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怖い取り立て

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これで良いのだ・・・

若干もやついたものを感じながらも、シュウは自分が正しい判断をしたと思った。
自分の地位を捨ててまでついていく・・・一時的な感情であれ、そこまで考えてくれた可愛い後輩に対して嬉しい気持ちはあったが、それを受け止めるだけの力はシュウには無かった。

シュウもフローラの間に沈黙が続いた。周囲も固唾を飲んでやり取りを見守っている。
そんな空気を打ち破ったのは、一人の男だった。


「やぁ、シュウさん」


シュウの肩を後ろからポンと叩いたのは、シュウの見知った男だった。


「あ、ああっ・・・貴方は・・・」


シュウは振り返って驚く。彼はシュウが通っていた娼館の店長だったのだ。
娼館以外で会うことはなかったので、思わずシュウは驚いてしまった。


「聞いたよ。帝都を離れることになるそうだね」


一体どういったネットワークが働いているのか。シュウが帝都を出て行くという話が、酒場だけでなく娼館にまで伝わっていることに流石にシュウは唖然とした。


「寂しくなるね。とても懇意にしてもらったのに、うちの子も皆寂しがるよ」


「そ、そうですか?あはは・・・」


人前・・・それも自分を慕ってくれているとわかっている女の子の前で娼館の話はしづらいものがある。
どうにか娼館の人とはわからないうちに話を切り上げねば・・・そのようなことを考えているシュウを、次の娼館の男の言葉が打ち付けた。


「それじゃあ、ツケの方を清算してもらおうかな?」


「えっ・・・」


シュウは固まった。
あれ?過去の自分はまさか娼館にまでツケをため込んでいたのかと。


(あ~、深酒したときに行ったときも何回かあったから、そのときかな・・・)


何となく心当たりがあったことにシュウは気づく。バカバカ、過去の自分の馬鹿!とシュウは過去の自分をまたも呪った。


「本来ならツケなんてやらないんだけね。まぁ、シュウさんは太い客だったから。感謝してよ~ お貴族様だってこんなこと滅多にやらないんだよ?まぁ、神官様ならバックれるなんてことしないから、ってのもあるんだけどさ」


呆然とするシュウを他所に、娼館の男はいそいそと請求書をシュウに差し出した。


「!!!!!!??????」


請求書にあった金額を見て、シュウは腰を抜かしそうになった。
そこには今のシュウが持っている財産を出し切ってもなお、足りないだけの額が書かれてあったからだ。


「数年分だからねぇ。まぁ、それなりの額にはなるよね?そりゃあさ」


ニコニコと笑みを浮かべながら言う娼館の男とは対照的に、シュウは顔を真っ青にして冷や汗を流し、がくがくと震えていた。


(ま、まずい・・・!払えないぞこれ!?)


ちょっと足りないくらいならまだどうとでもなる。
だが、足りない金はとうていすぐには払えないような額だったのだ。


「シュウさん酔っていたからねぇ。高いオプションとかもバンバンつけてたし、物足りないからって他の子も呼んだりで本当乱痴気騒ぎで・・・って、あぁ懐かしいわ。こっちもよく儲けさせてもらったよ」


娼館の男が赤裸々に語るが、「商売なんだから客のそんなプライベートなこと他人がいるところでペラペラ話しちゃだめだろ!」と言うところを、シュウはあまりのショックにそれどころではなかった。


「あ、あの・・・これ、分割払いとかというのは、可能なのでしょうか?」


シュウは恐る恐る問う。


「ん、本来ならまぁ受け付けるんだけど、シュウさんはもう神官辞めちゃったんだよね?だとすると今は収入のアテがないわけだ。それなら即金じゃないといけないなぁ」


「ああ・・・」


まずい。完全に支払う手がない。あまりに絶望的な状況にシュウは愕然とする。
今や鉱山奴隷など、借金を返済するための強制労働を数年はやらなくてはいけなくなる状況であった。

というか、むしろよくそこまで記憶に残らない状況で借金するほど娼館に通ったな自分!とシュウは自分で自分に呆れかえってしまう。


「もしかしてシュウさん、手持ちがない?」


「あるわけないじゃないですか・・・」


シュウは顔を両手で覆って絞り出すような声で言った。ちょっとした財産分はあろう請求額だ。今のシュウには払えるものではなかった。


「そう。それなら、残念だけど債権奴隷として働いてもらうしかないね」


それまで笑顔を浮かべていた娼館の男の顔から表情が消え、淡々とした言葉遣いになる。


「心苦しいところはあるが、こちらも商売なので。シュウさんの身柄は今日このときをもってこちらのものになる。債権奴隷として鉱山に行けば、まぁ数年で帰ってこられるだろう」


鉱山奴隷は過酷な仕事だ。
数年で借金を完済できる代わりに、生涯治らぬほど体を痛めたり、心を病むことが多いとされている。
名うての冒険者が賭博と女で借金を作り、債券奴隷として3年鉱山に行っただけで、もう二度と冒険者として活躍できないほどの廃人になったという話もシュウは聞いたことがあった。

自業自得とはいえ、それだけは嫌だとシュウはどうにか切り抜けられないか考えた。が、当然ながら思いつかない。
娼館の男はシュウのように支払いのできなくなった男を追い詰めるのは初めてではないのか、あくまで事務的だった。それがまたシュウに恐怖を感じさせる。


「ただ、シュウさんにはこれまでずっと懇意にしてもらったからね。こちらとしてはもう一つの選択肢を用意させてもらった」


「えっ?」


鉱山奴隷以外の道が用意されている--
その事実にシュウは光明を見た気がしたが・・・


「男色の好きもの貴族(♂)の愛人になるという道がある。丁度シュウさんのような男が一人欲しいって声がかかっているんだ。これなら一年で完済可能だし、なんなら契約を延長すればその後も十分な収入が得られるよ。契約中だって食事は良いものを出してもらえるし、酒だって飲める。ただまぁ、契約が切れる頃にはいろいろかもしれないけど。いろいろちゃって、もう普通ではいられないんだとさ」


娼館の男の言ったそれは光明などではなかった。


「さぁ、どっちが良い?」


問われ、シュウは体を震わせた。どちらを選んでも地獄である。
答えに窮していたそのとき、シュウに対して助けが入った。


「シュウ様。よろしければそのお金、私が立て替えましょうか?」


と。
まるで狙いすましたかのようなタイミングであった。
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