとも、レウスが自分の判断で勝手にシュウの破紋したことは事実である。そしてこれが問題であった。
「聖紋さえあれば、彼らがどこまで逃げたところで我々は追跡することが出来たのだ!貴様が破紋したことでそれすら出来ないではないか!彼らを見つけるのにどれだけの時間と金と人員を割くことになると思っているのだ!!」
レウスは心底悔しそうに歯を食いしばる。
聖紋は神の加護を受け、聖神教会の神官であるという身分を証明するものであるが、それと同時に教会が教徒を管理するための仕掛けのようなものでもあった。
聖紋を持つ者は、いつどこにいても場所が把握できるように、微弱な魔力信号が教会に送られるようになっているのである。
このような事態になることを想定することは難しいとはいえ、レウスは自ら逃走したシュウを追跡する手段を失わせたことになるのだ。
尤も、フローラの力があれば彼女でもシュウを破紋させることが出来るのだが、まさかそこまでの力がフローラにあるとは思わない面々は、『フローラも自らを破紋している』という記事に関してはデマであると判断していた。
聖紋がある(と思っている)フローラの位置について追跡が出来ないことに関しては、彼女が何かしらの妨害魔術を展開しているのだろうくらいに考えている。
「ともあれ、これからのことが大事だ。世論のほうは私が知り合いの劇団に手を回し、『聖女が一般人と駆け落ちしましたが、これまでの生活が捨てきれずに戻ってこようとしたところでもう遅い!旧聖女はお払い箱で、新しい聖女で教会を盛り上げて行きます』といったざまぁ系の演目を無料で公演し、世論を動かしていこうと思う」
「ほぉ。駆け落ちした聖女が悪、といった流れを作っているのですな。私の方でも似たような駆け落ち聖女ざまぁ系を公演させるよう、知り合いの劇団に手を回してみよう」
「一年・・・いや半年あれば、今の流れはどうにか変えられるだろう。きっと聖女の政略結婚もまとめやすい空気になるはずだ」
「世論はそれで良いな。問題は逃走したフローラとシュウの方だ。あれらを見せしめにしないことにはな・・・これまでの脱走と違い、市井にまで広く知られることになってしまったのだ。このまま逃がすわけにはいかん」
他支部の代表者の話がそこまで進んだところで、レウスは顔を上げ、必死の形相で訴えかけた。
「汚名返上だ!シュウ達のことに関しては私に任せてくれ!!」
「はぁ?何を言ってるんだ」と皆はレウスのことを呆れた目で見ていたが、しかしあまりに熱意の籠った目をしているレウスを見て「まぁ、任せてみるか」と言った空気が流れる。
どこへ逃げたかわからない者の追跡などという面倒で金がかかることなど、やりたがる者はいないからだ。
それなら問題を起こした張本人に責任を取って役目を果たしてもらおうと考えたのだ。
「私が必ずケリをつけてみせる!」
レウスはそう言って踵を返し、会議室を飛び出した。
「殺してやる、殺してやるぞ・・・」
目的はあくまで聖女の捕縛・・・だが、レウスはほとんどその目的を忘れていた。
自分をコケにしたシュウとフローラを殺す。
そのような聖職者らしからぬことを考えているレウスは、すれ違う者全員が戦慄するほど恐ろしい形相をしていたという。
第1から第5まである支部、そして本部の代表者が一同に集まり、極秘裏に会議が行われていた。
会議といっても、基本的には第5支部の代表・・・レウス司教に対する糾弾が主である。
「新聞社の記事の発行を止めることも、市井の噂を消すことも、もはやどうにもならぬところまで来ているな。いやはや、ここまで滅茶苦茶になるとは全てレウス殿お陰だ」
「我ら関係のない支部にまで飛び火している。市民が絶え間なく押しかけてきているそうだよ、聖女の人権を守れとな。これでしばらくほとぼりが冷めるまでは聖女の縁談を結びづらくなった。経済的損失だけでも、教会が一つ傾くよ」
「聖女達が余計な考えを持たぬように気を遣わねばならなくなった。悪しき前例だ・・・極めて悪しき、だ」
他の代表者は皆椅子に腰かけているが、レウスだけが項垂れて棒立ちになり、皆の糾弾の的になっていた。まるで裁判のような光景である。
(くそっ・・・どうしてこんなことに・・・!)
