1 / 54
勇者キラによる追放
しおりを挟む
「マリア、申し訳ないけど、ここらでパーティーを抜けてはもらえないか?」
冒険者ギルドに併設されている酒場の一席で、パーティーのリーダーである勇者キラは対面に座るマリアに向かって気まずそうな顔をしてそう言った。
「これからどんどん冒険も苦しく危険なものになるし、マリアが危険になる。それに国が助成金を出してくれるパーティーの仲間の人数ももう制限いっぱいいっぱいだし、マリアの分を空けて優秀な治療師を補充しておきたいんだ」
「・・・そ、そう・・・やっぱりね」
追放を宣言されたマリアは、ショックを受けていながらも、それでも心のどこかで準備は出来ていたようで、あまり反論はしなかった。
マリアは19歳。キラの2つ上の幼馴染で、同じ村の出身であった。
そのころからキラの面倒を良く見ており、やがてキラが村の教会のお告げにより勇者を目指す旅に出ることになったときも、非戦闘員でありながらも彼の役に立ちたいとついていった。食事、買い出し、情報収集、荷物持ち、サポーターとして全力でキラを支えてきたが、その甲斐あってかキラは王国より一年半前に勇者と認定されるに至った。
マリアはこれを自分のことのように喜んだ。キラもマリアに感謝の言葉を述べ、実際にその念を忘れることはなかった。
だが、キラが勇者となって旅に同行する仲間の質が上がってくると、やがてマリアの存在価値が薄れるようになった。
今後も敵のレベルは上がり、冒険はより危険なものになる。そんな場所にマリアを連れて危ない目に遭わせたくないという気持ちがある一方・・・「足手まといで邪魔」こういう気持ちもキラにはあった。
細々と雑用をこなしてくれるといっても、やはり非戦闘員。これなら雑用を皆で分担することにして、代わりに戦闘が出来る優秀な人材を入れたほうがいいのである。
キラは勇者として認定され、国から様々な特権を得られる。
強力な仲間が増え、以前よりも綿密な情報収集も必要ではなくなった。国からの助成金があるので買い物も欲しいものを欲しいものだけ買うことができる。
もうマリアがいたときのように財布の管理をお願いなんてしなくてもいいのだ。
これまでマリアがこなしてきた雑用そのものも、皆で分担すれば大した負担になるものではないとキラは考えていたのだ。
「ねえキラ。本当に、本当にもう私は必要じゃない?私がいなくて大丈夫?」
マリアは最後にキラにそう問いかけていた。
小さな頃から大好きだったキラの元を離れたくない、しかし、足手まといにもなりたくない。
決断し切れないマリアの未練がこれを言わせていた。
「大丈夫だよ・・・僕はもう子供じゃない。大丈夫さ」
キラのその言葉を聞いて、マリアは目にうっすらを涙を浮かべるも、すぐさまそれを拭って気丈に笑い、椅子から立ち上がった。
「そう!それじゃあ、寂しくなるけど、これからも頑張ってね。応援しているから」
「ごめん・・・」
立ち上がってから急いで店を出て行ったマリアには、顔を背けて小さく言ったキラの謝罪の声が届くはずもなかった。
冒険者ギルドに併設されている酒場の一席で、パーティーのリーダーである勇者キラは対面に座るマリアに向かって気まずそうな顔をしてそう言った。
「これからどんどん冒険も苦しく危険なものになるし、マリアが危険になる。それに国が助成金を出してくれるパーティーの仲間の人数ももう制限いっぱいいっぱいだし、マリアの分を空けて優秀な治療師を補充しておきたいんだ」
「・・・そ、そう・・・やっぱりね」
追放を宣言されたマリアは、ショックを受けていながらも、それでも心のどこかで準備は出来ていたようで、あまり反論はしなかった。
マリアは19歳。キラの2つ上の幼馴染で、同じ村の出身であった。
そのころからキラの面倒を良く見ており、やがてキラが村の教会のお告げにより勇者を目指す旅に出ることになったときも、非戦闘員でありながらも彼の役に立ちたいとついていった。食事、買い出し、情報収集、荷物持ち、サポーターとして全力でキラを支えてきたが、その甲斐あってかキラは王国より一年半前に勇者と認定されるに至った。
マリアはこれを自分のことのように喜んだ。キラもマリアに感謝の言葉を述べ、実際にその念を忘れることはなかった。
だが、キラが勇者となって旅に同行する仲間の質が上がってくると、やがてマリアの存在価値が薄れるようになった。
今後も敵のレベルは上がり、冒険はより危険なものになる。そんな場所にマリアを連れて危ない目に遭わせたくないという気持ちがある一方・・・「足手まといで邪魔」こういう気持ちもキラにはあった。
細々と雑用をこなしてくれるといっても、やはり非戦闘員。これなら雑用を皆で分担することにして、代わりに戦闘が出来る優秀な人材を入れたほうがいいのである。
キラは勇者として認定され、国から様々な特権を得られる。
強力な仲間が増え、以前よりも綿密な情報収集も必要ではなくなった。国からの助成金があるので買い物も欲しいものを欲しいものだけ買うことができる。
もうマリアがいたときのように財布の管理をお願いなんてしなくてもいいのだ。
これまでマリアがこなしてきた雑用そのものも、皆で分担すれば大した負担になるものではないとキラは考えていたのだ。
「ねえキラ。本当に、本当にもう私は必要じゃない?私がいなくて大丈夫?」
マリアは最後にキラにそう問いかけていた。
小さな頃から大好きだったキラの元を離れたくない、しかし、足手まといにもなりたくない。
決断し切れないマリアの未練がこれを言わせていた。
「大丈夫だよ・・・僕はもう子供じゃない。大丈夫さ」
キラのその言葉を聞いて、マリアは目にうっすらを涙を浮かべるも、すぐさまそれを拭って気丈に笑い、椅子から立ち上がった。
「そう!それじゃあ、寂しくなるけど、これからも頑張ってね。応援しているから」
「ごめん・・・」
立ち上がってから急いで店を出て行ったマリアには、顔を背けて小さく言ったキラの謝罪の声が届くはずもなかった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。
のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。
俺は先輩に恋人を寝取られた。
ラブラブな二人。
小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。
そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。
前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。
前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。
その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。
春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。
俺は彼女のことが好きになる。
しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。
つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。
今世ではこのようなことは繰り返したくない。
今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。
既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。
しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。
俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。
一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。
その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。
俺の新しい人生が始まろうとしている。
この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。
「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが
別に気にも留めていなかった。
元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。
リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。
最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。
確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。
タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。
親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~
くろの
ファンタジー
毎日更新!
葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。
職業 : 引きこもりニート。
親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。
異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。
しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。
だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。
そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い――
果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。
サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる