上 下
26 / 455

大絶望司教

しおりを挟む
「報告します。聖女フローラ様を市街地の宿屋にて発見したとのことです!用意が出来次第こちらへ連れてくるようです。」


シュウ達が狂暴な白馬を駆ってで大騒ぎしていた頃、聖神教会帝都第5支部の司教の執務室には、司教レウスが心待ちにしていた報告が飛び込んでいた。


「なんだと!?本当か!」


レウスはほっと胸を撫でおろす。


「ふぅっ、全く冷や冷やさせてくれるわい。聖女まで私の駒でなくなったら、今後一体どうしたら良いかわからなくなってしまっていただろう・・・」


フローラはこの第5支部所属の聖女だ。
歴代最高の聖魔法の才能を持つとされる聖女を自分の元から輩出することは、レウスにとって大事な大事な出世の足掛かりになるはずだった。

だがその聖女が行方不明になるとレウスの希望は断たれてしまう。
故にレウスは普段は真剣にやらぬ聖神への祈りを熱心に捧げ、何としても聖女フローラが見つかりますようにと願っていた。その願いが叶ったことで、今レウスは天にも昇るほどの安堵感を得ている。

しかし、報告に来た次の神官の一言がそんなレウスを地獄に叩き落した。


「ただ、その・・・報告によると、聖女様は共にいた男性と、その、ゆうべはだったそうです」


言いにくそうにそう告げた神官の顔を、レウスは目を見開いて睨みつけた。
ここで言う『おたのしみ』とは、性交の隠語である。


「待て・・・?い、今・・・聖女がおたのしみだったと言ったのか?何かの間違いであろう?なぁ?」


何かの聞き間違いだろう。レウスの理性がそう判断し、心の底から今聞いたことは聞き間違いだろうと思い、神官に再度確認する。
だが、神官の口から出てきた言葉はレウスが求めていたものではなかった。


「いえ・・・残念ですが、本当にゆうべはおたのしみだったそうです。聖女様と男が同じベッドで裸でいたという報告を受けています」


レウスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
しかし脳がまだ現実を受け入れてはいない。


「だ、男女が裸でやることなど、別におたのしみ以外であるであろう?・・・す、相撲とか・・・」


「司教様・・・」


虚ろな目でそう言って同意を求めるレウスに、神官は憐憫の目を向けた。
神官とて聖女フローラの存在がどれだけレウスにとって大事なものかはわかっていた。
派閥争いに負け、司教という立場なれど実質冷や飯を食っているレウスにとって聖女や勇者ライルとのパイプは起死回生の最後の頼みの綱だった。

特に聖女が持つ逆転の可能性の強さは絶大で、レウスはフローラの政略結婚の相手探しは慎重に慎重を重ねて吟味をしていた。
名乗りを上げた高位貴族や王族はいくつもあったが、フローラは歴代最高の聖女になると期待されている逸材。可能な限り少しでも上位の人間と結婚させ、教会内での功績を上げようとレウスは時間と神経を注いでフローラを売り込んでいた。

その甲斐あり、ここ最近帝国の皇族ないし他の強国の王太子との縁談が結べそうなところまで漕ぎつけることが出来た。
通常よりも聖女の婚約者選びに時間はかかったが、それでもそうするだけの見返りはあったのだ。
「あ~、困ったわい(棒)。さて、相手はどちらにしたものかなぁ」と贅沢な悩みに浸っていたのだが・・・


「嘘だろう?聖女が男とおたのしみだったなどと・・・そんな身持ちの軽い女ではあるまい?」


縋るようにそう問う司教に、神官は首を横に振って答える。


「聖女様のお相手というのが、かねてより懸想していたというシュウという元神官です。そのような男と二人で一晩ともにいたとなると、何も起こらぬはずはなく・・・」


「シュウだと!?あ、あの男めがぁぁぁ!!」


レウスは激昂して仕事机の上に積んであった書類を薙ぎ払った。


「どこまで私を陥れればっ!あの男め!あの男めぇぇぇ!!」


散らばった書類を拾い、ビリビリに破き、机の上にあった紅茶のカップを手に取って床に投げつける。まるで癇癪を起こした子供のような暴れっぷりであった。


「どうか落ち着いてください。起きてしまったことは仕方がありません。幸いにも聖女様の身柄は手にすることが出来ました。と、なればこれからのことを考えるべきです」


レウスは神官のその言葉には答えず、しばらく息を荒くして黙っていたが、やがて大きく溜め息をついてから観念したように言った。


「そうだな・・・既に聖女が処女でないならば嫁ぎ先を再考せねばならんが、それでも優秀な聖女だ。貰い手が全く無いわけではない。情報管制して事実を知っている者にはどうにか口封じを徹底させる。既に起きてしまったことは仕方がない。恨みの方はシュウのほうを拷問することで晴らすとしよう・・・」


虚ろな目でぶつぶつとそう口にするレウスを、神官は怯えながら見ていた。
なんとかいくらか溜飲を下げたレウスを、更に怒り狂わせる報告が入ったのはその直後だった。


「聖女フローラ様が、同衾していた男と逃亡したとのことです!現在、騎士による捕獲を試みております!」


「 は ! ? 」


最初に報告に来ていた神官とは別の神官が、新たなバッドニュースを知らせにやってきた。
レウスは唖然として顎が外れそうなほどあんぐりと口を開ける。


「情報量が多くまとめきれませんが、まず今回の件については既に新聞社に知られ、取材まで受けているとのこと。そして聖女様達が逃亡したのは『真実の愛』のためとのこと。後は・・・レウス司教様がゲイで逃亡者シュウに懸想していたという噂が広まっているとの・・・ことです」


神官二人の視線が微妙な色を帯びてレウスを捉える。


「・・・すまんが混乱しているのか、言っていることの意味がわからないんだ。もう一度ゆっくり言ってくれないか」


レウスは生気の抜けた顔をしながら抑揚のない声でそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...