48 / 54
勇者ゼルス その3
しおりを挟む
「そして勇者ゼルスは北方の関所に陣取っていたアイスドラゴンの討伐に向かった」
シンとレイは並んで街道を歩いていた。
あまり人気がなく、整備を行き届いていない寂れた街道だ。
「北方のアイスドラゴン・・・かつてこの近辺にある北方の関所に突如現れ、行商人達の妨げになっていた邪竜でしたね」
レイが記憶を探り、思い出しながら言った。
「そうだ。そのアイスドラゴンを倒せば、ゼルスはここら一帯の絶対的な英雄になれる。そう考えていたんだろう。アイスドラゴンによる経済的損失は大きかったからね」
当時アイスドラゴンによる地域の経済的損失は大きかったが、国全体で見るとそこまでの被害ではなかった。
その当時は他にも魔物による被害の大きい地域があり、アイスドラゴンが強力であることもあってすぐには解決できない問題であると判断され、対処は後回しにされ国から勇者も騎士団も派遣されることがなかったのである。
そこにゼルス一人が討伐に名乗りを上げた。
「当時のゼルスの実力ではアイスドラゴンを倒せるかどうかはかなりの博打だったと報告がされている。実際、ゼルス自身も危険であることは十分に理解した上で臨んだようだ。借金をし、強力な武具に身を固め、回復アイテムも上質なものを数多く揃えた。ギルドで仲間を見つけようとしたが、アイスドラゴンを相手にすると知って誰も見つけることが出来なかったらしい」
このときたまたまゼルスを監視していた王調の調査員が当時の彼のことを細かに記録していた。
「仲間がいないけど、ゼルスは行ったと?」
「そうだ。行った。それだけゼルスは焦っていたのだろう。エイミーを取られないために、彼女に相応しい男であるために、破れかぶれでゼルスはアイスドラゴンのいる北の関所に挑んだ」
「そして打ち勝った・・・?」
「そうだ。だが、アイスドラゴンとの戦いで負った傷が深く、すぐにはゼルスは動けなかった。ようやく満足に動けるようになったのは一年後だ」
シンはパラリと手元の資料に目を移す。
「治療に一年かかったが、そもそもが生きているのが奇跡というくらいの大怪我だったらしい。だが彼は生き返り、体を治している。想いの力というやつだろう」
「愛の力・・・と言って良いのかどうか・・・」
微妙な顔をして首を傾げるレイを見て、シンも頷く。
「ま、素直に愛の力と呼びづらいのは俺も同意だ」
そして二人は足を止める。
二人の前には少し薄汚れてはいるが、まだしっかり使えそうな屋敷が建っていた。
「ここが勇者ゼルスが今拠点としている屋敷・・・ですか」
庭の草木は手入れのされている様子はない、邸の入口までの道以外は荒れ放題であった。
「さぁ、行くぞ」
シンはそう言って屋敷の入口の扉を叩いた。
シンとレイは並んで街道を歩いていた。
あまり人気がなく、整備を行き届いていない寂れた街道だ。
「北方のアイスドラゴン・・・かつてこの近辺にある北方の関所に突如現れ、行商人達の妨げになっていた邪竜でしたね」
レイが記憶を探り、思い出しながら言った。
「そうだ。そのアイスドラゴンを倒せば、ゼルスはここら一帯の絶対的な英雄になれる。そう考えていたんだろう。アイスドラゴンによる経済的損失は大きかったからね」
当時アイスドラゴンによる地域の経済的損失は大きかったが、国全体で見るとそこまでの被害ではなかった。
その当時は他にも魔物による被害の大きい地域があり、アイスドラゴンが強力であることもあってすぐには解決できない問題であると判断され、対処は後回しにされ国から勇者も騎士団も派遣されることがなかったのである。
そこにゼルス一人が討伐に名乗りを上げた。
「当時のゼルスの実力ではアイスドラゴンを倒せるかどうかはかなりの博打だったと報告がされている。実際、ゼルス自身も危険であることは十分に理解した上で臨んだようだ。借金をし、強力な武具に身を固め、回復アイテムも上質なものを数多く揃えた。ギルドで仲間を見つけようとしたが、アイスドラゴンを相手にすると知って誰も見つけることが出来なかったらしい」
このときたまたまゼルスを監視していた王調の調査員が当時の彼のことを細かに記録していた。
「仲間がいないけど、ゼルスは行ったと?」
「そうだ。行った。それだけゼルスは焦っていたのだろう。エイミーを取られないために、彼女に相応しい男であるために、破れかぶれでゼルスはアイスドラゴンのいる北の関所に挑んだ」
「そして打ち勝った・・・?」
「そうだ。だが、アイスドラゴンとの戦いで負った傷が深く、すぐにはゼルスは動けなかった。ようやく満足に動けるようになったのは一年後だ」
シンはパラリと手元の資料に目を移す。
「治療に一年かかったが、そもそもが生きているのが奇跡というくらいの大怪我だったらしい。だが彼は生き返り、体を治している。想いの力というやつだろう」
「愛の力・・・と言って良いのかどうか・・・」
微妙な顔をして首を傾げるレイを見て、シンも頷く。
「ま、素直に愛の力と呼びづらいのは俺も同意だ」
そして二人は足を止める。
二人の前には少し薄汚れてはいるが、まだしっかり使えそうな屋敷が建っていた。
「ここが勇者ゼルスが今拠点としている屋敷・・・ですか」
庭の草木は手入れのされている様子はない、邸の入口までの道以外は荒れ放題であった。
「さぁ、行くぞ」
シンはそう言って屋敷の入口の扉を叩いた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る
はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。
そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。
幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。
だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。
はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。
彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。
いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。
ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手
Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。
俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。
そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。
理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。
※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。
カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる