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自由だ
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「やれやれ、なんだかんだでときたま見せる強引なところとか、本当に変わりませんねフローラは」
シュウは先ほど別れたフローラのことを考え、フッと思い出し笑いをした。
強引に約束を取り付けられてしまったが、それでもシュウは悪い気はしなかった。今日は勇者パーティー『光の戦士達』と聖神教会を立て続けに追放されてしまったが、ここに来て初めて自分の追放を悲しんでくれる人間がいたことに嬉しさを感じていたのだ。
路頭に迷って絶望していた今のシュウには、フローラのそんな優しさが温かく、そして有難く思えた。それだけで少し前向きな気持ちになれる。
(とはいえ・・・)
現実としてこれからどうするか。シュウはまだ何も思い浮かばない。
というか、まず自分の寝床を考えなければいけないのだ。帝都にある『光の戦士達』の拠点も、教会の詰所も使うことは出来ない。
(仕方がない。まずは宿を取って、それから考えるか。幸いお金ならたくさんもらったし・・・)
そこでシュウは初めて自分が渡された金について冷静に考えることになった。
これまでは追放のショックでしっかりと金額を確かめられるメンタルではなかったが、少し落ち着いた今はそうではない。
シュウは手頃な宿を見つけ、部屋を取ってから自分の所持金を数えることにした。
----------
「なっ・・・まさかこれほどとは・・・」
宿の部屋で、シュウは一人金勘定を終えてから驚愕した。
聖職者でありながら、宵越しの銭を持ちたがらない性格であるシュウだったが、勇者パーティー在籍時代に知らぬうちにちょこちょこ溜まっていた銀行の金があった。聖神教からの俸給である。
それに今日貰った手切れ金などを合わせると、なんと物価の安い地域でそれなりに慎ましく暮らせば、働かなくても良いだけの金を持っていることに気が付いたのだ。
「な、なんてことだ・・・いや、まさかこんなことになるとは・・・」
路頭に迷ったと絶望したと思ってからのこれである。まさか生涯食っていけるだろうだけの金を貰っていたとは思っていなかった。司教なんかは勢いで金を渡していたし、もしかしたらきちんと金額確認しないで渡したりとかあったのかなとシュウは考えた。
「神官の職は下ろされたが、生活するだけの金はある・・・ん?あれ、そもそも神官である必要なんてあったのか?」
シュウは自問自答しながら考える。
---
シュウは帝国ではなく、隣国のそこそこ栄えていた町で生を受けた。
貧しい家に生まれたシュウは喧嘩にあけくれる悪ガキに育ったが、彼が10歳のときに金に困った両親によって口減らしのために孤児院に押し付けられてしまう。
その孤児院の運営元であるのが、後にシュウが神官を務めることになる聖神ラクロスウェル教会であった。
「まぁこれはこれでいいや」
いい感じに前向きなシュウは、元より身の丈に合わぬほど酒と博打に狂っている両親との生活に嫌気がさしていたために、孤児院の生活は決して悪いものではないと思ったが、ここでシュウには回復魔法の使い手としての素質があるということを教会に見抜かれたことで、孤児院ではなく教会で奉公しなければならなくなった。弱きを助け、尽くすというのが教えである聖神教会は聖魔法、回復魔法などの使い手を人材として求めているからである。
面倒ではあるが、世界的に有名な聖神教会の一員になるというのであれば、それなりに待遇も良くなるだろうと思っていたシュウを待っていたのは、地獄のような生活だった。
「シュウ、俺の代わりの掃除しとけ」
「俺の代わりに懺悔の間に行ってこい」
「5分でパン買って来い」
「ようシュウ。丁度良かった、むしゃくしゃしてたんだ。一発殴らせろ」
教会では世間的には慎ましく心の清い者が務めているように見えるが、その実情は強烈な縦社会であり、特にシュウがいた支部は輪をかけて風紀の乱れているところであると有名であった。
シュウは悪魔のような先輩達からいびりにいびられるが、教会の上層部の連中は見て見ぬふり。それがそこの支部の日常だったからだ。
