『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

文字の大きさ
上 下
501 / 508
賢者リノア

役目

しおりを挟む
ゴウキがトマスを折檻していたその頃、トマスの転送トラップで飛ばされていたスミレは少々時間こそかかったが、どうにか転送先から元いた屋敷のあるところまで戻ってきた。


「ちっ、だいぶ遅れちまったな」


スミレもゴウキと同じように、特別性の檻と魔物によって逃走できないようにされていたが、それでもそこはギルドでも図り切れない超一流の冒険者。若干時間はかかったが、どうにか拘束から抜け出すことに成功した。
しかし、今のスミレは脱出出来たことの安堵より、罠にしてやられたことに強い憤りと焦りを感じていた。


「ああ、くそ!アタシの馬鹿が!!」


トラップを見破るのは斥候職を極めたスミレの役目。
完璧にトラップを見破っていたつもりだった。だが、思えばそれらは全てスミレを油断させるための囮であり、手玉に取られたことを認めざるを得ない。
サポートは万全に。
そうすることでゴウキを支えなければならないのに失敗してしまったと、その自責の念がどうしようもなくスミレを苛立たせていた。


(まずはアタシだけでもッ!)


スミレは全速力で駆ける。
常人ならば、影をチラ見できるかどうか程度にしか視認できないほどの、まさに風のような超快速。
他の仲間がまだ脱出できていなくても、まずは自分だけでも館へ向かい、黒幕をぶっ潰してやるとスミレは息巻いていた。


(ブッ殺す!)


コケにされてプライドを傷つけられたこと、そして自分の不注意で仲間を危険に巻き込んでしまったことが、スミレの頭を忍者に相応しくない沸騰したものに変えている。
だが、それでも怒り心頭でいるようでいてどこか冷静な部分が残っていたのだろう。スミレは超速で通り過ぎる景色の中で、一つのあるものに気付くことが出来た。


「あれは・・・」


スミレが見つけたのは、ゴウキによってぶちのめされた冒険者。
強烈な一撃は顔面の骨を砕き、もはや回復魔法でもキレイに再生するのは不可能なほどの重症を負ってのびていた。
スミレはそれを見て、ゴウキが既に自分と同じように転送先から戻ってきていることに気付いた。


(出遅れたか!)


自分のミスのリカバリーをゴウキに押し付けてしまっていないか、そんなことを考えながら走っていると、今度はまた違うものを発見する。


「あれは・・・」


スミレの目に入ったもの・・・
それは、セントラルギルドの職員を担ぎ上げて運んでいるゴウキ・ファミリーの舎弟達だった。


「うおっす姐さん!」


「怪しい動きしてたセントラルギルドの職員、とっちめておきましたぜ!」


スミレに気付いた舎弟達が得意そうに言うのを見て、スミレは自分がとことんで遅れてしまっていたことに愕然とするのであった。
罠を見破るのも、それによって発生したミスをリカバリーするのも、自分の役目全部持ってかれてましたーという衝撃。「あれ、これもしかして全部終わってます・・・て感じじゃね?」と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...