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二人の平穏な未来のために (なお既に波乱
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「大変よ、大変だわ!真実の愛よ!」
事情を知らぬ者が聞けば訳の分からないことを口走りながら、宿屋の女将は部屋の外へ駆けていった。
「あっ・・・!ま、待てっ!」
ハッと我に返った騎士達が女将の後を追おうとするも、この場を離れて良いのかわからずに踏みとどまってしまう。
今騎士達がすることは、フローラ達が移動しないように監視すること。かつレウス司教がいる第5支部に伝達に向かうこと。
そしてホットな情報を拡散しようとしている宿屋の女将を阻止することだが、現状二人しかいない騎士達ではどうしても手が回らない。
新聞記者を止めるのは翌日の新聞に記事を載せるまでに上層部にやってもらえば良いので後回しで良いが、しかし現状では何を優先するべきか騎士達は判断しかねた。
考えている間に女将は外へ出てしまい、早速近所の住人に話を広め始めてしまっていた。
矢継ぎ早の展開にそういう場合ではなかったのだが、応援を早めに呼ばなかったことが悔やまれる。
「くっ・・・!」
情報の拡散がなされても、後で上層部がどうにか揉み消せば良いと判断し、騎士達はその場に残ることを決めた。
「シュウ殿、貴方には同情しえる点もあるが、それでも事態はあまりに深刻です。貴方の身柄を拘束しなければなりません。フローラ様についても同様です」
騎士は剣を突きつけ、「抵抗すれば斬る」という意志表示を見せる。新聞記者の前で印象の悪くなる行為であるが、これも後に上層部がどうにかすれば良いと考えていた。今の自分達にできることは、まずはフローラ達の身柄を押さえることだと。
「ふふっ、シュウ様。私達ついに宣言しちゃいましたね?」
フローラはそんな騎士達の様子などどこ吹く風で、悪戯っぽくシュウに笑いかけた。
「私達って、主にしゃべっていたのはフローラではないですか」
シュウは満足に発言などしていない。
フローラがつらつらと妄想を口にしていただけであり、任せてくれと言われるがままにしていたら、想像以上にとんでもない内容が流布されるような流れになってしまった。
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでください。私達の平穏な未来のために必要なことなのですから」
「既に平穏じゃないのですけど」
処女性が求められる聖女と姦通するという教会的には大罪を犯しているものの、フローラの証言(大嘘)をそのまま広めてもらえれば世間的には同情してもらえるかもしれない。だが、教会を敵に回してしまう事実に代わりはなく、特に司教は怒りで追随の手を倍くらいに増やしかねない。
というより、現段階で既に聖騎士に剣を突きつけられて拘束されようとしているのである。フローラに首輪に繋がれ、平穏な未来どころか無理矢理に地獄に向かって突き進んでいるようにしかシュウには見えなかった。
「さぁ、二人ともどうかお召し物を。これから教会まで連行いたしますので」
騎士の一人が言うと、フローラが顔を赤らめながら答える。
「わかりました。これから着替えますから、部屋を出て行ってもらえますか?」
「いえ。我々は壁のほうを向いていますので、着替え終わりましたらお声がけください」
部屋をシュウ達二人きりにしてもし逃亡されては敵わないということで、騎士は出て行くつもりはないようだった。だが、それに対してフローラは譲らない。
「あら、貴方方が聖女の肌を偶然を装って見ようとしないという保証がありますか?私は信用できません。もし言う通りにしていただけないのでしたら、貴方方が無理矢理私に着替えを迫り、私の裸を見ようとしたと教会で証言しますよ?」
フローラの理不尽な物言いに騎士達は青ざめた。
