勇者の処分いたします

はにわ

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そして伝説へ

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辺境の魔王が討伐され、やや間を開けてからラダーム国の新国王が誕生した。
新国王は元勇者エクス。
辺境の魔王を倒し、その功績とカリスマ性を認められ、異例中の異例でありながらラダーム国の新たな国王となったのだ。
寡黙な王ではあるが、臣下や民の言葉に真摯に耳を傾け、卒なく政をこなす一方で、外交面では本来格上のである隣国ラバースと同盟を結ぶなど歴代国王の中でも抜きん出た成果を見せる。
そしてラダーム国はそれからも平和を維持しつつ、繁栄していくと国民は確信していたのであった。











「今のところ、何とかうまくいっているな」


執務室にて教えを受けながら着々と執務に取り組んでいるエクスを見て、魔術師が小声で言った。


「あぁ、そうだな。ったく、見ている側はひやひやして気が気じゃないもんだ。早く交代の時間になればいいんだが」



エクスの周りには、護衛の騎士とは別に常に魔術師は二人はつくようになっていた。
かつてエクスが運び込まれた施設にいた魔術師達である。彼らはエクスの「監視役」であった。
彼らはエクスにかけた魔術が何かの拍子で解けないかを警戒している。

エクスにかけた魔術、それは『人格封印』の魔術だ。
かつてラダーム王の先祖が、始祖の勇者の力を称えながらも恐れたことで長年研究させ編み出して秘術であった。
始祖の勇者の血液を理由をつけて拝借し、その血液を元に研究を重ね、他の人間には効かない代わりに始祖の勇者の血統には効果が出る魔術を作り上げた。それが人格封印。

始祖の勇者の奔放さにはかつてのラダーム王室も頭を抱えていた。
圧倒的な武力を有してはいるが、気まぐれで型にはまらないその性格は脅威であったのだ。

最初に村へ行けと言えば無視して遠くの町へ行ったり、どんな鍵のついた扉でも開けることの出来る魔法の鍵を手に入れたかと思えば、城の宝物庫を勝手に開けて中身を頂戴する。勇者として認定はされたもののの、人格は完全にサイコパスではないか!と当時の王は恐れた。
たまたま人類の側に立ち、魔王を討伐する姿勢を見せているが、もし気が変われば逆に人類が滅亡させられる・・・そんな危うさを王は感じ取ったのだ。
「世界の半分をやろう」と持ち掛けられたなら、もしかして応じてしまうのではないか?などとも考えていた。


勇者の血はいずれまた怪物を生むかもしれんと危惧した王は、この生み出された「人格封印」の秘術を使う機会こそ無かったが、後世の王に必ず引き継がれるよう厳重に術式や修練法を保存するよう言い伝えた。

そして何世代も後となった今、その「人格封印」の秘術は始祖の勇者の子孫であるエクスに施された。
下半身問題に奔放過ぎて、これもまた世界の脅威を捕らえたラダーム王の苦渋の決断であった。人道上、あまりに問題のある決断だが、しかしラバース国もラダーム王のその決断を支持し、協力することになった。

両国の優秀な魔術師が集い、無事封印処置は完了した。
そして「人格封印」を施されたエクスは、以前のように自由気ままではなく、至って素直で我の強くない人間へと変身を遂げた。質問をしても「はい」か「いいえ」でしか答えないという噂も出るほどに自我に乏しい性格になった。

もはや完全に別人のようであったが、それはそれとして正妻のアローラも、妾のビアン、そしてジェシカもエクスを愛した。彼女達は奔放過ぎて危なっかしい元の性格よりは、今のほうがマシだと考えたようである。

元の勇者エクスは「封印」された。
元の人格の目覚めの時が来ることを恐れ、これからの常にエクスの周りには魔術師の見張りがつく。
誰もが思った。「魔王よりも質が悪い」と。
勇者エクスは事情を知らぬ国民からは「救世の英雄」として、全てを知る者からは「封印されし脅威の魔王」として語り継がれることとなった。
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