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強い後輩
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娼館の男はフローラから金を受け取ると、しっかりと金額を確認してから納得して頷いた。
聖女にはかなりの俸給が出されると聞いていたが、まさかシュウがため込んだツケを本当に一括で支払えるとは・・・とシュウは驚愕した。
そしてそれだけの金で自分がある種買われたことを改めて実感し、シュウの体に戦慄が走る。
「毎度。シュウさん、また帝都に来たときには是非ともご贔屓に。でもあんまり彼女さんを泣かせちゃダメだよ?」
娼館の男の言葉に「来てほしいのかどっちなんだよ」とシュウは言いたかったが、それより早くフローラが言った。
「シュウ様には私がついていますから、残念ですがもうお世話になることはありません」
胸を張って笑顔でそう言うフローラに、周囲のギャラリーから冷やかしの声が飛ぶ。
「あっはっは。シュウさんみたいにフラフラした男は、これくらいのお嬢さんの方が丁度いいと思うよ?」
女将がシュウの肩をバンバンと叩きながら笑って言った。
シュウはといえば一体自分の身に何が起きているのか、まだ把握しきれないでいてどこかぼーっとしていた。
(まさかあのフローラが、こんなに強かになるなんて・・・)
フローラは入会当初から先輩達に目をつけられていた。
平民の貧困層の出自だという噂、おどおどした性格、そして幼い頃から既に抜きんでた容姿のために同性の妬みを買って、など理由は様々だった。
シュウはそんなフローラにかつての自分を重ね、ついつい気にかけてきたが、まさかそれがここまで懐かれることになるとは・・・と衝撃を受けている。それもこんな強引な手法を使ってまでとはと。
教会では先輩連中の虐めのみだけでなく、あらゆる悪意と戦うことになる。だから強くあれとシュウはフローラに説いてきたが、それにしてもここまで強くなるとは感無量なのか恐ろしいのか・・・
聖女を辞めることにより、今後様々な問題が起こりえるはずだ。だが、それに関してフローラが「問題ない」と断言している以上、本当にそうなのではないかという謎の頼もしさをシュウは感じていた。
「さぁシュウ様。夜の遅くなりましたし、今日のところはそろそろ宿の方へ行きましょう」
フローラにくいっと腕を引かれて、シュウはここでハッと我に返る。
シュウははぁとため息をついてから、フローラに対してしっかりと頷いて答えた。
「わかりましたよ」
と。
既に賽は投げられてしまった。もうどうにでもなれとシュウは割り切っていた。
シュウは床に置かれたフローラの大きい荷物を手に取ると、それを背負う。
「あ・・・ありがとうございます」
フローラが申し訳なさそうに頭を下げて礼を言うが、シュウはあることを考えていた。
「・・・」
鍛えているシュウからしても、少し重いなと思う荷物だった。体の細いフローラからすれば、下手すれば歩くことに支障をきたすくらい重く感じるものだろう。
フローラが自分の今の地位を捨てて、こんな重い荷物を背負ってまで安寧の場を飛び出して、それでもシュウについてきたいと思ったその覚悟とはどれだけのものなのだろう?とシュウは考えた。
「あ・・・」
ここで唐突にシュウが一つ思い出した。
「どうされました?シュウ様」
「いや、酔っているときに私は博打を打ちに行くこともあるんですが、そこでも賭場で借金を作っていなかったかなって・・・」
酒場、娼館で既にツケをため込んで痛い目にあったシュウは、その可能性を今更ながらに警戒した。
酔った勢いで何をしでかすかなどについては、シュウは自分で自分のことが信用できないでいる有様だ。
だが、そんな心配するシュウに対し、フローラは笑いながら言った。
「一応調べてみましたが、そちらは大丈夫でしたよ」
「えっ」
調べてみた・・・?え、いつの間に?どうして?
