上 下
27 / 464

大苦悩司教

しおりを挟む
「なに!?私がシュウに懸想し、彼をモノにしたいために聖女との仲を引き裂こうとしただと!!?どうしてそんな話になっているんだ!!?意味がわからないぞ!!」


レウスは気を落ち着けてから、再度神官に状況について報告を受けた。
ただし当然であるが落ち着いてから聞いても、再び激昂するような内容の報告でしかなかった。


「何やら聖女様がそのように仰ったようでして、それを聞いた市井の者が広めているといった状況でございます。既に帝都中に知れ渡っている可能性も否定できません」


「んな・・・」


馬鹿な・・・と、レウスは膝から崩れ落ちそうになって、どうにか踏みとどまる。


「ちっ、根も葉もない噂だ!だが一先ずは放っておく!先にやるのは聖女とシュウを捕らえることだ!とんだ醜聞だぞこれは!!どれだけの犠牲を払っても捕まえるのだ!!」


そう叫び気を取り直そうとするレウスの元だが、現状捕縛に苦戦している状況だけに沈痛な空気が漂う。
そしてそんなところに更にバッドニュースが飛び込んでくる。


「失礼します!第4支部のエルエム司教より言伝です。現在聖女様と逃走をしている元神官シュウを、一体どんな権限があって破紋にしたのかについてお尋ねしたいそうです!」


「げっ・・・!」


レウスは新たなやってきた神官の報告を聞いて、サッと顔を青ざめる。
『光の戦士達』を追放されたシュウの不甲斐なさに腹を立て、怒りのままに彼の聖紋を独断によって消し去ってしまったが、これは問題行為であった。
司教であっても、例え相手がいち神官であっても、私情でもって破紋することは厳密には越権行為になる。とはいえ通常ならばそこまで大きく問題視されることはないことだ。

だが、今回はその相手が聖女と逃避行をしているシュウなのだ。注目度が高い彼に対し、適正な処置をしなかったことによって今のシュウ達の行動があると思われてしまうと、この騒動の原因となったことの責任をレウスは追及される可能性が大いにあった。


「まずい・・・まずいぞ・・・」


自業自得とはいえ、レウスは一気に襲い掛かってきた不幸に胃が痛くなった。
どうにかしたいところだが、打てる手がまるで思いつかない。

教会の内からも外からも攻撃される要素を持っている今のレウスは、完全に孤立状態に陥っており、正常な思考が出来なくなっていた。


「こうなれば・・・どうせ破滅しかないのなら・・・ならば・・・」


俯き、ぶつぶつと呟くレウスを、神官達は怪訝な目で見つめる。
そこに更に新しい神官がやってきた。


「司教様、報告します!」


勢いよく執務室に入ってきた神官は、俯いてブツブツ言っているレウスと、おろおろする複数の神官達を見て戸惑い、一瞬口を噤んだ。


「なんだ?言え」


入って来た神官の方を一瞥すらせずに、レウスは先を促す。レウスはもう何を聞かされても驚かないという諦めの境地に達していた。


「は、はい・・・それが、このたびの騒動に対し、急遽『白金《しろがね》の騎士団』が動き出したとの報告が!」


神官が報告を終えると、レウスはピクッと体を奮わせた。


「し、白金の騎士団・・・?まさか・・・」


「何かの間違いでは・・・」


報告を聞いていた他の神官達が騒めく。
やや間を置いて、レウスは唐突に叫び出した。


「そうか!!白金の騎士団が動きだしたか!!何故かは知らんが、これでシュウ達を捕まえることができるのなら、一先ずはそれで良いわ!」


「フゥーッハハハ」と狂ったように笑いだしたレウスを見て、神官達は眉を顰める。
だが、「白金の騎士団が出るのなら、確かに事態は沈静化するな・・・」と納得もしていた。


白金の騎士団とは、レウスを始め神官達からしても、絶対にシュウ達を取り押さえることが出来るだろうと期待されている集団である。
重苦しかった執務室の空気が一気に変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...