聖女の肌を見たとなると、例え偶然でも厳しく罰せられる。この二人の哀れな聖騎士達ももしフローラが宣言している通りに教会で証言(狂言)されたものなら、シュウと同じく破紋・・・あるいは処刑とてありえない話ではなかった。
「わ、わかりました。我々は出て行きます。終わりましたらお声がけください。ですが、どうかくれぐれも変な気は起こしませんよう・・・」
騎士達はそう言って、新聞記者とともにすごすごと部屋を出て行った。
出る瞬間、フローラと記者がアイコンタクトをしているのをシュウは見て溜め息をつく。
滅茶苦茶な状況だが、これでも一応はフローラの筋書き通りであるらしいことに「一体どんなシナリオになっているんだ」と恐ろしさを感じる。
「さぁ、シュウ様。邪魔者はいなくなりましたし、昨夜の続きをいたしましょう?」
そう言ってキスしようとしてくるフローラをシュウは止め、キスの代わりにデコピンをくらわせる。
「しませんよ。これからどうするつもりなんですか」
「痛いです。ほんの冗談ですのに・・・」
フローラは額を押さえて抗議する。抗議したいのはシュウの方であった。
「既に冗談のような状態になっていますよ。このまま教会へ出向けば、貴方はともかく私は磔ですよ?」
フローラのことについてはどれだけ強引なことをしようとも、まだ情報を操れないこともないだろう。処女ではないので嫁ぎ先は限られるがゼロではない。まだ利用価値はあるのである。
だがシュウは別だ。
シュウからすれば貰い事故に近い状況だが、少なくとも教会は騒動の原因はシュウにあると考え、磔にせねば腹の虫が収まるまいと考えられる。
「宿屋の女将さんと新聞記者によって私達のことを帝都、ひいては帝国中に広めることには成功しそうです。後は最後の仕上げにシュウ様にもひと働きをしていただこうかと」
「・・・ひと働き?」
猛烈に嫌な予感がするのでシュウはその先は聞きたくなかったが、流石にそうもいかない。
渋面するシュウに向かって、フローラは満面の笑顔で計画を話す。
それを聞いたシュウは、唖然としながら
「すみません。意味がわかりません・・・」
と抑揚のない声で答えたのであった。
事情を知らぬ者が聞けば訳の分からないことを口走りながら、宿屋の女将は部屋の外へ駆けていった。
「あっ・・・!ま、待てっ!」
ハッと我に返った騎士達が女将の後を追おうとするも、この場を離れて良いのかわからずに踏みとどまってしまう。
今騎士達がすることは、フローラ達が移動しないように監視すること。かつレウス司教がいる第5支部に伝達に向かうこと。
そしてホットな情報を拡散しようとしている宿屋の女将を阻止することだが、現状二人しかいない騎士達ではどうしても手が回らない。
新聞記者を止めるのは翌日の新聞に記事を載せるまでに上層部にやってもらえば良いので後回しで良いが、しかし現状では何を優先するべきか騎士達は判断しかねた。
考えている間に女将は外へ出てしまい、早速近所の住人に話を広め始めてしまっていた。
矢継ぎ早の展開にそういう場合ではなかったのだが、応援を早めに呼ばなかったことが悔やまれる。
「くっ・・・!」
情報の拡散がなされても、後で上層部がどうにか揉み消せば良いと判断し、騎士達はその場に残ることを決めた。
「シュウ殿、貴方には同情しえる点もあるが、それでも事態はあまりに深刻です。貴方の身柄を拘束しなければなりません。フローラ様についても同様です」
騎士は剣を突きつけ、「抵抗すれば斬る」という意志表示を見せる。新聞記者の前で印象の悪くなる行為であるが、これも後に上層部がどうにかすれば良いと考えていた。今の自分達にできることは、まずはフローラ達の身柄を押さえることだと。
「ふふっ、シュウ様。私達ついに宣言しちゃいましたね?」
フローラはそんな騎士達の様子などどこ吹く風で、悪戯っぽくシュウに笑いかけた。
「私達って、主にしゃべっていたのはフローラではないですか」
シュウは満足に発言などしていない。
フローラがつらつらと妄想を口にしていただけであり、任せてくれと言われるがままにしていたら、想像以上にとんでもない内容が流布されるような流れになってしまった。
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでください。私達の平穏な未来のために必要なことなのですから」
「既に平穏じゃないのですけど」
処女性が求められる聖女と姦通するという教会的には大罪を犯しているものの、フローラの証言(大嘘)をそのまま広めてもらえれば世間的には同情してもらえるかもしれない。だが、教会を敵に回してしまう事実に代わりはなく、特に司教は怒りで追随の手を倍くらいに増やしかねない。
というより、現段階で既に聖騎士に剣を突きつけられて拘束されようとしているのである。フローラに首輪に繋がれ、平穏な未来どころか無理矢理に地獄に向かって突き進んでいるようにしかシュウには見えなかった。
「さぁ、二人ともどうかお召し物を。これから教会まで連行いたしますので」
騎士の一人が言うと、フローラが顔を赤らめながら答える。
「わかりました。これから着替えますから、部屋を出て行ってもらえますか?」
「いえ。我々は壁のほうを向いていますので、着替え終わりましたらお声がけください」
部屋をシュウ達二人きりにしてもし逃亡されては敵わないということで、騎士は出て行くつもりはないようだった。だが、それに対してフローラは譲らない。
「あら、貴方方が聖女の肌を偶然を装って見ようとしないという保証がありますか?私は信用できません。もし言う通りにしていただけないのでしたら、貴方方が無理矢理私に着替えを迫り、私の裸を見ようとしたと教会で証言しますよ?」
フローラの理不尽な物言いに騎士達は青ざめた。
聖女の肌を見たとなると、例え偶然でも厳しく罰せられる。この二人の哀れな聖騎士達ももしフローラが宣言している通りに教会で証言(狂言)されたものなら、シュウと同じく破紋・・・あるいは処刑とてありえない話ではなかった。
「わ、わかりました。我々は出て行きます。終わりましたらお声がけください。ですが、どうかくれぐれも変な気は起こしませんよう・・・」
騎士達はそう言って、新聞記者とともにすごすごと部屋を出て行った。
出る瞬間、フローラと記者がアイコンタクトをしているのをシュウは見て溜め息をつく。
滅茶苦茶な状況だが、これでも一応はフローラの筋書き通りであるらしいことに「一体どんなシナリオになっているんだ」と恐ろしさを感じる。
「さぁ、シュウ様。邪魔者はいなくなりましたし、昨夜の続きをいたしましょう?」
そう言ってキスしようとしてくるフローラをシュウは止め、キスの代わりにデコピンをくらわせる。
「しませんよ。これからどうするつもりなんですか」
「痛いです。ほんの冗談ですのに・・・」
フローラは額を押さえて抗議する。抗議したいのはシュウの方であった。
「既に冗談のような状態になっていますよ。このまま教会へ出向けば、貴方はともかく私は磔ですよ?」
フローラのことについてはどれだけ強引なことをしようとも、まだ情報を操れないこともないだろう。処女ではないので嫁ぎ先は限られるがゼロではない。まだ利用価値はあるのである。
だがシュウは別だ。
シュウからすれば貰い事故に近い状況だが、少なくとも教会は騒動の原因はシュウにあると考え、磔にせねば腹の虫が収まるまいと考えられる。
「宿屋の女将さんと新聞記者によって私達のことを帝都、ひいては帝国中に広めることには成功しそうです。後は最後の仕上げにシュウ様にもひと働きをしていただこうかと」
「・・・ひと働き?」
猛烈に嫌な予感がするのでシュウはその先は聞きたくなかったが、流石にそうもいかない。
渋面するシュウに向かって、フローラは満面の笑顔で計画を話す。
それを聞いたシュウは、唖然としながら
「すみません。意味がわかりません・・・」
と抑揚のない声で答えたのであった。
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