レウスは歯噛みする。
知らぬ間に聖女が逃げ出し、知らぬ間に自分の悪名が広がり、そして逃げられてしまった。
何もかも自分の知らぬ間の出来事だ。どうしろというのか。
しかも聖女の確保に失敗した白金の騎士団については法王の直属の組織であるためか、誰一人糾弾しようとしない。
自分だけが責められている理不尽にレウスは我を忘れそうなほどの怒りを感じていた。
「それも何だって?元は君が聖女の懸想する神官に横恋慕して、つまらん嫉妬が原因となって引き起こされたことだという話じゃないか?」
フローラのついた大嘘が記事になり、元々シュウが意地悪で広めたレウスの悪評とマッチした結果・・・レウスが男色家で、シュウに懸想してそれが拗れたことによって聖女とシュウの駆け落ちが発生した、聖神教会内ではそのような話がまるで事実であるかのように広まっていた。
「違う!そのような事実はない!」
レウスは必死に叫ぶが、皆の視線は冷めたままだった。
「ならばどうしてシュウとやらを勝手に破紋した?まずそこからして問題ではないか」
「ぐっ・・・」
噂が嘘であろうとも、レウスが自分の判断で勝手にシュウの破紋したことは事実である。そしてこれが問題であった。
「聖紋さえあれば、彼らがどこまで逃げたところで我々は追跡することが出来たのだ!貴様が破紋したことでそれすら出来ないではないか!彼らを見つけるのにどれだけの時間と金と人員を割くことになると思っているのだ!!」
レウスは心底悔しそうに歯を食いしばる。
聖紋は神の加護を受け、聖神教会の神官であるという身分を証明するものであるが、それと同時に教会が教徒を管理するための仕掛けのようなものでもあった。
聖紋を持つ者は、いつどこにいても場所が把握できるように、微弱な魔力信号が教会に送られるようになっているのである。
このような事態になることを想定することは難しいとはいえ、レウスは自ら逃走したシュウを追跡する手段を失わせたことになるのだ。
尤も、フローラの力があれば彼女でもシュウを破紋させることが出来るのだが、まさかそこまでの力がフローラにあるとは思わない面々は、『フローラも自らを破紋している』という記事に関してはデマであると判断していた。
聖紋がある(と思っている)フローラの位置について追跡が出来ないことに関しては、彼女が何かしらの妨害魔術を展開しているのだろうくらいに考えている。
「ともあれ、これからのことが大事だ。世論のほうは私が知り合いの劇団に手を回し、『聖女が一般人と駆け落ちしましたが、これまでの生活が捨てきれずに戻ってこようとしたところでもう遅い!旧聖女はお払い箱で、新しい聖女で教会を盛り上げて行きます』といったざまぁ系の演目を無料で公演し、世論を動かしていこうと思う」
「ほぉ。駆け落ちした聖女が悪、といった流れを作っているのですな。私の方でも似たような駆け落ち聖女ざまぁ系を公演させるよう、知り合いの劇団に手を回してみよう」
「一年・・・いや半年あれば、今の流れはどうにか変えられるだろう。きっと聖女の政略結婚もまとめやすい空気になるはずだ」
「世論はそれで良いな。問題は逃走したフローラとシュウの方だ。あれらを見せしめにしないことにはな・・・これまでの脱走と違い、市井にまで広く知られることになってしまったのだ。このまま逃がすわけにはいかん」
他支部の代表者の話がそこまで進んだところで、レウスは顔を上げ、必死の形相で訴えかけた。
「汚名返上だ!シュウ達のことに関しては私に任せてくれ!!」
「はぁ?何を言ってるんだ」と皆はレウスのことを呆れた目で見ていたが、しかしあまりに熱意の籠った目をしているレウスを見て「まぁ、任せてみるか」と言った空気が流れる。
どこへ逃げたかわからない者の追跡などという面倒で金がかかることなど、やりたがる者はいないからだ。
それなら問題を起こした張本人に責任を取って役目を果たしてもらおうと考えたのだ。
「私が必ずケリをつけてみせる!」
レウスはそう言って踵を返し、会議室を飛び出した。
「殺してやる、殺してやるぞ・・・」
目的はあくまで聖女の捕縛・・・だが、レウスはほとんどその目的を忘れていた。
自分をコケにしたシュウとフローラを殺す。
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