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可愛い後輩の告白
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「やっぱりジゴロだよ」
フローラの発言を少し離れて聞いていた女将は、溜め息をつきながら呟くが、興味深そうに成り行きを見守っている。
周囲にいるシュウを知る他の客も、無関心を装いながら聞き耳を立てていた。
「あー・・・ええっと・・・まずは座りましょう」
一体何が起きているのか理解の追い付かないシュウは頭をぽりぽりかきながら、とりあえず落ち着いて話をしようと考え、フローラに着席を促した。
ドスン
フローラが背負っていたバッグを床に置くと、中身には確かにそこそこの重量のものが詰まっていることがわかる音がした。
少なくとも「荷物を引き払って来た」が冗談ではないことだけは何となく理解出来てしまい、シュウは頭を抱えたくなった。
「その、もう一度お聞きしたいのですが、貴方は先ほど私について来るとおっしゃいましたか?」
「はい!」
聞き間違えだったら・・・と思いながら発したシュウの質問に対し、フローラは非情にも即座に肯定した。
(はて、おかしいな・・・どうしてこんなことに)
シュウは白目を剥いて意識を失いそうになる。
可愛い後輩が、人目を忍んで以前一緒に来ていた酒場に最後に別れにやってくる・・・
ちょっと昔を思い出しながら、最後に先輩としてご馳走してかっこつけてやって、今後のフローラの健勝を祈って解散。
そんな綺麗なお別れをするつもりでシュウはいたのだが、現実は考えていたそれとは大きく逸れて明後日の方向にすら向かおうとしていた。
「言いたいことが山ほどありますが・・・まず、貴方は聖女なのですよ?簡単に辞めて良いものではないでしょうし、承認されるはずもない」
シュウの正論を、フローラはただ微笑みながら聞いている。
「退職願を出して来たと言っても、それが承認されなければ貴方は誰がなんと言おうと聖女なのです」
「ええ。それは存じております。・・・あっ、女将さん、私にもビールをお願いします」
真顔でいるシュウに対し、フローラは緊張感に欠ける様子でビールを注文した。
シュウが言うように聖女であるフローラは簡単に聖女の座から降りることはできない。手続き、役員達の承認、そして後任の選定から関係各所への根回しから何までで、どれだけスムーズに事が運んでも半年は期間が必要である。普通なら丸一年は必要だ。
「嫌なのでやーめた」と言ってすぐに平民に下ることなど物理的に不可能なのだ。
「わかっているのなら、どうして・・・あっ・・・もしかして冗談なのですか?」
大きな荷物を持ってきたので最初に言ったことは冗談ではないと思っていたが、もしかしたら聖女を辞めたことは冗談であって、荷物はもしかしたら別の意図があってのものか?とシュウは考えた。
「いえ、聖女を辞めるのも、シュウ様に私がついて行きたいのも、どちらも本当のことです。私はそんな冗談言いません」
しかし、そんなシュウの願望にも似た考えはすぐに打ち砕かれる。
(確かに趣味の悪い冗談を言うような子ではなかったが、だとするとこの状況は一体なんだと言うのか・・・)
シュウの背筋を冷たいものが流れた・・・そんな気がした。
このままここにいたくない。すぐにでも逃げ出したい・・・だが、次に発せられたフローラの言葉が、否が応でもシュウを逃がさぬよう楔を打ってしまう。
「シュウ様。私はシュウ様をお慕い申しております。シュウ様が『光の戦士達』ではなくなり、帝都からも離れるというのであれば、私にはもう聖女である理由がありません。帝都にいる意味もありません」
「まぁ」とビールを運んできた女将が感嘆の声を上げる。
周囲にいたギャラリーも口々にシュウを冷やかした。
シュウは頭の中が真っ白になり、口を半開きにしたまま固まってしまった。
フローラの発言を少し離れて聞いていた女将は、溜め息をつきながら呟くが、興味深そうに成り行きを見守っている。
周囲にいるシュウを知る他の客も、無関心を装いながら聞き耳を立てていた。
「あー・・・ええっと・・・まずは座りましょう」
一体何が起きているのか理解の追い付かないシュウは頭をぽりぽりかきながら、とりあえず落ち着いて話をしようと考え、フローラに着席を促した。
ドスン
フローラが背負っていたバッグを床に置くと、中身には確かにそこそこの重量のものが詰まっていることがわかる音がした。
少なくとも「荷物を引き払って来た」が冗談ではないことだけは何となく理解出来てしまい、シュウは頭を抱えたくなった。
「その、もう一度お聞きしたいのですが、貴方は先ほど私について来るとおっしゃいましたか?」
「はい!」
聞き間違えだったら・・・と思いながら発したシュウの質問に対し、フローラは非情にも即座に肯定した。
(はて、おかしいな・・・どうしてこんなことに)
シュウは白目を剥いて意識を失いそうになる。
可愛い後輩が、人目を忍んで以前一緒に来ていた酒場に最後に別れにやってくる・・・
ちょっと昔を思い出しながら、最後に先輩としてご馳走してかっこつけてやって、今後のフローラの健勝を祈って解散。
そんな綺麗なお別れをするつもりでシュウはいたのだが、現実は考えていたそれとは大きく逸れて明後日の方向にすら向かおうとしていた。
「言いたいことが山ほどありますが・・・まず、貴方は聖女なのですよ?簡単に辞めて良いものではないでしょうし、承認されるはずもない」
シュウの正論を、フローラはただ微笑みながら聞いている。
「退職願を出して来たと言っても、それが承認されなければ貴方は誰がなんと言おうと聖女なのです」
「ええ。それは存じております。・・・あっ、女将さん、私にもビールをお願いします」
真顔でいるシュウに対し、フローラは緊張感に欠ける様子でビールを注文した。
シュウが言うように聖女であるフローラは簡単に聖女の座から降りることはできない。手続き、役員達の承認、そして後任の選定から関係各所への根回しから何までで、どれだけスムーズに事が運んでも半年は期間が必要である。普通なら丸一年は必要だ。
「嫌なのでやーめた」と言ってすぐに平民に下ることなど物理的に不可能なのだ。
「わかっているのなら、どうして・・・あっ・・・もしかして冗談なのですか?」
大きな荷物を持ってきたので最初に言ったことは冗談ではないと思っていたが、もしかしたら聖女を辞めたことは冗談であって、荷物はもしかしたら別の意図があってのものか?とシュウは考えた。
「いえ、聖女を辞めるのも、シュウ様に私がついて行きたいのも、どちらも本当のことです。私はそんな冗談言いません」
しかし、そんなシュウの願望にも似た考えはすぐに打ち砕かれる。
(確かに趣味の悪い冗談を言うような子ではなかったが、だとするとこの状況は一体なんだと言うのか・・・)
シュウの背筋を冷たいものが流れた・・・そんな気がした。
このままここにいたくない。すぐにでも逃げ出したい・・・だが、次に発せられたフローラの言葉が、否が応でもシュウを逃がさぬよう楔を打ってしまう。
「シュウ様。私はシュウ様をお慕い申しております。シュウ様が『光の戦士達』ではなくなり、帝都からも離れるというのであれば、私にはもう聖女である理由がありません。帝都にいる意味もありません」
「まぁ」とビールを運んできた女将が感嘆の声を上げる。
周囲にいたギャラリーも口々にシュウを冷やかした。
シュウは頭の中が真っ白になり、口を半開きにしたまま固まってしまった。
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