シュウの頭に疑問が沸いてくるが
「さぁ、行きましょう」
何だか先を急ぐフローラに手を引かれ、何となく雰囲気的にその疑問について問うことは出来なかった。
あるいは想像以上に、フローラは重い女なのかもしれない・・・そんな考えが頭をよぎったが、既にそんなフローラに絡め捕られている今となってはどうにもならない。
やがてシュウは考えることをやめた。
聖女にはかなりの俸給が出されると聞いていたが、まさかシュウがため込んだツケを本当に一括で支払えるとは・・・とシュウは驚愕した。
そしてそれだけの金で自分がある種買われたことを改めて実感し、シュウの体に戦慄が走る。
「毎度。シュウさん、また帝都に来たときには是非ともご贔屓に。でもあんまり彼女さんを泣かせちゃダメだよ?」
娼館の男の言葉に「来てほしいのかどっちなんだよ」とシュウは言いたかったが、それより早くフローラが言った。
「シュウ様には私がついていますから、残念ですがもうお世話になることはありません」
胸を張って笑顔でそう言うフローラに、周囲のギャラリーから冷やかしの声が飛ぶ。
「あっはっは。シュウさんみたいにフラフラした男は、これくらいのお嬢さんの方が丁度いいと思うよ?」
女将がシュウの肩をバンバンと叩きながら笑って言った。
シュウはといえば一体自分の身に何が起きているのか、まだ把握しきれないでいてどこかぼーっとしていた。
(まさかあのフローラが、こんなに強かになるなんて・・・)
フローラは入会当初から先輩達に目をつけられていた。
平民の貧困層の出自だという噂、おどおどした性格、そして幼い頃から既に抜きんでた容姿のために同性の妬みを買って、など理由は様々だった。
シュウはそんなフローラにかつての自分を重ね、ついつい気にかけてきたが、まさかそれがここまで懐かれることになるとは・・・と衝撃を受けている。それもこんな強引な手法を使ってまでとはと。
教会では先輩連中の虐めのみだけでなく、あらゆる悪意と戦うことになる。だから強くあれとシュウはフローラに説いてきたが、それにしてもここまで強くなるとは感無量なのか恐ろしいのか・・・
聖女を辞めることにより、今後様々な問題が起こりえるはずだ。だが、それに関してフローラが「問題ない」と断言している以上、本当にそうなのではないかという謎の頼もしさをシュウは感じていた。
「さぁシュウ様。夜の遅くなりましたし、今日のところはそろそろ宿の方へ行きましょう」
フローラにくいっと腕を引かれて、シュウはここでハッと我に返る。
シュウははぁとため息をついてから、フローラに対してしっかりと頷いて答えた。
「わかりましたよ」
と。
既に賽は投げられてしまった。もうどうにでもなれとシュウは割り切っていた。
シュウは床に置かれたフローラの大きい荷物を手に取ると、それを背負う。
「あ・・・ありがとうございます」
フローラが申し訳なさそうに頭を下げて礼を言うが、シュウはあることを考えていた。
「・・・」
鍛えているシュウからしても、少し重いなと思う荷物だった。体の細いフローラからすれば、下手すれば歩くことに支障をきたすくらい重く感じるものだろう。
フローラが自分の今の地位を捨てて、こんな重い荷物を背負ってまで安寧の場を飛び出して、それでもシュウについてきたいと思ったその覚悟とはどれだけのものなのだろう?とシュウは考えた。
「あ・・・」
ここで唐突にシュウが一つ思い出した。
「どうされました?シュウ様」
「いや、酔っているときに私は博打を打ちに行くこともあるんですが、そこでも賭場で借金を作っていなかったかなって・・・」
酒場、娼館で既にツケをため込んで痛い目にあったシュウは、その可能性を今更ながらに警戒した。
酔った勢いで何をしでかすかなどについては、シュウは自分で自分のことが信用できないでいる有様だ。
だが、そんな心配するシュウに対し、フローラは笑いながら言った。
「一応調べてみましたが、そちらは大丈夫でしたよ」
「えっ」
調べてみた・・・?え、いつの間に?どうして?
シュウの頭に疑問が沸いてくるが
「さぁ、行きましょう」
何だか先を急ぐフローラに手を引かれ、何となく雰囲気的にその疑問について問うことは出来なかった。
あるいは想像以上に、フローラは重い女なのかもしれない・・・そんな考えが頭をよぎったが、既にそんなフローラに絡め捕られている今となってはどうにもならない。
やがてシュウは考えることをやめた。
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