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勇者キラの衝撃
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マリアに追放を言い渡した後、キラは酒場に残って酒に口をつけていた。
複雑な思いが胸を駆け巡るが、既に事を成してしまったのだ。もう考えていても仕方がない。
キラが勇者として認定された以上、これまで以上に危険な依頼などが舞い込むことになるし、非戦闘員の一般人をいつまでも一緒に旅には連れていけない。
今そうしなくても、いつかは決断しなければいけないことだったのだ。仕方がないじゃないか。
キラは自身にそう言い聞かせていた。
「邪魔するぜ」
そこへ大柄な男が一人やってきた。
「バットン」
キラは男の名を呼んだ。
男の名はバットン。勇者キラのパーティーに3年以上前から属している古株の剣士である。二人は同世代であるが、体の線も細めで、どこか中世的な色気を持つ顔のキラとは正反対で、バットンは体も筋骨隆々で、顔つきもやや厳つい。あべこべのような二人組だが、戦闘になると実に息が合った。
無名時代に旅先の酒場で意気投合し、そのまま勇者認定されるまで酸いも甘いも嚙み分けあった仲である。
キラからすればマリアの次に心の許せる仲間であった。
勇者キラのパーティーはキラ、バットン、リリアナ、マリアの四人で構成されていた。
「やぁ、今日はこれから用があるから長居はできないけど、少し飲むかい」
キラはニコリと笑ってバットンに着席を促す。
しかし、バットンはピクリとも動かず、ただ無表情でキラを見下げるだけであった。
「・・・なんだ?一体どうしたんだい」
そんなバットンの態度を怪訝な表情で見つめるキラだったが、次のバットンの一言で絶句することになった。
「キラ。俺は今日限りでこのパーティーを抜けさせてもらうぞ」
「・・・は?」
茫然とするあまり手に持っていたコップを思わず放しそうになり、慌ててキラは持ち直した。
「実はキラがマリアさんをパーティーから追放したときから酒場にはいたんだ」
バットンの言葉に、キラは苦虫をかみ潰したような顔をする。
見られてしまったか。翌日にでもどうにか角が立たないような言い分を考え、マリアの追放をバットンに話そうと思っていたのに。
「バットン、僕たちの冒険にマリアはそろそろついてこれなくなっているんだ。仕方がないんだ」
最もらしいことを言ってキラはとりあえずバットンの反応を伺う。
「今更だろう。例えどれだけ危険でも、あの人は最後までついていきたいと言っていた」
「だが、現実は・・・!」
「黙れ」
キラの言葉をバットンは遮った。
「適当な言い訳は聞きたくない。興味はない。どうせリリアナに唆されたとかだろう?」
「なっ・・・!」
激昂して思わず立ち上がるキラだが、バットンはもう相手にする気すらないようで、既に踵を返していた。
「さようなら、だ」
それだけ言ってバットンは去っていく。
バットンは情に厚い男であった。口論が高じての殴り合いの喧嘩とて何度もした。
だがそれもバットンが仲間と認識した相手のみで、喧嘩もお互いを知るための手段の一つとしてまで考えていた。
反面、本当に興味のない相手とは喧嘩はしない。関わろうとしない。そうしたストイックな面があった。
喧嘩をする価値もない。深く仲間として一緒にやってきたバットンに、そう区別されたことに衝撃を受けたキラは、遠ざかる背中についに一言も声をかけることができなかった。親友を失ったのだ。
----------
二人のその様子を別の席から眺めている二つの影があった。
「剣士バットン、どうやら物別れによりパーティーから離脱ですね」
「そのようだな。今本部からも通達が入った。現時刻を持って№26・・・『勇者キラ』より『勇者』の称号を剥奪するーーーと」
複雑な思いが胸を駆け巡るが、既に事を成してしまったのだ。もう考えていても仕方がない。
キラが勇者として認定された以上、これまで以上に危険な依頼などが舞い込むことになるし、非戦闘員の一般人をいつまでも一緒に旅には連れていけない。
今そうしなくても、いつかは決断しなければいけないことだったのだ。仕方がないじゃないか。
キラは自身にそう言い聞かせていた。
「邪魔するぜ」
そこへ大柄な男が一人やってきた。
「バットン」
キラは男の名を呼んだ。
男の名はバットン。勇者キラのパーティーに3年以上前から属している古株の剣士である。二人は同世代であるが、体の線も細めで、どこか中世的な色気を持つ顔のキラとは正反対で、バットンは体も筋骨隆々で、顔つきもやや厳つい。あべこべのような二人組だが、戦闘になると実に息が合った。
無名時代に旅先の酒場で意気投合し、そのまま勇者認定されるまで酸いも甘いも嚙み分けあった仲である。
キラからすればマリアの次に心の許せる仲間であった。
勇者キラのパーティーはキラ、バットン、リリアナ、マリアの四人で構成されていた。
「やぁ、今日はこれから用があるから長居はできないけど、少し飲むかい」
キラはニコリと笑ってバットンに着席を促す。
しかし、バットンはピクリとも動かず、ただ無表情でキラを見下げるだけであった。
「・・・なんだ?一体どうしたんだい」
そんなバットンの態度を怪訝な表情で見つめるキラだったが、次のバットンの一言で絶句することになった。
「キラ。俺は今日限りでこのパーティーを抜けさせてもらうぞ」
「・・・は?」
茫然とするあまり手に持っていたコップを思わず放しそうになり、慌ててキラは持ち直した。
「実はキラがマリアさんをパーティーから追放したときから酒場にはいたんだ」
バットンの言葉に、キラは苦虫をかみ潰したような顔をする。
見られてしまったか。翌日にでもどうにか角が立たないような言い分を考え、マリアの追放をバットンに話そうと思っていたのに。
「バットン、僕たちの冒険にマリアはそろそろついてこれなくなっているんだ。仕方がないんだ」
最もらしいことを言ってキラはとりあえずバットンの反応を伺う。
「今更だろう。例えどれだけ危険でも、あの人は最後までついていきたいと言っていた」
「だが、現実は・・・!」
「黙れ」
キラの言葉をバットンは遮った。
「適当な言い訳は聞きたくない。興味はない。どうせリリアナに唆されたとかだろう?」
「なっ・・・!」
激昂して思わず立ち上がるキラだが、バットンはもう相手にする気すらないようで、既に踵を返していた。
「さようなら、だ」
それだけ言ってバットンは去っていく。
バットンは情に厚い男であった。口論が高じての殴り合いの喧嘩とて何度もした。
だがそれもバットンが仲間と認識した相手のみで、喧嘩もお互いを知るための手段の一つとしてまで考えていた。
反面、本当に興味のない相手とは喧嘩はしない。関わろうとしない。そうしたストイックな面があった。
喧嘩をする価値もない。深く仲間として一緒にやってきたバットンに、そう区別されたことに衝撃を受けたキラは、遠ざかる背中についに一言も声をかけることができなかった。親友を失ったのだ。
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二人のその様子を別の席から眺めている二つの影があった。
「剣士バットン、どうやら物別れによりパーティーから離脱ですね」
「そのようだな。今本部からも通達が入った。現時刻を持って№26・・・『勇者キラ』より『勇者』の称号を剥奪するーーーと」
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