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大絶望司教
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「報告します。聖女フローラ様を市街地の宿屋にて発見したとのことです!用意が出来次第こちらへ連れてくるようです。」
シュウ達が狂暴な白馬を駆ってで大騒ぎしていた頃、聖神教会帝都第5支部の司教の執務室には、司教レウスが心待ちにしていた報告が飛び込んでいた。
「なんだと!?本当か!」
レウスはほっと胸を撫でおろす。
「ふぅっ、全く冷や冷やさせてくれるわい。聖女まで私の駒でなくなったら、今後一体どうしたら良いかわからなくなってしまっていただろう・・・」
フローラはこの第5支部所属の聖女だ。
歴代最高の聖魔法の才能を持つとされる聖女を自分の元から輩出することは、レウスにとって大事な大事な出世の足掛かりになるはずだった。
だがその聖女が行方不明になるとレウスの希望は断たれてしまう。
故にレウスは普段は真剣にやらぬ聖神への祈りを熱心に捧げ、何としても聖女フローラが見つかりますようにと願っていた。その願いが叶ったことで、今レウスは天にも昇るほどの安堵感を得ている。
しかし、報告に来た次の神官の一言がそんなレウスを地獄に叩き落した。
「ただ、その・・・報告によると、聖女様は共にいた男性と、その、ゆうべはおたのしみだったそうです」
言いにくそうにそう告げた神官の顔を、レウスは目を見開いて睨みつけた。
ここで言う『おたのしみ』とは、性交の隠語である。
「待て・・・?い、今・・・聖女がおたのしみだったと言ったのか?何かの間違いであろう?なぁ?」
何かの聞き間違いだろう。レウスの理性がそう判断し、心の底から今聞いたことは聞き間違いだろうと思い、神官に再度確認する。
だが、神官の口から出てきた言葉はレウスが求めていたものではなかった。
「いえ・・・残念ですが、本当にゆうべはおたのしみだったそうです。聖女様と男が同じベッドで裸でいたという報告を受けています」
レウスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
しかし脳がまだ現実を受け入れてはいない。
「だ、男女が裸でやることなど、別におたのしみ以外であるであろう?・・・す、相撲とか・・・」
「司教様・・・」
虚ろな目でそう言って同意を求めるレウスに、神官は憐憫の目を向けた。
神官とて聖女フローラの存在がどれだけレウスにとって大事なものかはわかっていた。
派閥争いに負け、司教という立場なれど実質冷や飯を食っているレウスにとって聖女や勇者ライルとのパイプは起死回生の最後の頼みの綱だった。
特に聖女が持つ逆転の可能性の強さは絶大で、レウスはフローラの政略結婚の相手探しは慎重に慎重を重ねて吟味をしていた。
名乗りを上げた高位貴族や王族はいくつもあったが、フローラは歴代最高の聖女になると期待されている逸材。可能な限り少しでも上位の人間と結婚させ、教会内での功績を上げようとレウスは時間と神経を注いでフローラを売り込んでいた。
その甲斐あり、ここ最近帝国の皇族ないし他の強国の王太子との縁談が結べそうなところまで漕ぎつけることが出来た。
通常よりも聖女の婚約者選びに時間はかかったが、それでもそうするだけの見返りはあったのだ。
「あ~、困ったわい(棒)。さて、相手はどちらにしたものかなぁ」と贅沢な悩みに浸っていたのだが・・・
「嘘だろう?聖女が男とおたのしみだったなどと・・・そんな身持ちの軽い女ではあるまい?」
縋るようにそう問う司教に、神官は首を横に振って答える。
「聖女様のお相手というのが、かねてより懸想していたというシュウという元神官です。そのような男と二人で一晩ともにいたとなると、何も起こらぬはずはなく・・・」
「シュウだと!?あ、あの男めがぁぁぁ!!」
レウスは激昂して仕事机の上に積んであった書類を薙ぎ払った。
「どこまで私を陥れればっ!あの男め!あの男めぇぇぇ!!」
散らばった書類を拾い、ビリビリに破き、机の上にあった紅茶のカップを手に取って床に投げつける。まるで癇癪を起こした子供のような暴れっぷりであった。
「どうか落ち着いてください。起きてしまったことは仕方がありません。幸いにも聖女様の身柄は手にすることが出来ました。と、なればこれからのことを考えるべきです」
レウスは神官のその言葉には答えず、しばらく息を荒くして黙っていたが、やがて大きく溜め息をついてから観念したように言った。
「そうだな・・・既に聖女が処女でないならば嫁ぎ先を再考せねばならんが、それでも優秀な聖女だ。貰い手が全く無いわけではない。情報管制して事実を知っている者にはどうにか口封じを徹底させる。既に起きてしまったことは仕方がない。恨みの方はシュウのほうを拷問することで晴らすとしよう・・・」
虚ろな目でぶつぶつとそう口にするレウスを、神官は怯えながら見ていた。
なんとかいくらか溜飲を下げたレウスを、更に怒り狂わせる報告が入ったのはその直後だった。
「聖女フローラ様が、同衾していた男と逃亡したとのことです!現在、騎士による捕獲を試みております!」
「 は ! ? 」
最初に報告に来ていた神官とは別の神官が、新たなバッドニュースを知らせにやってきた。
レウスは唖然として顎が外れそうなほどあんぐりと口を開ける。
「情報量が多くまとめきれませんが、まず今回の件については既に新聞社に知られ、取材まで受けているとのこと。そして聖女様達が逃亡したのは『真実の愛』のためとのこと。後は・・・レウス司教様がゲイで逃亡者シュウに懸想していたという噂が広まっているとの・・・ことです」
神官二人の視線が微妙な色を帯びてレウスを捉える。
「・・・すまんが混乱しているのか、言っていることの意味がわからないんだ。もう一度ゆっくり言ってくれないか」
レウスは生気の抜けた顔をしながら抑揚のない声でそう言った。
シュウ達が狂暴な白馬を駆ってで大騒ぎしていた頃、聖神教会帝都第5支部の司教の執務室には、司教レウスが心待ちにしていた報告が飛び込んでいた。
「なんだと!?本当か!」
レウスはほっと胸を撫でおろす。
「ふぅっ、全く冷や冷やさせてくれるわい。聖女まで私の駒でなくなったら、今後一体どうしたら良いかわからなくなってしまっていただろう・・・」
フローラはこの第5支部所属の聖女だ。
歴代最高の聖魔法の才能を持つとされる聖女を自分の元から輩出することは、レウスにとって大事な大事な出世の足掛かりになるはずだった。
だがその聖女が行方不明になるとレウスの希望は断たれてしまう。
故にレウスは普段は真剣にやらぬ聖神への祈りを熱心に捧げ、何としても聖女フローラが見つかりますようにと願っていた。その願いが叶ったことで、今レウスは天にも昇るほどの安堵感を得ている。
しかし、報告に来た次の神官の一言がそんなレウスを地獄に叩き落した。
「ただ、その・・・報告によると、聖女様は共にいた男性と、その、ゆうべはおたのしみだったそうです」
言いにくそうにそう告げた神官の顔を、レウスは目を見開いて睨みつけた。
ここで言う『おたのしみ』とは、性交の隠語である。
「待て・・・?い、今・・・聖女がおたのしみだったと言ったのか?何かの間違いであろう?なぁ?」
何かの聞き間違いだろう。レウスの理性がそう判断し、心の底から今聞いたことは聞き間違いだろうと思い、神官に再度確認する。
だが、神官の口から出てきた言葉はレウスが求めていたものではなかった。
「いえ・・・残念ですが、本当にゆうべはおたのしみだったそうです。聖女様と男が同じベッドで裸でいたという報告を受けています」
レウスは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
しかし脳がまだ現実を受け入れてはいない。
「だ、男女が裸でやることなど、別におたのしみ以外であるであろう?・・・す、相撲とか・・・」
「司教様・・・」
虚ろな目でそう言って同意を求めるレウスに、神官は憐憫の目を向けた。
神官とて聖女フローラの存在がどれだけレウスにとって大事なものかはわかっていた。
派閥争いに負け、司教という立場なれど実質冷や飯を食っているレウスにとって聖女や勇者ライルとのパイプは起死回生の最後の頼みの綱だった。
特に聖女が持つ逆転の可能性の強さは絶大で、レウスはフローラの政略結婚の相手探しは慎重に慎重を重ねて吟味をしていた。
名乗りを上げた高位貴族や王族はいくつもあったが、フローラは歴代最高の聖女になると期待されている逸材。可能な限り少しでも上位の人間と結婚させ、教会内での功績を上げようとレウスは時間と神経を注いでフローラを売り込んでいた。
その甲斐あり、ここ最近帝国の皇族ないし他の強国の王太子との縁談が結べそうなところまで漕ぎつけることが出来た。
通常よりも聖女の婚約者選びに時間はかかったが、それでもそうするだけの見返りはあったのだ。
「あ~、困ったわい(棒)。さて、相手はどちらにしたものかなぁ」と贅沢な悩みに浸っていたのだが・・・
「嘘だろう?聖女が男とおたのしみだったなどと・・・そんな身持ちの軽い女ではあるまい?」
縋るようにそう問う司教に、神官は首を横に振って答える。
「聖女様のお相手というのが、かねてより懸想していたというシュウという元神官です。そのような男と二人で一晩ともにいたとなると、何も起こらぬはずはなく・・・」
「シュウだと!?あ、あの男めがぁぁぁ!!」
レウスは激昂して仕事机の上に積んであった書類を薙ぎ払った。
「どこまで私を陥れればっ!あの男め!あの男めぇぇぇ!!」
散らばった書類を拾い、ビリビリに破き、机の上にあった紅茶のカップを手に取って床に投げつける。まるで癇癪を起こした子供のような暴れっぷりであった。
「どうか落ち着いてください。起きてしまったことは仕方がありません。幸いにも聖女様の身柄は手にすることが出来ました。と、なればこれからのことを考えるべきです」
レウスは神官のその言葉には答えず、しばらく息を荒くして黙っていたが、やがて大きく溜め息をついてから観念したように言った。
「そうだな・・・既に聖女が処女でないならば嫁ぎ先を再考せねばならんが、それでも優秀な聖女だ。貰い手が全く無いわけではない。情報管制して事実を知っている者にはどうにか口封じを徹底させる。既に起きてしまったことは仕方がない。恨みの方はシュウのほうを拷問することで晴らすとしよう・・・」
虚ろな目でぶつぶつとそう口にするレウスを、神官は怯えながら見ていた。
なんとかいくらか溜飲を下げたレウスを、更に怒り狂わせる報告が入ったのはその直後だった。
「聖女フローラ様が、同衾していた男と逃亡したとのことです!現在、騎士による捕獲を試みております!」
「 は ! ? 」
最初に報告に来ていた神官とは別の神官が、新たなバッドニュースを知らせにやってきた。
レウスは唖然として顎が外れそうなほどあんぐりと口を開ける。
「情報量が多くまとめきれませんが、まず今回の件については既に新聞社に知られ、取材まで受けているとのこと。そして聖女様達が逃亡したのは『真実の愛』のためとのこと。後は・・・レウス司教様がゲイで逃亡者シュウに懸想していたという噂が広まっているとの・・・ことです」
神官二人の視線が微妙な色を帯びてレウスを捉える。
「・・・すまんが混乱しているのか、言っていることの意味がわからないんだ。もう一度ゆっくり言ってくれないか」
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