お陰でシュウは神官でこそあったものの、敬虔とは言い難い教徒に成長した。口では信仰を唱えながらも、聖神ラクロスウェルの加護など全く信じなかった。そんなものがあれば教徒である自分は酷い目に遭ってはいないし、そもそも悪魔のような先輩連中が信仰する神など、存在したとしても邪神ではないか?--とそう考えるようになったのである。
そして悪い先輩を見てそうなったのか、それとも元々の資質なのか、聖職者でありながらこっそりと目立たぬように飲む、打つ、買うの三拍子を揃えていた。それと喧嘩もそれなりにやった。ある程度成長して体格が良くなってくると、理不尽ないびりをしてくる先輩に対して容赦なく喧嘩をふっかけるようになる。
シュウは聖職者であるのに、環境が悪かったために結局のところ悪ガキに毛の生えた程度のまま育つことになる。
しかし信仰心が無いとはいえ、シュウは食っていくのに都合が良いからという理由もあって、聖職者であることをやめようとはしなかった。
食うためなので世間体のために言葉遣いだけは昔から丁寧になるよう心掛けていた・・・そんなシュウに多くの者が騙され、元から細目で笑みをたたえているように見える顔のせいか、周りからはなるべくして聖職者になった善人と思われている。
が、思考は荒くれ冒険者と実のところあまり変わらない。
シュウは聖職者の仮面をかぶりながらも、人の目のないところでは人並みに欲を満たす俗物だった。なんてことはない、司教レウスと大差はないのである。
それでもいろいろとあってシュウはまずまずの出世をし、教会本部のある帝国に栄転してきたが、そこで司教レウスに目をつけられて、勇者ライルとのパイプ役兼レーナのお目付け役となった。
それがこれまでのシュウの経歴だった。
----------
「そうか・・・そうだよ」
シュウは思い出した。
金を手に入れた以上は、自分は別に聖職者であることに拘る必要なんて無いのだと。
むしろやることなすことに制限が出てくる聖職者なんてまっぴらごめんだった。(結構こっそりとはいえ好きにやってきたけど)
しかも、体にあればそれだけで聖神教会に身を縛られる『聖紋』は円満?に体から消されている。
もう自分は何者でもないのだ。
「そうだ・・・私は・・・自由だーっ!!」
シュウは爆上げしたテンションのまま、拳を完全勝利した者のように天に突き立てて叫んでいた。
シュウは先ほど別れたフローラのことを考え、フッと思い出し笑いをした。
強引に約束を取り付けられてしまったが、それでもシュウは悪い気はしなかった。今日は勇者パーティー『光の戦士達』と聖神教会を立て続けに追放されてしまったが、ここに来て初めて自分の追放を悲しんでくれる人間がいたことに嬉しさを感じていたのだ。
路頭に迷って絶望していた今のシュウには、フローラのそんな優しさが温かく、そして有難く思えた。それだけで少し前向きな気持ちになれる。
(とはいえ・・・)
現実としてこれからどうするか。シュウはまだ何も思い浮かばない。
というか、まず自分の寝床を考えなければいけないのだ。帝都にある『光の戦士達』の拠点も、教会の詰所も使うことは出来ない。
(仕方がない。まずは宿を取って、それから考えるか。幸いお金ならたくさんもらったし・・・)
そこでシュウは初めて自分が渡された金について冷静に考えることになった。
これまでは追放のショックでしっかりと金額を確かめられるメンタルではなかったが、少し落ち着いた今はそうではない。
シュウは手頃な宿を見つけ、部屋を取ってから自分の所持金を数えることにした。
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「なっ・・・まさかこれほどとは・・・」
宿の部屋で、シュウは一人金勘定を終えてから驚愕した。
聖職者でありながら、宵越しの銭を持ちたがらない性格であるシュウだったが、勇者パーティー在籍時代に知らぬうちにちょこちょこ溜まっていた銀行の金があった。聖神教からの俸給である。
それに今日貰った手切れ金などを合わせると、なんと物価の安い地域でそれなりに慎ましく暮らせば、働かなくても良いだけの金を持っていることに気が付いたのだ。
「な、なんてことだ・・・いや、まさかこんなことになるとは・・・」
路頭に迷ったと絶望したと思ってからのこれである。まさか生涯食っていけるだろうだけの金を貰っていたとは思っていなかった。司教なんかは勢いで金を渡していたし、もしかしたらきちんと金額確認しないで渡したりとかあったのかなとシュウは考えた。
「神官の職は下ろされたが、生活するだけの金はある・・・ん?あれ、そもそも神官である必要なんてあったのか?」
