勇者の処分いたします

はにわ

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魅了の勇者

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「また魅了の犠牲者?それも複数?しかも加害者は勇者だって?」


シンはレイからの報告を聞き、脱力のあまり膝から崩れ落ちそうになった。
ザっと並んだ要素だけで当面は休日はおろか睡眠さえも制限されそうな案件だった。今回これを受け持つのが自分かと思うと、シンはもはや生きた心地もしなかった。
当然、これは王調だけの問題ではなく、国家の認定勇者が起こした問題である以上は他の様々な機関との連携が必要となる。それだけならまだしも、最終的には責任の押し付け合いにもなるだろうことを考えると気の抜きどころもない。


「吐きそう・・・」


シンはげっそりとしながら、被害者が待つという部屋へトボトボと歩いていった。



ーーーーー


部屋では伯爵令息という身分の男が待ち受けていた。
普段は魅了関連の相談については中堅レベルの調査員が対応するのだが、今回は勇者関連でもあるために例外的にレイもその場に同席する。


「僕の妻が勇者に取られたんだ」


伯爵令息の訴えはこうだ。
令息には商家から迎えた結婚して一年の妻がいたが、彼女が勇者の持っている魅了スキルによって魅了され、家を出ていってしまったのだという。今では勇者パーティーに交じり一緒に冒険をしているらしい。


「あの男はある日突然現れ、妻を魅了し、連れ去っていったんだ!勇者であることを言い事に、町の憲兵もろくに手出しが出来なかった」


そう言って伯爵令息は来ている服の袖をめくった。そこには痛々しく残る切り傷が残っていた。


「憲兵も私兵も動かないから、妻を連れ去ろうとする勇者に私自身が立ち向かったんだ。だが、手も足も出なかったよ。ほんの一振りで私は動けなくなった」


その当時のことを思い出したのだろう、伯爵令息は目に涙を浮かべて怒りで震えあがった。


「その勇者様が、『魅了』を使ったという確証はありますか?」


伯爵令息とは反対に、シンはあくまで淡々と訊ねる。


「ある。複数の魔導士に鑑定してもらった。間違いなく妻は魅了されている」


通常、どの魔法もそうだが使うことにより目には見えない跡のようなものが残る。それらの鑑定書は裁判でも使用されるほどの証拠能力を持つが、伯爵令息はそういったことも見越してすぐに魔導士を手配して調べさせたようだった。


「これは誘拐だ。直ちに妻を勇者から取り戻してもらいたいのだ!」


シンは内心溜め息をついた。
何という厄介事か。今日はやはり厄日だわ!と。


「わかりました。一先ず我々はこれより対策を検討します」


王室調査室、その職務は多岐に渡る。
しかしこと認定勇者の案件に関しては、何にも優先して動かねばならないのがシンとレイであった。
それが魅了が絡む困難な案件であっても、彼らは立場上先陣切って動かなくてはならないのだ。


(くっ、吐きそうだ・・・)


シンの内心は全く穏やかではなかった。
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