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茶番とスケープゴート

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「ははぁ、それではフローラ様とシュウ様はこれまで人知れず愛を育んできたというわけですね?」


「はい。今日この日までずっと私達の仲のことは誰にも話さないで来ました」


撮影が終わると、記者はインタビューを開始した。
「私に任せてください。シュウ様は話を合わせていただけますか?」とフローラがこっそりと耳打ちしたので、シュウはその通りにしていたが、彼女の口から出てくるのは事実と全く異なる作り話であった。

フローラの話の中では、シュウとフローラは長い間人目を忍んで逢瀬を繰り返していたことになっていた。関係は3年前から続いているということになっているが、そのときはフローラはまだ14歳である。
変なイメージがついたら嫌なんだけどなぁと呆れつつも、既にこの状況となってしまえば、後はどのように転んでもシュウは世間的には普通の人として認識されないので諦めていた。

田舎で大金に物を言わせてスローライフをエンジョイするつもりだったのに、現状どんどんその願いから遠ざかっていることにシュウは心の中で泣いていた。(自業自得ではあるが)
というか、フローラとともにシーツにくるまっているとはいえ、いつまで裸でベッドの上にいれば良いの?・・・とシュウは途方に暮れている。

部屋に飛び込んできた騎士達も部屋の隅でどうしたら良いか困っており、ただただ成り行きを見守っていた。


「これまでずっと隠し通してきたのに、まさか今になってこうしてよりによって新聞記者さんに見つかってしまうなんて、迂闊でしたね(棒読み)。ねぇシュウ様?」


「あ、はい」


フローラが目配せしながらシュウに同意を求めてくるのに対し、シュウは適当に相槌を打った。もう好きにしろといった体である。


「しかしどうしてまた隠れて関係を続けてきたのですか?何か事情があったのですか?」


一応世間的には聖女は自由恋愛を禁止されてはいない。教会のイメージ低下を避けるためにも、政略結婚が強制されているなどというのは最高機密である。
歴代の聖女が高位者と縁を結んできたのはたまたまだ・・・という建前があった。
だが実際のところはわかる人にはわかるし、新聞記者ともなれば裏の事情もある程度は理解しているために、どうしてフローラとシュウが表立って愛しあうことが出来ないのかなどという質問などするまでもない。

だが、それでもこの新聞記者はあえて質問をした。それがフローラとの間に用意された台本であったからだ。


「はい。それが、私のことを政略結婚の駒にしようとする人が教会にいたからなのです。その人は私が聖女になる前から才あるところに目を付け、将来的には自分の利益のために利用しようとしていました。その人にしてみれば、シュウ様は邪魔だったのです。だからシュウ様は私から意図的に遠ざけられていました」


「あらやだぁ!」


いつの間にか普通に話を聞いている女将が大袈裟にリアクションをする。
対して騎士達はサッと顔を青ざめさせた。


「・・・フローラ様・・・それは・・・」


これ以上いけない。
そう言って騎士達はフローラの発言を止めさせたかったが、下手にやれば新聞記者から「検閲ですか?」などと言われかねないので苦慮していた。
騎士達とてフローラの言葉に嘘があることはわかっている。だが、真実も織り交ぜられた嘘である。
聖神教会が総意として権威拡大のために聖女を政略結婚させることで利用しているなどと、決して市井には漏らしてはいけないことであった。だからフローラが言おうとしている『特定の人がそのような企みをした』というのは、教会にしてみればむしろ優しい嘘なのだ。

とはいえ、そんな優しい嘘でも記事になってしまえば教会への衝撃は計り知れない。
騎士の中でも傲慢な者なら強引にでもここで取材を打ち切りさせるのだが、今回現れた騎士達はむしろ弱気なタイプらしくオロオロするばかりである。


「なんと!教会の中に二人の仲を引き裂こうとした人がいたのですか。その・・・差支えなければ、その人は一体誰なのかお教えしてもらうことはできますか?」


記者がほくそ笑みながらの質問をする。


(おい、まさか・・・)


シュウは恐ろしいものを見る目で隣にいるフローラを見た。
フローラは躊躇うような仕草(演技)をしながら、やがてゆっくりと口を開く。


「レウス司教です。彼が私とシュウ様を引き離すために、いろいろと手を回していたのです」


フローラの言葉を聞いたシュウは白目を剥いた。
司教をスケープゴートになんかして、お前・・・もうどうなっても知らんぞと。

哀れ騎士達も同じく白目を剥いて泡を吹いていた。
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