シュウは自問自答しながら考える。
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シュウは帝国ではなく、隣国のそこそこ栄えていた町で生を受けた。
貧しい家に生まれたシュウは喧嘩にあけくれる悪ガキに育ったが、彼が10歳のときに金に困った両親によって口減らしのために孤児院に押し付けられてしまう。
その孤児院の運営元であるのが、後にシュウが神官を務めることになる聖神ラクロスウェル教会であった。
「まぁこれはこれでいいや」
いい感じに前向きなシュウは、元より身の丈に合わぬほど酒と博打に狂っている両親との生活に嫌気がさしていたために、孤児院の生活は決して悪いものではないと思ったが、ここでシュウには回復魔法の使い手としての素質があるということを教会に見抜かれたことで、孤児院ではなく教会で奉公しなければならなくなった。弱きを助け、尽くすというのが教えである聖神教会は聖魔法、回復魔法などの使い手を人材として求めているからである。
面倒ではあるが、世界的に有名な聖神教会の一員になるというのであれば、それなりに待遇も良くなるだろうと思っていたシュウを待っていたのは、地獄のような生活だった。
「シュウ、俺の代わりの掃除しとけ」
「俺の代わりに懺悔の間に行ってこい」
「5分でパン買って来い」
「ようシュウ。丁度良かった、むしゃくしゃしてたんだ。一発殴らせろ」
教会では世間的には慎ましく心の清い者が務めているように見えるが、その実情は強烈な縦社会であり、特にシュウがいた支部は輪をかけて風紀の乱れているところであると有名であった。
シュウは悪魔のような先輩達からいびりにいびられるが、教会の上層部の連中は見て見ぬふり。それがそこの支部の日常だったからだ。
お陰でシュウは神官でこそあったものの、敬虔とは言い難い教徒に成長した。口では信仰を唱えながらも、聖神ラクロスウェルの加護など全く信じなかった。そんなものがあれば教徒である自分は酷い目に遭ってはいないし、そもそも悪魔のような先輩連中が信仰する神など、存在したとしても邪神ではないか?--とそう考えるようになったのである。
そして悪い先輩を見てそうなったのか、それとも元々の資質なのか、聖職者でありながらこっそりと目立たぬように飲む、打つ、買うの三拍子を揃えていた。それと喧嘩もそれなりにやった。ある程度成長して体格が良くなってくると、理不尽ないびりをしてくる先輩に対して容赦なく喧嘩をふっかけるようになる。
シュウは聖職者であるのに、環境が悪かったために結局のところ悪ガキに毛の生えた程度のまま育つことになる。
しかし信仰心が無いとはいえ、シュウは食っていくのに都合が良いからという理由もあって、聖職者であることをやめようとはしなかった。
食うためなので世間体のために言葉遣いだけは昔から丁寧になるよう心掛けていた・・・そんなシュウに多くの者が騙され、元から細目で笑みをたたえているように見える顔のせいか、周りからはなるべくして聖職者になった善人と思われている。
が、思考は荒くれ冒険者と実のところあまり変わらない。
シュウは聖職者の仮面をかぶりながらも、人の目のないところでは人並みに欲を満たす俗物だった。なんてことはない、司教レウスと大差はないのである。
それでもいろいろとあってシュウはまずまずの出世をし、教会本部のある帝国に栄転してきたが、そこで司教レウスに目をつけられて、勇者ライルとのパイプ役兼レーナのお目付け役となった。
それがこれまでのシュウの経歴だった。
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「そうか・・・そうだよ」
シュウは思い出した。
金を手に入れた以上は、自分は別に聖職者であることに拘る必要なんて無いのだと。
むしろやることなすことに制限が出てくる聖職者なんてまっぴらごめんだった。(結構こっそりとはいえ好きにやってきたけど)
しかも、体にあればそれだけで聖神教会に身を縛られる『聖紋』は円満?に体から消されている。
もう自分は何者でもないのだ。
「そうだ・・・私は・・・自由だーっ!!」
シュウは爆上げしたテンションのまま、拳を完全勝利した者のように天に突き立てて叫んでいた。
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