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勇者エクスは逃げ出した
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「すみません、ビアンと少し話をしてもよろしいでしょうか」
エクスはシンのそう申し出た。
「もちろんです」
必要なことだろうと、シンはそれを快く了承する。エクスとビアンは隣の部屋まで移動した。
「・・・」
隣の部屋まで移動してから、エクスはさりげなく窓から外の様子を伺った。外にはラダーム城から来たと思われる兵士が家を囲むようにして立っていた。万が一にもエクスが逃げ出さないようにと見張っているのだろう。彼らがいるからこそ、シンもエクスが二人きりで別室に移動することを許可したのだ。
「エクス・・・」
ビアンがエクスの名を呼ぶ。
不安そうな顔をしているビアンの肩を掴み、エクスは言った。
「こんなことになってすまない」
「エクス」
「何と言ったらいいか・・・」
エクスはビアンに言い訳を考えてばかりいたが、ビアンが聞きたいのはそれではなかった。
「それで、これからどうするの?」
「それは・・・」
エクスは口ごもる。答えは出ている。だが、それはビアンにはとても伝えづらいものだった。
それでも言わねばならない。時間もそれほど残されていない。そう考え、意を決してエクスは口を開いた。
「俺はビアン以外を妻にするつもりはない」
ビアンとの事実婚前とはいえ、これだけ下半身問題をやらかしておいて図々しいことを言っているのはエクスも理解してはいたが、これが本心だった。
「国を出ることになるが、二人で逃げよう。そこで新しい生活をしよう・・・」
「・・・本気?」
「本気だ。俺はビアンとだけ暮らしていたいんだ。王宮だなんて冗談じゃない・・・」
「エクス・・・」
そうエクスの名を呟くビアンは、彼の想いを聞いて感激しているのかと思った。
だがそんなわけはなかった。
「王女様のお腹にいる子はどうするの?」
「・・・それは」
ビアンの質問に、エクスは答えに窮する。
「エクスの性格を考慮して、国王様も王女様も妥協できるところまで妥協してエクスを受け入れようとしてくれてる。他国の貴族様だって平民落ちしてまでエクスとの生活を望んでる。それでもエクスは逃げるの?」
「・・・だが」
「私が愛したのは、そんな無責任で情けないエクスじゃない!」
この期に及んで自分だけとの愛を望み、他者からの責任や想いから逃げ出すことしか考えないエクスという男に対し、ビアンが抱いた感情は『軽蔑』であった。
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